第160話 肩の紋章

 アイカとアイラが再び砂漠を渡って旧都に向かうにあたって、護衛には百騎兵長のネビと、賊の首領ジョルジュが付くことになった。


 フェティが懐き始めていたジョルジュであったが、アイカの砂漠行で別の賊に出くわさないとも限らない。


 大きな賊の一党を率いるジョルジュがいれば、交渉するのにも安心であった。



「わははは! 殿下の家臣の列に加えていただいて、初のご下命。このジョルジュ、必ずやまっとうして見せますぞ」



 豪快に笑うジョルジュに、リティアも微笑んだ。



「砂漠にジョルジュほど詳しい者はおるまい。よろしく頼む」


「はははっ! しかし、プシャンの狼も一緒ならば、儂が教わることの方が多いかもしれませぬわ」



 ジョルジュは、分厚く皺だらけの手で、タロウとジロウの背を撫でた。


 さらに、リティアは、カリュにも同行を命じた。


 侍女であるカリュを行かせるのなら、アイカはいらないのではないかと思わないでもなかったが、リティアのアイカへの愛情の現れと、皆が受け止めた。


 そして、ロマナのもとから送られていた弓の名手で眼帯美少女チーナにも同行を命じ、そのままヴールに戻るように言い渡した。



「西南伯公女ロマナ殿のご厚意により、第3王女リティア、無事にルーファに入ることができた。チーナ殿におかれては、ご主君の大命を見事に果たされた。心から礼を申し上げる」


「もったいないお言葉にございます」


「ロマナ殿にも、よしなにお伝えくださいませ」


「はっ。必ずや」



  *



 新リティア宮殿の広間で、送別の式典が開かれる。


 タロウとジロウ、二頭の狼とともに膝を突いて首を垂れるアイカに、リティアが言葉をかけた。



「アイカ。苦労をかけるが、よろしく頼む」


「はっ。殿下のお心を、王太后陛下、ステファノス殿下に必ずやお届けしてまいります」



 と、別れの言葉を述べたアイカは、



 ――すっかり、言葉づかいが出来るようになったなぁ。



 などと、変なところで自分に感心していた。


 リティアは、クレイアに命じてアイカへの餞別の品を持ってこさせた。


 それは、アイカの身体のサイズに合わせてつくらせた、肩にあてる防具であった。



「アイカ、そなたには我が防具を分け与えたい」



 父王ファウロスから賜った重装鎧の一部を取り外してつくらせた、肩あてであった。


 リティア自らが、アイカの肩に装着させてやる。



「……アイカ。そなたの手には既に、母より受け継いだという小刀、それにロマナからもらった西南伯の弓矢がある。優しいそなたに、これ以上の武器は似合うまい……」


「殿下…………」


「よし、着けられたぞ! うむ! よく似合っている!」



 笑顔のリティアに一瞬、見惚れた後、アイカは自分の肩に乗った防具を見た。


 離れていても、リティアとずっと一緒にいれるような気がして、ほんのりと嬉しい。


 そして、肩あてに描かれたに気が付く。



「殿下……、これは……?」



 リティアの紋章に似ていたが少し違う。両脇に描かれる動物が、二頭の狼になっている。


 それが、タロウとジロウを意味することは明らかであったが……、王族を意味する王冠も描かれている……。


 リティアが、にこりと微笑んだ。



「アイカよ。私と姉妹のちぎりを結ぼう!」


「えっ⁉」


「我が義妹いもうととして、堂々と旧都に乗り込み、王太后陛下にお目見えせよ!」



 狼狽えたアイカは、思わずクレイアの顔を見た。


 リティア宮殿に入って以来、こういう時に頼ってきたのはクールビューティな巨乳侍女クレイアであった。


 クレイアは、穏やかな微笑みを浮かべて頷きをひとつ、アイカに返した。


 それを見たアイカは、ゆっくりとリティアの顔に視線を移した。



「い……、いいんですか……?」


「ああ。もちろんだ」



 リティアは、真剣な眼差しでアイカの黄金色の瞳を見詰めた――。

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