第123話 王都の片隅(2)


「リーヤボルクの兵士どもは、実際、品がなさ過ぎるな」



 ピュリサスは、ガラの肩を抱いたまま話を続けた。


 かつてアイカが不逞騎士に襲われた土間に置かれた作業用のテーブル。普段はガラが食材を刻んでいる。王都でも名の知れた若手の親分2人に挟まれ、ガラは妙に照れくさく居心地が悪い。


 

「ノクシアス。お前が娼館の手配に駆け回り出したときは、なにを大袈裟なって思ってたが……、お前が正解だった」


「おう。俺は間違わねえ」


「ふふ。へらず口は相変わらずだが、ウチのシモンも、東の元締チリッサも、お前のことは見直してる」


「そうかよ」


「……揉めごとや小競り合いは増えたが、なんとか街は治ってる」



 ガラも小さく頷いた。


 街路には品のないリーヤボルク兵が増えた。我が物顔に振る舞おうとするのを阻んだのは、無頼たちだ。


 そこかしこで喧嘩が起きたが、無頼は一歩も引かなかった。



 ――でも、ワル同士って、いつの間にか仲良くなるよね。



 無頼と兵士が、酔っぱらって肩を抱き合い街路を闊歩する姿も珍しくなくなった。



「交易を保護するっていうのが、摂政様の方針だからな」



 ノクシアスが吐く「様」という言葉に皮肉がこもる。



「王が討たれようと、王太子と第3王子が戦をしようと、王都の交易は止まらなかった……」


「そんなことしても、誰も得しないからな」


「摂政正妃様はすっかりで、摂政様を支えてる。どうなんだ? 摂政様自身が即位するなんて展開はないのか?」



 ノクシアスがマエルを通じてリーヤボルク兵――摂政サミュエルに繋がっているということは、周知の事実になっている。



「ムリだな」


「ほう……。王位に就けば、王都の富は総取りに出来そうだが」


「聖山の民がまとまれば、5万のリーヤボルク兵なぞ、ひとたまりもない。さすがに、そのくらいは分かっている」


「マエルの旦那が……、か?」


「いや、摂政様もさ。考えてもみろ。ヴィアナ騎士団と激突して3万も兵を失ったんだぜ、あいつら。数は侮れねえが、強くはない。スピロが裏切らなければ、勝敗は分からなかった。そのくらいは弁えているさ」


「ふむ……」


「ただ…………」


「なんだ?」


「……当分、帰らねえだろうな」


「なるほどな……。そういや、西南伯が王都に向かってるらしいが」


「らしいな」


「摂政様はどうするかな?」


「ふふっ。敵には回すまいよ」



 街の裏側を仕切る無頼の大物2人の話は、まだ14のガラにも興味深い。



 ――西南伯……さま……。



 ガラには雲の上の存在だが、



「内緒なんだけどね」



 と、アイカが教えてくれたのは、自分たちを救けてくれたリティアが、密かに西南伯の公女と親友だという話。


 を隠さないといけないとは、偉い人たちは難しい。


 王都から遠く離れた西南伯領について、ガラの知識はそのくらいしかない。けど、ピュリサスとノクシアスは、大ごとのように話をしているから、大ごとなのだろう。肩を抱かれたままで落ち着かないが、耳はそば立てる。



「ま。リーヤボルクは、ちまちまと富を吸い上げるつもりでいるってことだな」


「そうか……」


「あいつらとの付き合いは長くなる。ピュリサス、お前も身の振り方を考えておくんだな」


「どういうことだ?」


「いいかげん、俺の下に付けよ」



 と、ノクシアスは身を乗り出した。



「遠慮しとこう」


「そんなにシモンがいいかよ?」


「ああ。シモンの親分は、アレクの大親分の正統を継いでる」


「それだよ、ピュリサス」


「なんだ?」


「聖山の民は、正統を重んじ過ぎる。西域じゃあ、農民から成り上がった領主までいるって聞く。だが、テノリアで平民が列侯になるなんてことは考えられねえ。良くて騎士止まりだ」


「……それは、そうだが」


「俺は、それを変えたい」



 ノクシアスの言葉が熱を帯びた――。

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