第4話 加賀 という人物

 鏡部長が逃走したおかげ? で、わたしたちは完全に容疑者から外された。


「仲間に見捨てられるなんて悲しいことだよねぇ。僕は鶴川村の加賀かが


 フレームの太い黒縁メガネをかけ、黒のニット帽を目深まぶかに被ったの男に声をかけられた。御神石の捜索中に転んだのだろう。服が泥だらけだった。


「わたしは、今でも鏡部長がそこまでひどい人ではないと信じています。ねっ光」


「どうかしら? ただ、少なくとも今日1日ずっと一緒に行動していたのだから御神石は盗んでいないと思う」


「実は僕も……」


「えっ?」


 わたしたちは思わず顔を見合わせた。


「今回の騒動そうどうは、亀山村側が鶴川村側をおとしいれようとして仕組んだことなんだと僕は考えている。お互い仲が悪いから」


「なにか根拠があるんですね」


「1時間くらい前に空砲が鳴ったのを覚えているかい?」


「はい。たしか3回連続で」


「うん、あれ実はSOSの合図なんだ。山でけものおそわれて動けなくなったときなんかに使うことが多いかな。だからあの音を聞いた僕たちは神社の清掃をいったん切り上げて、音のした駐車場の方向に全員で向かったんだよ。結局、駐車場まで行ってもだれもいなくて、再び神社に戻ってみると御神石が消えてなくなっていたってわけさ」


「どれくらいの時間、神社を離れたんですか?」


「道の往復と駐車場での捜索を合わせて、15分くらいだろうね」


「そうですか。わたしたちはあの音を聞いた後、九十九つづら折りの道から神社に向かったのですが、その間だれともすれ違いませんでした」


「となると、犯人は御神石を持ち去ったのではなく、どこかに隠した可能性が高くなるね。他に道はないし、身を隠し続けられるような場所もないからね」



「そう考えるのが合理的ですね。御神石をなくした鶴川村に対して責任問題を追及し、その後、御神石を再び発見することで亀山村の評価が上がる。まさに一石二鳥」



「きみは随分と頭の回転が速いね。実はそんなみきたちに僕から頼みたいことがあるんだ」


 嫌な予感がする。


「これから亀山村の連中のところに行って情報を集めてきてほしいんだ。僕と違ってきみたちなら警戒けいかいされないと思うんだよね」


 この加賀という男を信用しても大丈夫なのだろうか? 言っていることは正しいようにも聞こえるが胡散うさん臭くも思える。ここは、いったん話に乗ったと見せかけて亀山村側からも情報を引き出す必要がありそうだ。


「わかりました。ことがうまく運んだ際は、温泉宿までの送迎をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「ああ。もちろんだ!」


 交渉成立である。

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