第2話 消えた御神石

 小さな拝殿の中に閉じ込められてしまったわたしたち。ただし格子こうし扉の隙間から、村人の動きは丸見えだった。もっともそれは向こうも同じなのだが。


「だれの差し金じゃ?」

「目的は?」

 

 次々と質問が飛ぶ。

 村人は全員で12人もいる。道は分岐点までは1本道。到底とうてい逃げきれない。考えをまとめているわたしをよそに、鏡部長と薫は疑いを晴らそうと必死に身振り手振りを加え答えている――しかし、信用はしてもらえそうになかった。


 会話をまとめると、この拝殿はいでんの中にまつられていた御神石ごしんせきという黒くつやのある重さ15キロほどの石が今しがた消えてしまったそうだ。そして、わたしたちが現れた。


 たしかに、祭殿さいでんの中央には赤い座布団ざぶとんだけがポツンと置かれている。その奥にある壁板からは、わずかに光がれていた。


「茜もこっちにきて事情を説明してくれ」 

「わかりました」

「俺の説明じゃ全然納得してもらえなくて……」


保科ほしな茜と申します。みなさんはどうして今日こちらに?」


「今日は月に一度の神社清掃の日だ。オレたちは鶴川つるかわ村の代表で、もう少ししたら亀山かめやま村の連中もくる」


「なるほど……わたしたちを疑う理由はなんですか?」


「そりゃ。あんな石ころ、村じゃだれも盗もうとしないからなぁ」


「御神石と呼ばれているのにですか?」


「見た目がそこら辺に転がってる石とまったく同じだったからな。ただ、村長の家では大切に扱うようにと、代々言い伝えられているそうだ」


「だいたいのことはわかりました。ではわたしたちがをお見せしましょう。みなさんはどうか拝殿の裏手側にお回りください」



「さすがは茜、頼りになる」

「安心するのはまだ早いです……光」



 わたしは、横筋の光が漏れていた壁板を勢いよくり飛ばした――すると、壁板がきれいに抜けた。明らかに人の手が加えられた穴だ。


 抜けた穴から外に顔を出す。


 そこに広がる光景は、死を予感させるほどの急斜面だった。拝殿の裏手側に姿を現した村人たちは慎重にこちらに近づいてくる。


「こんなとこさ、抜け穴があったとは……」

「これは計画的な犯行です」

 

 村人一同が驚く。

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