第3話 逃走

 ここを訪れたわたしたちにこんな計画的な犯行はできない――それを証明し、村人の信用を得ることに成功したはずだったのだが――。


「すまん、すまん。葉桐はぎりが集合時間を間違えてみんなに伝えちまってよー」

「ほれ、謝らんか!」

「鶴川村のみなさん、わいのミスでご迷惑をおかけしました。すみませんでした」


 亀山村の代表6人が遅れてやってきた。鶴川村と違って全体的に年齢が若い。


「あっれー! 先週のあんちゃんじゃないかい」


 亀山村のひとりが鏡部長を指差す。


佐倉さくら、こいつを知ってるのか?」

「ああ。先週もここにいたんだぜ。たしか宝石探しをしてたんだよなっ」

「やっぱりお前たちが犯人だったんだな! よくもだましてくれたな~」


 とっさに逃げようとした鏡部長だけが捕まり袋叩ふくろだたきにう。


「おい! やめろって! こうなった経緯はわからんが、ここは平和的解決といこうぜ」


 佐倉たちが止めに入ってくれた。


 ――鏡部長は旅行の下見もねて、デュモルチェライトという宝石が採れるとのネットの情報を信じて、先週ここを訪れたそうだ。そのときはなにも見つけられず、リベンジを果たそうとこうして再びやってきたそうだ。御神石についてはまったく知らなかったと情報源をスマホで表示させ、涙目で白状したのだった。


「あの〜 お手洗いに行きたいんだけど」


 この状況で、薫がそんな発言をした。ある意味すごい。


「ここに便所はない。その辺の茂みでやりなさい」


「ちょっと~ 男が大勢いる中で、のボクがそんな恥ずかしいことできるわけないでしょう」


「なんだお前、女だったのか? 来た道を戻って、分岐点を左に行くと大きな駐車場に出る。そこの公衆便所を使いなさい」


「1人じゃ不安。鏡部長も一緒に」

「どうします? 村長」

「かまわん。ただし、他のふたりはここに残すように」



※※※



 ――いつまで待ってもふたりは帰ってこなかった。話が中断しているため、実に気まずい。

 

 スマホが震える。

 画面には『ごめんねー』『スマン』との表示が。薫と鏡部長からのメールだった。


「ちょ、ふざけんな! わたしたちを見捨てて逃げるなんて……」

「どうした?」


 怒りが収まらないわたしは鶴川村の村長にスマホの画面を見せた。


「やっぱりあいつが犯人だったか! 半分はここに残って御神石の捜索そうさく。残りの半分はあいつを追いかけるぞ!」

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