第153話 掛け合い

 リティアは微笑みつつ、話を続けた。



「今度は、どの国にも収まり切らなかった者たちを、この《天衣無縫の無頼姫》リティアが引き受ける。我らの国を打ち立て、慮外者たちの楽園を築こうぞ」



 リティアは窓の外から見える、ルーファ首長家の豪壮な屋敷に視線を移した。



「それは、プシャン砂漠、そしてルーファの治安にも資することになるはずだ。大お祖父様にも『出資』を頼んでみよう。だが、その前に、あの者らがどこにどのくらいいるのか。どのように生活しているのか、つぶさに調べ上げる必要がある」


「「ははっ」」


「アイシェ、ゼルフィア、カリュ。しばらく骨を休めたら、済まないが再び砂漠を回ってほしい。私たちが旅したルーファの北側だけでなく南側も状況を知りたい」


「かしこまりました」


「ネビ、ハルム。そなたらはルーファ育ちで砂漠に慣れておる。アイシェたちの護衛を選抜してほしい」


「ははっ」


「クレイアは首長家との渉外にあたれ」


「はっ」


「こちらは世話になる身だが、引け目を感じる必要はない。そのためには、余計なしがらみのない、そなたが相応しいだろう」


「仰せのままに」


「アイラは、クレイアを援けつつ、ドーラと賊の受け入れ準備を始めよ」


「……私ですか?」


「無頼の娘として育った、そなたが過ごしやすい環境を整えれば、自然と彼らが溶け込みやすい居場所をつくることができよう」


「分かりました、やってみます」


「よし。そして力を蓄え《聖山の大地》に皆で帰還する。プシャンの砂漠に埋もれている民を掘り起し、聖山の大地で花開かせるのだ」


「「はは――っ!」」



 と、皆が頭を下げるなか、ぴょこんと頭を上げたままキョロキョロしていたのはアイカだ。



「あの……、私は?」


「ん? ……あっ! うん、そうだな」


「忘れてました?」


「忘れてない。忘れてないぞ」


「いや、忘れてましたよね?」


「アイカは我が側にあって離れず、《陛下の狼》たちとともに私を援けよ! 弓矢の守護聖霊と、道案内の守護聖霊が、きっと我が道を照らしてくれるだろう」


「……なんか、いい感じにまとめようとしてますけど、忘れてましたよね?」


「忘れてない、忘れてないぞ。私がアイカを忘れるはずないではないか」


「『あっ!』って、言ってましたよ?」


「言ってない」



 と、漫才のような掛け合いが始まったのを見て、皆は微笑ましく苦笑いを浮かべ、三々五々、解散となった。



「あーあ。タロウ、ジロウ。殿下に忘れられちゃってたんだぁ、私」


「だから、忘れてないってば……。タロウとジロウも、そんな目で見るなぁ。第3王女だぞ? 私」



 砂漠を旅する間にも、2人の距離は相当縮んでいた。周囲の者たちも、それが当然のことと受け入れるほどに――。



 ◇



 カリュたちが砂漠に割拠する賊の調査に出発した頃、リティアは大首長のセミールから宴に招かれた。



「砂漠に散在する賊を糾合しようとは、さすがは《ファウロスの娘》、といったところですな」


「恐れ入ります」


「賊はそれぞれ小さな一派を構えております。そのひとつひとつを懐柔し、時には制圧していく必要がありましょう」


「心得ております。一筋縄にはいかないでしょうが、時間をかけても必ずやり遂げる覚悟です」


「まこと、頼もしい限り」


「なにせ、我が父ファウロスに加えて、大首長セミールの血も私の中には流れておるのです! 聖山の大地も、プシャンの砂漠も、私に味方してくれるに違いないのです!」


「ふふふ。たしかに……」



 宴にはアイカをはじめ、ルーファに残るリティアの家臣たちも招かれている。


 快活な笑顔で未来を語る主君リティアを、誇らしげに見詰めた。



「しかし、殿下……。私は殿下に償わなくてはならない……」



 と、セミールは瞳に柔和な光を宿して、リティアをしっかりと見据えた――。

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