不安

 さて、野外演習当日。

 さすがに王国の外に出れるので、サボリはいない。

 ちなみに今のところ、クラスから脱走者は出ていない。よくわからんけど、脱走防止のために生徒たちをスキルでマークしているとか……まあ、発信機が付いてるようなもんだ。

 今日は野外演習なので、王国が用意した軽鎧を装備する。

 着替え中、為朝が言う。


「慧くん、脱走者がいないっていいね」

「なんだよいきなり」

「だってさ、こういうシチュで脱走するヤツって、スキルを隠しているやつとか、脱走して自分勝手に生きるやつとかだよね」

「そうだな。俺、めっちゃ目の敵にされてるし、脱走して世界を巡る冒険でもしようかな……」

「ハッ……それで、盗賊に襲われている馬車を救って、中にいる姫君と恋に落ちたり、奴隷の獣人少女に懐かれたりして一緒に冒険ってか? 宿に泊まるも部屋が一つしか空いていない、一緒のベッドで寝るもヘタレだから手を出せないクソ度胸ナシが!!」

「何言ってんだお前……ってか、そんな異世界あるあるシチュ期待してないっつーの」


 急にキレる為朝を小突き、俺は装備を整え更衣室を出た。

 外に出ると、黒鉄レオンたち四人が談笑していた。

 荷物はリュック。中には野営道具が入っている。いちおう、チームで分担しての荷物なんだが……なんか、俺のチームの女子二人は手ぶらで、荷物はみんな俺が持ってる気がする。

 俺のリュックめちゃくちゃデカいのに、レオンとか鎧塚のリュック小さいし。


「おせーぞ、有馬!!」

「ああ、悪い」

「フン、謝るならみんなにちゃんと謝りなさいよね」

「ああ、悪かった」

「まあまあ、さて……みんな揃ったね。相川、鎧塚、レイナ、用意はいいかい?」

「うん。レオンくん」


 なんか俺がハブられてるんだが……まあいい。

 すると、アリアさんが現れた。


「皆、揃ったな!! 事前に配布した地図を見ろ。そこにマークが記してあるだろう。各チームでその位置に向かい、ゴブリンの森にアプローチ、ゴブリンを二十体倒し、戻ってくる。これが演習の内容だ」


 なるほど……全員でゾロゾロ森に向かうんじゃなくて、城からスタート、チームごとに別々の入口に入り、ゴブリンを倒し戻ってくる、って感じか。


「期限は一週間。ここから森までは丸一日で行ける。いいか、ゴブリンは最弱の魔獣と言われるくらい弱い……だが、決して油断するな!! では、始め!!」


 というわけで、ゴブリンの森へゴブリン退治が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さっそく、俺たち五人は城を出て、城下町を抜け、正門を通って国を出た。


「へえ……こうしてみると、本当にファンタジー世界の正門だな」


 正門を見上げながら呟く。当然、誰からも返事はない。


「ふむ……街道沿いに進めば問題なく行けそうだ。今日は川沿いでキャンプして、明日のゴブリンの森に入ろう」

「うん。ね、レオンくん……ゴブリンって、どんな魔獣?」

「弱い小鬼だよ。小学生くらいの大きさで、そこそこすばしっこいけど、今のオレたちなら楽勝さ」

「う、うん」

「レイナ、心配するなって。オレが守るからさ」

「レオンくん……ありがとう」

「セイラ、セイラはオレが守るぜ!!」

「……ありがと」


 おーいそこ、俺を無視して主人公パーティーやらないでくれ。

 なんか、世界が違うなあ……ってか、俺を無視して歩き出したし。


「とりあえず……」


◇◇◇◇◇◇

有馬ありま けい

〇スキル『模倣コピー』 レベル20

・現在『聖女セイント』 レベル7

〇パッシブスキル

・オートヒール ・幸運上昇

〇使用可能スキル

・神聖魔法

〇スキルストック

・勇者・聖女・賢者・相撲取り・格闘家

・弓士・ボクサー・レスラー・盗賊・弁護士

 ◇◇◇◇◇◇


「……まあ、前衛がいるし、『聖女』のままでいいか。ってか弁護士を消すの忘れてた」


 スキルストックは十個までできるようになった。

 使えそうなスキルを残しておいたが、弁護士はいらなかったかな。

 よくわからんけど、このスキル……地球での影響受けまくってるのか、レスラーとかボクサーとかあるんだよな。

 ちなみに、俺はこの画面を『ステータス画面』と呼んでいる。


「ステータスオープン!!」


 手をかざし、声を出してみた……クッソ恥ずかしいなこれ。

 当然、画面は出ない。脳内にこの画面が表示され、脳内のポインタを操作して項目を選ぶと、その詳細が表示されるのだ。

 おっと、こんなバカなことやってる場合じゃない。


「さーて、行きますか」


 俺はリュックを背負いなおし、歩き出した。

 でもまあ……この時は思いもしなかった。

 まさか、次に戻ってきた時……とんでもないことになるなんて。


 ◇◇◇◇◇◇


 歩くこと二時間。

 俺の少し前で四人が歩き、わいわい談笑している。

 すると、夢見が俺の方に来た。


「ね、有馬くん……ちょっといい?」

「ん、なに」

「あのね……ゴブリンの森でだけど、有馬くんは何もしないでほしいの」

「……え、なんで」

「あのね、レオンくん……すごく張り切ってるの。だから、レオンくんに頑張ってほしいの。有馬くん、すっごく強いんだよね? だったら、何もしなくても大丈夫だよね」

「……別にいいけど」

「本当? ありがとう!!」


 そう言って、夢見レイナはレオンの方へ戻った。


「…………なんというか、お気楽だな」


 別に、黒鉄レオンが大活躍して、クラスのヒーロー、主人公になるのはいい。

 でもさ……ここは異世界で、お約束な展開とか期待してるのかもだけど、死んだら終わりの現実なんだぞ?

 漫画やラノベでは、俺みたいなチートが「え、俺やっちゃいました?」みたいな無双するけど、実際では生き残るために必死に戦うぞ。

 そもそも、戦えるのか?

 俺らみたいな子供、熊とかライオンを前に「やるぜ!!」なんて気持ちになるか? 動物でさえ怖いのに、得体の知れない魔獣とか相手にできるのかよ。


「あ~……異世界あるある、嫌だ」


 エンターテインメントで楽しむのはいい。でも、ここは現実だ。

 こいつら死んだらどうしよう……俺、やっぱ追放されるのかな。

 とりあえず……死なないよう、頑張ろう。

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