野外演習へ向けて

 この世界に来て二か月、だいぶ生活にも慣れた。

 まず、朝飯の時間……以前はみんなで揃って食べていたが、やはり生活スタイルがあるのか、食べるヤツと食べないヤツに分かれるようになった。

 まあ、それは別にいい。

 

 次に、訓練をサボるやつも出てきた。

 やっぱり、ある程度スキル慣れして、自分が強いと錯覚しちゃうのか……訓練をサボって城下町に出て遊んだり、アリアさんや他の兵士から金を借りて遊ぶやつも出た。

 そして飲酒……異世界あるあるなのか、この世界に飲酒の年齢制限がない。煙草吸うヤツも出てきたし、ふつーに酒飲むやつもいる。


 黒鉄レオンも、酒を飲むようになった。

 そして異世界あるある……娼館に通ったりするやつもいる。

 でも、そういうやつに限ってスキルが強かったりする。

 

 ちなみに、現在の俺……レベル20になった。

 黒鉄レオンはレベル10で、他の連中も5~8くらいまで伸びている。はっきり言ってかなり強い。

 アリアさんもレベル7だ。王国では最強らしいけど、もうレオンには勝てない。

 山田先生もレベル8だし……みんな強くなった。


 そして今日。

 訓練場に来たのは十五人くらい。他はサボリとか、体調不良とかで休み。

 アリアさんが盛大にため息を吐いた。


「日に日に、サボリが増えるな……ケイ、何とかできないか?」

「俺に言われても……」

「アリアさん。一つ、提案があります」


 と、黒鉄レオンが言う。


「サボるのは、みんながこの環境に慣れ始めたからだと思います。今はずっと王城の訓練施設での摸擬戦ばかりですし……見聞を広めるために、野外訓練をするのはどうでしょうか」

「なるほど、いい意見だな……よし」


 アリアさんは「自主練だ」と言って訓練場を後にする。

 すると、夢見レイナが俺の傍に来た。


「ね、有馬くん……アリアさんと、どういう関係なの?」

「は?」


 いや……なにこいつ。いきなり何を言い出すんだ?

 

「二か月も経つのに、未だにアリアさんはレオンくんじゃなくて、有馬くんを頼るし……もしかしたら、って思って」

「……いやいやいや。あり得ないし」

「……ほんと?」

「ほんとに本当。ってか、俺としても困る」

「……なら、いいけど」


 どこか不満そうな顔で、夢見レイナは俺を一瞥してレオンの元へ。

 

「参ったなあ……」


 黒鉄レオン、夢見レイナ、相川セイラ、鎧塚金治。

 この四人と俺の五人チームなのだが、未だに俺は仲間と認められていないのか、微妙にハブられている……まあ、別にいいんだが。

 俺だけレベルが高いとか、アリアさんが必ず最初に俺の意見を聞くとか、そんなしょーもない理由でハッブってるのだ。いや別に仲良くしたいわけじゃないけど。


「ヘイ慧くん!! 調子はどうだい?」

「いや普通。お前は?」

「ふっふっふ。どうだい……相撲、やらないか?」

「……」


 いきなり四股を取り始める為朝。こいつ、相撲取りレベル3になって、幕下レベルの強さになったとか……すまん、相撲の階級よくわからん。

 ちなみに、俺のスキルストックに『相撲取り』はあるが、レベルは1のままだ。

 スキルを消去して、再度為朝から『相撲取り』をコピーすると、コピーした『相撲取り』もレベル3になる。

 つまり、俺の『摸倣』レベル20と、為朝の『相撲取り』レベル3が合わさり、スキルセットすると俺は『相撲取り』レベル23の強さを得られるのだ。

 ちなみに相撲取りレベル23だと前頭……強いんだよな?

 

 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 クラス全員が集められた。アリアさんの隣に立つのはレオン、夢見の二人。

 アリアさんが言う。


「えー……皆が訓練を始め二か月。レベルも上がり、摸擬戦だけでは足りなくなってくる頃だ。なので、野外演習を行うことになった」

「みんな、今度の野外演習は、初の実戦だ。命を落とす危険もある……どうか、真面目にやってほしい」

「私からもお願いします。私の力で怪我は治せるけど、死んだら治せないから……」


 俺、蘇生魔法使えます!! って言ったら注目浴びるだろうな……絶対言わんけど。


「レオンがこれだけ言ってるんだ。みんな、真面目にやってよね」

「そうだ!! サボってる野郎を次に見たら、オレがブチのめすからな!!」


 おお、相川セイラと鎧塚金治が立ち上がって援護射撃だ。

 当たり前のようにレオンたちの隣に並び、いかにもリーダーとその取り巻きっぽくなる。

 アリアさんは咳払いする。


「いかに強力なスキルでも、使いどころを間違えれば死に繋がる。野外演習で、そのことを感じてほしい。そして……野外演習を終えたら、いよいよ魔王軍との戦いが始まる。皆、頼むぞ」


 そっか……魔王との戦いか。

 帰るためにも頑張らないといけないんだよな。


「ケイ、いざという時は頼むぞ」

「え、あ……は、はい」


 アリアさん……空気読んでくれ!! ここでレオンたちじゃなく俺を頼るとか言わないで!! おかげでみんなの前に立つレオンたちが、俺をジロッと睨んでるじゃんん!!

 山田先生の隣で小さく体育座りしてたのに……また視線を浴びてるよ。


「ふっ……慧くん、やはりきみが真の主役だね」

「為朝、静かにしてくれ……マジで」


 こうして、野外演習を行うことになった。

 場所は、『常世の森』から離れた場所にある『ゴブリンの森』……その名の通り、様々なゴブリン種が現れる森だ。

 ゴブリン……どうも、嫌な予感しかない。


「ふっふっふ。ゴブリンは皆殺しだ」

「頑張れよ相撲取り。ゴブリンってすげぇ臭いらしいけど、がっつり組み合えよ」

「えええええ!?」


 為朝に適当なアドバイスをして、俺は来たるべき野外演習にうんざりするのだった。

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