第174話 男子は待機で
アイカの黄金色の瞳と、クリストフの同じく黄金色の瞳が、ぶつかり合った。
意を決したことが、その表情からも窺えるアイカの次の言葉を、その場を囲む皆が待った。
「私はザノクリフ王国に行きます」
「そうか……」
と、喜色を浮かべたクリストフを、アイカが手で制した。
「ただし、私は今、リティア
決然と語るアイカを、まるで別人に生まれ変わったかのように感じるアイラは、驚きの視線で見詰めた。
――立場が人をつくったのか、元々、秘めたる資質があったのか……。
二人でヒソヒソとサバトで語り合い、クレイアのおっぱい大きくてキレイと目を輝かせていた口数の少ない桃色髪の少女と、同一人物とは思えない。
それだけ、アイカの黄金色の瞳からは強い決意が感じられた。
「……分かった。それでいい」
と、クリストフが緊張を解くように言った。
否。この飄々とふてぶてしい振る舞いをつづける青年が、緊張していたことを、ようやく皆が悟ったのだ。
アイカが言葉を継いだ。
「……クリストフさんは、今、私を強引に連れ去ろうとしません。だから、信じることにしました」
「……そうか」
「部下の方々も強そうですし、力づくで言うことをきかせる選択肢もあったはずです。なのに、最後まで私の気持ちを優先してくれました。だから、私も応えたくなりました」
目線を逸らしたクリストフが、吐き捨てるように言った。
「……飽き飽きしてるんだよ。力づくでってヤツにな……」
*
馬に跨ったクリストフは、アーロンが目指しているという交易の中継都市タルタミアで待っていると言った。
「大路を真っ直ぐ北に行ったところにある。そこで落ち合おう」
そして、一緒に行くなら連れて行ってやるとアーロンに声をかけた。
「ザノクリフの正規兵に紛れれば、不審に思う者もいないだろう」
アーロンはクリストフの厚意に甘えることにし、ルクシアに謝意を述べて一団に加わった。
クリストフは去り際に、
「王太后のカタリナ陛下は、ザノクリフ王家の縁者だ。亡くなられた国王陛下の妹、……そうだな、イエリナ姫から見れば、祖父の妹、大叔母にあたる方だ。よろしく伝えてくれ。……身の上を明かすかどうかは、アイカ自身が判断すべきことだ」
と言って、馬の腹を蹴った。
アイカは少し目線を上げた。
――カタリナさんが、大叔母……。ってことは、リティア
いずれにしても、ややこしいな。と、アイカは鼻の穴を広げた。
目線を横に滑らすと、
――ル、ルクシアさんも
アイカは考えるのが、面倒になった。
――リティア
そう笑貌を開いたアイカは、再び手を打った。
「は――いっ! とりあえず、大きな渋滞は解消したっぽいので、女子の水浴びを再開しま――っす! 男子はここで待ってるように! ……のぞいちゃダメですよ?」
*
散々、アイラを混乱させた母ルクシアであったが、今度は自分が混乱する番であった。
「ルクシアさんも女子なので、ご一緒にどうぞ。というか、アイラさんこのままにして去ろうとかしないで下さいね」
と、アイカに案内された泉では、自家発光する女性が狼二頭と一緒に、気持ち良さそうに浸かっている。
狼狽えるルクシアをよそに、アイカたちは次々に服を脱いでゆく。
そして、カリュ、チーナはもちろん、娘のアイラまで平然と湯に浸かっていく。
皆、度重なる奇跡のような再会に、もはや女の人が光ってるくらいでは動じない。それより、温泉に浸かって疲れた身体と心をほぐしたかった。
大きく息を抜いたアイカが、ルクシアのことを思い出したように紹介した。
「あ。こちら、私の守護聖霊のヒメ様です」
『うむ。苦しゅうないぞ。はよう浸かれ。見れば、年増ではないか。我が湯に浸かれば若返るぞ?』
「ホントですか――っ!?」
と、カリュが嬉しそうな声をあげた。
『気持ちじゃ、気持ち。気持ちが若返る』
「なんだぁ」
『我は異界の神ゆえ、そこまでの干渉は控えておるのじゃ、……すまんのう』
と、神様とキャッキャしている女子たちに、ルクシアがついに吹き出してしまった。
そして、防具をはずしパパッと服を脱ぐと、ドボンッと、泉に飛び込んだ――。
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