いろいろ規格外でした

 というわけで翌日。

 着る物もないので制服に着替え(寝巻と下着はもらった)、部屋の外で待機していたメイドさんに案内されて朝食会場へ。

 朝食……以外にも普通だった。パンに目玉焼きに、なぜか味噌汁っぽいスープ……あ、合わねえ。

 みんなも同じこと考えてたのか、為朝が俺に言う。


「慧くん慧くん、これ味噌汁だよね」

「味はそんな感じだな」

「くっ……パンはふつーのパンだし、ジャムもあるし!! でも味噌汁ってどういう組み合わせよ!?」

「朝からうるさい。ってか、どうでもいいだろ。食えるだけ感謝しろよ」

「まあ確かに。現地人知識無双はまた今度にするか」


 なんじゃそりゃ。

 食事を終えると、食器がメイドさんたちに片付けられた。

 そして、姫様……やべ、名前わかんねえ……と、騎士っぽい鎧を着たポニーテールの女性が前に出る。


「初めまして諸君。キミたち稀人のスキル訓練を担当することになった聖騎士、アリアだ。よろしく頼む」

「お、女騎士!! うおお、女騎士だよ慧くん!!」

「デカい声で俺の名前呼ぶな。同類だと思われるだろ!!」


 為朝のアホはアホみたいに目立った。

 女騎士……アリアさんはクスっと微笑む。


「さて、まずはキミたちに宿る『スキル』について説明しよう」


 ◇◇◇◇◇◇


 スキルとは、女神が与えた奇跡の力。

 この世界の人間にも奇跡は宿る。だが、その確率は千人に一人とかそんなレベル。

 だが、『召喚』によってこちらの世界に来た人間には、必ずスキルが宿る。

 

 スキルは、強力な力である。

 この世界でスキルを使う人間は、だいたいが権力者か、冒険者と呼ばれる組織に属する人間だ。しかも、スキル持ちの冒険者はたいていが『クラン』という組織を率いて……この辺は関係ないと割愛された。ちょっと残念。


 スキルはいくつか種類がある。

 まず、職業系スキル。『剣士』や『聖騎士』のような、武器を持ち戦う職業のスキルだ。これは魔力を消費し、様々な『技』を発動させることができる。

 

 そして、特殊スキル。『聖女』や『勇者』や『賢者』のようなスキルを特殊スキルといい、この世界で持っている人間はほぼいない。ちなみに、俺の『模倣』も特殊スキルだ。


 スキルにはレベルがある。

 レベルが上がれば魔力や体力も増え、使用できる『技』も増える。

 レベルが上がると技が増えるって、マジでゲームみたいな設定だ。

 ここまでがスキルに関しての説明。


 そして次……この世界の脅威。

 

 この世界は、『魔王デスレクス』とかいう魔族に支配されかけている。

 そのデスレクスは、配下を率いて人間界の領地を半分ほど支配し、残りの領地を奪おうとしているとか……テンプレすぎる。

 で、魔族はみんなスキル持ちで、普通の人間じゃ歯が立たない。

 なので、禁じられたスキルである『召喚』を使い、俺たちを呼んだとか。

 俺たちは魔王デスレクスを倒す。そうすれば、デスレクスの魔力を利用して、もう一度『召喚』を使える。その力で、日本に帰ることができるとか。


 テンプレだろ……なんだよ魔王って。

 

 ◇◇◇◇◇◇


「以上だ。何か質問はあるか?」


 頭が痛いんで部屋に帰っていいですか? 

 そう言いたかった……運が悪い。


「慧くんどうした?」

「……いや、召喚するならさ、俺らみたいな普通の高校生とかじゃなくてさ、社会人プロレスプ団体とか、ボクシングジムとかにいる人を召喚すればいいのに……なんて」

「それじゃつまんねぇよ!!」

「うるせ。ってか考えること多いんだよ……ただでさえ、俺のレベル10なんだぞ」

「え」

「昨日、パーティー会場にいる人たち『模倣コピー』しまくったら、レベル上がったんだよ」

「ええええええええ!? 慧くん、レベル10ってマジ!?」

「声デカい!! ───……あ」


 やべ……会場内の視線が刺さりまくってる。

 すると、アリアさんが。


「レベル10、だと……? そこのキミ、本当なのか!?」

「え、あ、ああ……はい」

「鑑定、鑑定を呼べ!!」


 うぁぁ……めんどくさいことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺らのスキルを鑑定した人が俺をジーっと見る。


「……間違いありません。レベル10ですね」

「馬鹿な……いや、これが勇者なのか?」


 し、視線痛い……ってか、なんでわざわざ王様の前に移動して『鑑定』受けてんのよ。

 姫様もいるし、王様もめっちゃ見てるし、クラス全員、先生、壁際にびっしり並んでる騎士たち……この部屋だけで百人くらいいるぞ。


「しかもあなた、スキルをいくつも持っていますね?」

「え、ええ……レベル上がって、『スキルストック』とかいう技を覚えて……今あるのは、勇者と聖女と賢者と相撲取りです」

「な、なんと……しかも、『模倣』レベルが10なので、ストックしたスキルもそれに合わせて変動するようですね」

「は、はあ……」

「少し、試しましょう……」


 鑑定人がアリアさんと何か話し、出て行った。

 それから数分後。担架に乗った今にも死にそうな怪我人と一緒に戻ってきた。

 いやいや、なになに、なによこれ。

 

「ケイくん、だったかな。キミのスキルを『聖女』にすることはできるか?」

「え、ええ……スキルチェンジ」


 ◇◇◇◇◇◇

有馬ありま けい

〇スキル『模倣コピー』 レベル10

・現在『聖女セイント』 レベル10

〇パッシブスキル

・オートヒール ・幸運上昇

〇使用可能スキル

・神聖魔法

〇スキルストック

・勇者・聖女・賢者・相撲取り

 ◇◇◇◇◇◇


「……素晴らしい。『聖女』のスキルを得ています」


 脳内に浮かぶこの画面。

 俺は『神聖魔法』の項目を選びタッチ……マジでゲーム画面みたいだ。


 ◇◇◇◇◇◇

〇神聖魔法

・キュア ・オールキュア ・ディスポイズン

・ディスパラライズ ・ハイキュア ・レイズ

 ◇◇◇◇◇◇


 れ、レイズって……まさか、蘇生できるんじゃないだろうな。

 とりあえず『キュア』を選択し、右手を怪我人に向けた。


「きゅ、キュア~……」


 すると、怪我人の身体が輝き、傷が消えた。

 いきなりガバッと起き上がり、自分の状態を確認。


「け、怪我が……消えた!? お、おおお……あ、ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

「い、いえいえ。どういたしまして……ははは」


 確信した。これ、チートだ。

 曖昧に笑うと、治った騎士は別の騎士に連れていかれた。めちゃくちゃ泣いてたし……まあ、いいことしたんだろうな。

 というか、視線が痛い。痛すぎる。


「すごい!! 慧くん、きみこそ主人公だ!!」

「うるせっ!! あ、あの~……」

「……ケイくん。キミこそ、真の救世主だ!!」


 アリアさんが俺の手を掴み、ぶんぶんと振る。


「いやいや、お、大袈裟ですよ」

「あ~……一つ、教えておきます。普通は、レベルを一つ上げるのに、最低でも十年は必要なんです」

「え」

「現在、この世界で最高のレベルは……神聖十字教会の枢機卿、ドレッドノート様のレベル8です」

「……は、はち?」


 低くね? ってか、ひとつあげるのに十年?


「そして、魔王のレベルは35です」

「……マジか」


 スキルを得てたった数時間でレベル10の俺……そりゃ、期待したくなるよね。

 だからこそ、俺は気付かなかった。


「…………ッ」


 クラスカーストグループ。

 黒鉄レオン、そしてその取り巻きたちが、俺を睨んでいることに。

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