第24話 そのメイド 『正体』
いくら人間に変身しても、その気配までは消すことが出来ない。だから、瞬時に悪魔の気配を感じ取ることの出来る人間が傍にいれば、それだけで正体がバレてしまうのだ。
それを改めて思い知った僕は、このまま白状しようと腹を括ったけれど、悪魔としてのプライドが邪魔をして無駄な抵抗をしてしまう。
「ツバサ……? 一体、誰のことを言っているの?」
目一杯とぼけて見せた僕の返事に、それを聞かされた相手はどう感じたか……考えただけで身震いする。
しばし沈黙が続いた後、僕と対面する使用人が不意に呟く。
「おや? あそこを行くのは……アルフォード様じゃないか」
「なにっ……? アロイス様が??」
わざとらしく遠くの通りを眺めて呟いた使用人の演技に釣られ、条件反射でその方向に顔を向けた僕ははっと我に返る。使用人がにやりとした。
しまった……! いつもの癖でつい……
「今ので、はっきりしたな。そうだろう? ツバサくん」
してやったりとほくそ笑む使用人に迫られ、痛恨のミスをしでかした僕はもう、白状するしかなかった。
「……ああ、そうだよ。あなたの言う通り僕は、アロイス・アルフォード様に仕える執事のツバサさ」
ポンッと軽い音を立てて執事のツバサに変身した僕は、
「驚いたよ。まさかミカコさんが男装をしているなんて」
今まで、メイド服姿のミカコしか見たことがなかったので、そのことについて触れてみた。
「騎士として、軍を率いていた頃の名残でな……男装をしていないと落ち着かない体になってしまったのだ」
改まった顔をして、男装をしている理由を語ったミカコを、僕は不可解に思った。
「ミカコさんのその言い方……まるでこの世界とも、僕がいた元の世界とも違う、はるか遠い時代の世界からやって来たような……」
自分で言うのもなんだが、この時の僕は妙に勘が鋭かった。普段はそんなに勘がいいほうじゃないのに。そんな僕にやんわりと微笑んだミカコが口を開く。
「私はかつて、女騎士として軍を率い、国の領土を奪還するために戦った」
そこで一旦区切り、右手を天に翳したミカコ、瞬時に姿を現した白地に横長の旗を握りしめる。その旗には、百合の華や天使などが描かれていた。
「その後、私は白色の像となり、元の世界に所在する聖堂にて祀られている。ここまで話せばもう、分かるだろう」
うそ……だろう?
驚愕するあまり、目を大きくした僕は言葉を失った。もし、これが本当のことなのだとしたら、僕の目の前にいるミカコさんは……
「偽者……なんだね。それも、ただの偽者じゃない……まさかこんな形で、出会える日が来るとは、
今の気持ちを、どう表現したらいいのか……分からない。でも、僕は会えて嬉しいって、心から思っているよ」
驚きから、憧れの人に会えた喜びへと気持ちが移り変わり、恥ずかしそうに頬を赤く染めて微笑んだ僕が、その名を口にする。
「ジャンヌ・ダルク」
刹那。純白の鳥の羽が
やがて乱吹が止み、微風に乗ってひらりひらりと羽が舞う最中、ショートカットの金髪に凜々しい目をしたジャンヌ・ダルクが、中世の騎士を彷彿させる服装に、銀白色のマントを羽織って姿を現した。
天に掲げる横長の旗と銀白色のマントが、通りを吹き抜ける風に
精悍な顔に含み笑いを浮かべた、英雄にして聖人のジャンヌ・ダルクの出現に、その場に居合わせた誰もが驚愕。
とりわけ、普段から冷静沈着で、ちょっとやそっとのことでは動じないヴィアトリカお嬢様や、使用人の責任者を務めるロザンナさんでさえも目を丸くしていた。
辺りが静まり返る最中、ジャンヌが徐に、掲げている横長の旗を下ろす。
石畳の路面上に旗のポールが触れて銀色の波文を作り、景色を一変させた。
そこは、オレンジ系の色に統一された、大きな屋敷の中だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます