第28話 そのメイド 『結末』

 白を基調とした、豪華絢爛な屋敷。観音開きの扉を開けて、玄関ホール側の階段を上がり、二階の東側にある部屋を目指す。

 目的地となる部屋の戸が開いており、黒髪に黒のロングコートを着た少年を抱く青年が、戸口の前でうずくまっていた。

「アロイス・アルフォード……だな」

 一人の女騎士と探偵の青年、そして四人の使用人を従えたヴィアトリカ・ビンセントがそう、凜然たる雰囲気を漂わせて面前に姿を見せるとそう言った。

「いかにも」

 黒髪の少年を抱いたまま、ヴィアトリカに視線を向けたアロイスはそう、冷静沈着に返事をした。

「ここで何が起きたのか、詳しく、話を聞かせてもらおう」

「きみが、それを望むのなら……」

 アロイスはそう返事をすると、今までの経緯を説明。それを聞いたヴィアトリカ一行は驚愕した。

「……今まで、ハウスメイドのミカコに扮していたのが、そこにいるジャンヌ・ダルクと言う名の、女騎士であることが判明……

 執事のツバサと、彼が仕えていた主人が悪魔だったことも、話を聞いていて知っていたが……まさか、このような結末が待っていようとは、思いもしなかったな」

 声にならないほど、驚愕したヴィアトリカは、ようやっと気持ちを落ち着かせるとそう、心境を吐露する。

 使用人のエマ、ラグ、ルシウスの三人が、未だに口を利けないほど驚愕する最中、ヴィアトリカの傍に佇むロザンナ、ジャンヌ、エドガーの三人だけは、鋭い目つきで面前に蹲るアロイスを見据えていた。

「本当に……これで、良かったのか?」

 不意に口を開いたジャンヌがそう、アロイスに向かって念を押すように問いかける。

「ああ、これで良かったのだ」

 自ら術をかけ、眠らせた黒髪の少年を抱きながら、アロイスは静かに返事をする。

「彼は、私のためによく尽くし、身を粉にして頑張ってくれた。慣れない場所で、合わない空気を吸って体を壊しながらも……

 人間界と繋がるこの世界に来て体を壊すこともなくなり、元気になった彼に、再び笑顔が戻って来た。

 やはり、この地球の空気が、最も適している。ならばこのまま、人間界にいさせてあげた方が彼の……いや、の幸せに繋がるのかもしれない。ようやっと、あなた方に返す決心がついたよ」

「では、その少年は……」

 何もかも見透かしたジャンヌに、アロイスがフッと気取った含み笑いを浮かべて白状する。

「そうだ。今からおそよ、一ヶ月前……街で運悪く私に見つかり、魔人の姿に変えられてしまったメイドだ。

 彼女を、魔人の姿に変えた後……悪魔になるための修行の場として、街外れにある広大な森を魔界に見立てて、私はその中で彼女と生活を共にした。予め、結界を張ったうえでな。だが……

 魔界特有の空気が彼女に合わず、体調が崩れやすくなったため、本人の申し出により、私は再び、この世界に彼女を戻したのだ。

 私が扮する、貴族のアロイス・アルフォードに仕える、執事のツバサ・コウヅキとして。

 術により、性別が変わった彼女を魔人として育てることで、天界側が打撃を受けるように取り計らったつもりが……結局それは、破綻してしまった。

 どんなに強力で、完璧な術をかけても、天使のようにピュアな彼女の心までも、完全に悪魔にすることが出来なかったからだ。

 彼女が悪魔に向いていないと判った以上、手元に置いておく意味がない。よって、あなた方にお返しする」

 あなたは悪魔向きではない。それを知ってもなお、私はあなたと一緒にいたかった。

 哀愁漂う微笑みを浮かべて、アロイスに扮するロビンは、愛おしむようにセシルを見詰めた。

 もうじき術が解ける。元の姿に戻り、自身がセシルと言う名の魔人だったことを忘れ、再び敵同士となるのだ。

 セシルにとっては酷であるが、ロビンが決めたことは間違いではない。これで良かったのだ。

「……時期に術が解け、元に戻る筈だ。ここを去る前に、ひとめでもあなたにお目にかかれて光栄だよ。ジャンヌ・ダルク」

 いささか皮肉を込めて、かつての騎士仲間、ジャンヌ・ダルクにそう告げたロビンは、気を失う黒髪の少年を床の上に寝かせると徐に立ち上がり、姿を消した。

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