第161話 姉妹契誓
義姉妹になろうと、自分を見詰めるリティアの真剣な眼差しを、アイカはまだ受け止めきれずにいた。
それを察した、リティアがニマリと笑った。
「それとも、なにか? アイカは、私の
「そ、そんなこと……」
「アイカが
「あっ。
アイカの口から思わず、砕けた言葉が突いて出た。
リティアはいつもの悪戯っぽい笑みを、アイカに向けた。
「確定っスね」
「もう……、《天衣無縫の無頼姫》には、叶わないっス」
「ふふふっ」
と、軽く笑ったリティアは、表情を改め、天に向けて両腕を開いた。
「我らが父神、天空神ラトゥパヌよ! そして、我が守護聖霊たる開明神メテプスロウよ、ご照覧あれ! テノリア王国第3王女リティアは、アイカを
居並ぶ家臣一同が跪いて、こうべを垂れた。
アイカは、どうしたらいいか分からない。
両腕をあげたままのリティアが、チラッとアイカに視線を向けた。
「……アイカも、誓うとこだ」
「あっ、ああ……、えっと……、誰に?」
「アイカの神様でいい」
「あ、えっと……」
アイカは、リティアの真似をして、両腕をあげた。
しかし、どうにもしっくりこない。
――自分……、やっぱり、根は日本人なんで……。
と、柏手を2回打った。
「リティア……
両腕をおろし背筋を伸ばしたリティアが、右腕を大きく払った。
「これにて神への
「「「はは――っ!」」」
最もアイカに近しく接してきたクレイアが、一歩前に進み出た。
「おめでとうございます。アイカ殿下」
「でっ……んか……」
「我ら一同。リティア殿下にお仕えするのと同様、アイカ殿下への忠誠をお誓い申し上げます」
後に《救国姫》とも讃えられる、アイカ姫が誕生した瞬間であった。
無頼姫リティア、蹂躙姫ロマナと並び称されことになる、救国姫アイカ。
再び
その波瀾と奇跡に満ちた旅が、ついに幕を開けようとしていた。
*
新リティア宮殿を出てルーファの街外れまで、リティアはアイカを見送った。
「アイカが、私から離れるべきだと考えた理由が、……私にも解ってきた」
「殿下……」
「ん?
「えっ?」
「親しみを込めて『
「……ね、
「おっ! それもいいな!
「はい…………」
「……それと、旧都で使いを果たした後、まっすぐに帰って来なくてもよい」
「え? それは……?」
「アイカの心が求めるままに行動するがいい。アイカと、タロウとジロウの守護聖霊が道を照らしてくれよう……」
リティアは、ニコッと快活に笑った。
「せいぜい、寄り道してこい! その間に、私もアイカの
「……行って参ります。リティア……
「うむ! 便りは寄越せよ! この《天衣無縫の無頼姫》リティアが帰還するまで、聖山の大地のことは
二人は、笑顔で別れた。
砂漠の向こうに小さくなるアイカたちを、見えなくなるまでリティアは見送った。
踵を返したリティアは、為政者の表情に戻っていた。
*
「それでは、アイカ殿下! まずは、どちらに向かいますかな?」
モジャモジャの髭を撫でるジョルジュが、ニンマリと笑った。
「北へ……行こうかな……なんて……」
「はっは! アイカ殿下は、すでに我らのご主君! そんな覇気のないことでは困りますな!」
「うっ……、そんなぁ……」
困り顔になったアイカに、カリュが優しく声をかけた。
「アイカ殿下のペースで良いのです。ただ、我らは既にアイカ殿下に、身命を捧げる身。さようお心得いただければ」
「あうっ……」
アイラが、アイカの肩を抱いた。
そして、耳元でささやく。
「私は、友だちのままでいいぞ?」
「アイラさん……」
「けど、周りが戸惑うから……、なっ」
アイラの瞳を見詰めると、柔和な輝きを帯びていた。
大きく息を吸い込んで、ゆっくり吐き出したアイカは、静かに一団に命じた。
「まっすぐ北に向かって、山岳地帯を抜けて行きます」
「「ははっ」」
「北の大路に、大回りして旧都テノリクアを目指します」
「……なるほど。それなら賊に遭う可能性も減りましょうな」
と、ジョルジュが唸った。
「それと……、私が育った山奥の辺りを、通り抜けることになると思うんです……」
「里帰りですな」
強面のネビが、北に聳える山岳地帯に目を細める。
山頂部には、まだ雪が積もって見えたが、到着するころには雪解けが始まっているはずである。
今は《無頼姫の狼少女》にして
廃太子の隠れた孫娘にして無頼の娘アイラ、
優れた間諜の侍女カリュ、
暗器使いの百騎兵長ネビ、
賊の首領ジョルジュ、
眼帯美少女チーナ、
そして狼タロウとジロウの旅が始まる――。
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