第8話 茜、黄昏時に死す
「どうして俺が鏡だとわかった?」
「見た目は変えられても
「そうか! さっきのストレッチだな。俺としたことが……」
メガネとニット帽を外し、変装を解く。鏡部長は浪人4年、留年4年の現在30歳の大学4年生だ。大学内では自由人の異名を持つ。
「薫は? 薫はぶじなのよね?」
「安心しろ! 今ごろは、のんびりと温泉にでも浸かっているだろうよ。実は予約した温泉宿って、ここからすごく近いんだぜ」
「カーナビの目的地がダミーだったというわけですね」
鏡部長だけは先週もここにきている。だからナビに頼る必要もなかったというわけだ。
「すごいぞ、茜。想定外のこともあったが、俺の思い描いていたストーリーのさらに上をいっている」
「でも、どうしてこんな手の込んだ……」
「正直に言うよ。俺は茜に
「ごめんなさい。鏡部長の想いに気付けなくて……」
「そんな言葉が聞きたかったわけじゃない」
鏡部長は、首を左右に大きく振る。
「嫌いだったら嫌いとはっきり言ってくれ。佐倉たちとは楽しそうに話してたし、葉桐とは抱きあってたじゃないか!」
どうやらわたしたちの行動は、鏡部長に観察されていたようだ。
「どうせ俺のものにならないならいっそのこと殺してやる!」
「冗談はよしてください。それに、わたしの隣にいる光は『全国高校空手選手権大会』準優勝の
「それは知っている。だから奥の手を用意した」
鏡部長はそう言って、ポケットからナイフを取り出した。それを自らの指先に押しあてる。いつの間にか床に置かれていた黒光りする石に、その血が
「これで契約成立だ!」
周囲の空気がいっきに冷たくなる。
鏡部長からは異様な気配が
「これが
言っている意味がわからない。
渦巻く風がさらに強さを増し、
――少し気を失っていたようだ――。
目覚めると、わたしを抱きかかえる姉の顔が横にあった。急斜面を転がり落ちたはずなのにわたしはほとんど無傷だった。
体を起こし、姉に声をかけるも反応はなかった。姉は頭部から大量の血を流し、それは今もなお地面に広がり続けていた。
「お姉ちゃん!」
わたしは大声で叫びながら姉の体を
「ご……め……ん…………わたしミスっちゃった」
「だめっ! 目を閉じないで。今、目を閉じたら……」
涙が
このままでは姉が死んでしまう。
わたしは、震えながら茜の顔に手をかざした――すでに息はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます