第三章 総候参朝

第58話 ホーム *アイカ視点

 ロマナさんとの狩りでヘトヘトになった翌日、予定通り王都に向けて出発した。



「アイカ。ロマナ様との狩りは内緒ね」



 と、昨晩のお風呂でクレイアさんに口止めされた。



 ――はい。なんとなく察してました。



 内緒が多いのも、だんだん慣れてきました。むしろ、王宮の一員になってきた実感が湧きます。



「戻られてすぐに、殿下がロマナ様に礼状を出されたから、いただた弓矢は持ち歩いても大丈夫だから」



 クレイアさんが私の頭を洗いながら、付け加えてくれた。



 ――さすが、仕事が速いです。



 ロマナさんの『筋書き』に沿うよう、侍女への贈り物にお礼状を出したってことなんだと思う。


 聖山を背に、タロウとジロウの背に乗って、王都に向けてひた走る。


 背中で、ロマナさんにいただいた弓と矢筒が揺れた。



 ――むふっ。



 いただきモノって、嬉しい。こんなに心が弾むものなんだ。


 野営を繰り返し、イリアスさんとも――相変わらず顔は怖いけど――少し仲良くなった。イリアスさんの守護聖霊は『養蜂神リタイスア』というらしい。



 ――養蜂?



 まだまだ、謎が多い異世界こっちことわり


 さらに言うと、クレイアさんの守護聖霊だと聞いてた『ポトネ』は『殺戮神』らしい。


 クールビューティに殺戮神の取り合わせは、一気にサイコパス感が……。ただ、どちらもとても稀な神様ではあるらしい。


 侍女長のアイシェさんにも、ゼルフィアさんにも、愛で友のアイラさんにも、守護聖霊はないらしい。守護聖霊があること自体、とても珍しくて尊ばれることなんだと改めて教わる。



 ――まあ……、そういうものなんだと受け入れておくしかない。



 そういえば、王都でお留守番のドーラさんの替わりに、今回の旅で指揮してた百騎兵長のネビさん。


 どこかで見たことあると思ってたんだけど、



 ――あの時の、眉毛が薄い男の人だ!



 最初の最初の土間で救けてくれた騎士さんの一人にいたことを、ようやく思い出した。


 元は、エメーウさんの護衛として、ルーファから一緒に来た『砂漠の民』の戦士だったのだそう。


 ところが、信仰する一神教の『聖人マツラフ』が守護聖霊にあることを審神みわけられて、百騎兵長に取り立てられた、第六騎士団の中でも変わり種なんだとか。


 王太后さまに会う前、旧都を散策中に入った武具店で、ネビさんは暗器のことを熱心に質問してた。


 暗器――短剣や手裏剣――に、造詣が深い、砂漠の戦士。眉毛薄い。



 ――なんか、いいと思います。



 美形ではありませんが、なんかいいです。頭に着けてる色鮮やかな羽根飾りも、なんかステキです。知らずに街で会ったらビビりそうですけど、味方って分かってたら心強い、強面さんです。


 往きと同じく4晩野営して、5日目に王都に聳える王宮と大神殿のとんがり屋根が見えてきた。


 由緒ありそうな商店が静かに営業してた旧都とは対照的な、毎日がバザールのような賑わいの王都ヴィアナに帰り着いた。


 旧都に出かける前、たった1週間ほどいただけの王都、リティア宮殿。


 なのに、もう、帰ってきた――! って、気持ちになる。


 ここが、今の私の『ホーム』なんだって、じんわり温かい気持ちになった――。

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