第6話 潜入捜査②

 次にわたしたちは、みんなと距離をおき石畳いしだたみき掃除をしていた葉桐はぎりという? に声をかけた。


 たしか、ここに来たとき集合時間を間違えたとかで謝罪していた。な顔立ちに華奢きゃしゃな体型、肩口ほどまでありそうなオリーブ色の髪は後ろでひとつに束ねられている。


「少しお話をうかがってもよろしいですか?」


「わ、わいにですか?」


「はい。集合時間を間違えて伝えてしまった経緯を教えていただきたいのです」


「それは……単純にわいのミスです。鶴川村の村長から伝えられたことを聞き違えて……11時と記入して回覧板かいらんばんを出してしまったんです」


「それはいつのことですか」


「え、えっとですね……た、たしか2週間くらい前のこと……だったような……」


「ありがとうございます」


「それじゃ、わいはこれで」


 その場を急いで立ち去ろうとする葉桐。あやしい。 


「待ってください。みなさんと距離を置く理由はなんですか?」


「そ、それは……」


 答えにまり、困り顔を見せる。


「ねぇ! 歳も近いようですし、わたしたちとお友達になりませんか~」



「ちょ、ちょっと、急に抱きつかないでください。困ります……それにわいですから」



「ええ。それを今こうして確認していたところです」


 胸をむ。


「モテそうな容姿ですのに、どうして男装を?」


「実はわい、男性が苦手でして。そんな事情を知らない村の人たちは、お見合いの話ばかり持ってきて……断り続けていたら、こんどは『高望みしすぎだ』なんて言われるようなって、職場での待遇たいぐうが悪くなりました。それに、セクハラにもうんざりしていました。だから男装して、男を遠ざけているんです」


「それは大変ですね。あっ、そう言えば、わたしも先ほど拝殿に押し込まれるときお尻をでられました」


「あのエロオヤジ。犯罪だっていう認識がなさすぎるのよ」


「なら、鉄拳制裁てっけんせいさいしかなさそうね」


「光、それも犯罪っ」


「光さんは空手かなにかをやっていたんですか?」


「空手は高校までだけど」


「やっぱり! だったので関心しました!」


「えっ! いつ見たの?」


「やだな~ 拝殿の壁板を蹴り抜いたじゃないですか~」


 わたしたちはお互いの顔を見合わせ、二度大きくうなずいた。


「葉桐さんが御神石を盗んだだったのですね」


「えっ……どうしてそうなるんですか……」


「それは今の発言がにあたるからですよ。あのときわたしは、みなさんに拝殿の裏側に回るよう言いました。そこで格子扉から人の姿が見えなくなるのを確認しています。そして、光に壁板を蹴るように指示したのです」


「わたしは茜から指示を受けて、壁板を蹴り抜いた後、村人がひとりもいなかったことを確認してる」


「つまり、光の蹴りを見ることができたのは拝殿の中にいたわたしたちと、外で身を隠していた犯人だけなのですよ」



「ご、ご、ごめんなさい。このことは村のだれにも言わないでもらえますか」



 その場で土下座する葉桐。悪意の欠片かけらも感じない素直な反応だった。


「どうやら事情があるようですね。聞かせいただけますか?」


 



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