第23話 そのメイド 『合流』

 噴水のある広場にて。悪魔の少年、セシルと言う名の僕の目の前でたくさんの悪魔が、二人の青年によって次々と斃されて行く。

 僕にとっては仲間と呼ぶに相応しい魔物モンスターの群れが、ものの数分のうちに殲滅せんめつ。あまりの恐怖に、僕はその場から逃走した。

 光の速さで噴水のある広場を脱出し、一心不乱に石畳の通りを駆けていた、その時だった。

 穿いている白パンツのポケットに両手を入れて佇み、気取った雰囲気を漂わせながら、鋭い目つきでこちらを見据える青年、エドガーとレイヤーカットの金髪に、アイボリーのコートを羽織った凄腕の剣士の青年が姿を見せたのは。

 左腰に提げている鞘から静かに引き抜いた剣を携えた、二人の青年に挟みうちされ、絶体絶命のピンチに陥った僕を救ったのが、領主のヴィアトリカ・ビンセント様に仕えるメイド、ロザンナ・ワトソンである。

 悪魔のカラスを納めた、アンティークな鳥かごを手に、剣士の青年に退治の依頼を持ち掛けたロザンナさんによって、窮地を脱した僕は命拾いをした。

 一人の青年が、私服姿の四人の使用人を従えて、僕とロザンナさん、そしてエドガーの三人と合流したのは、それから後のことだった。

「話は済んだか?」

 おしゃれなオレンジ色のリボンで装飾した黒いハットとマントを羽織り、無愛想な顔をした美青年がそう問いかける。青年と向かい合ったロザンナが胸に手を添えて、恭しく返事をした。

「はい、お嬢様」

 お嬢……様??

 いきなりのことに、ぎょっとした僕は耳を疑った。

 確かに声は女性のようだけど……あの格好はどう見ても男性……だよな?

 にわかに、頭が混乱した。ワケが分からなさすぎて、両目がぐるぐると渦巻いているような感じがする。見かねたエドガーがそっと僕に近付き、耳打ちをした。

「あの人が、さっき話していた領主の、ヴィアトリカ・ビンセント様だよ。彼女は普段から男装をしているんだ。その方が、性に合っているんだとさ」

 片手を添えて耳打ちをしたエドガーの助言で、僕ははっと我に返ると納得。

 女性だからと言って、女性らしい服装をしなくてもいい。性に合っているのなら、なおさらだ。

 性別関係なく、自分の好きなように、自由な服装をして構わないのだから。

「そうか。ならば……」

 使用人として、恭しいロザンナさんに応じたヴィアトリカお嬢様は、僕の方に視線を向けると口を開いた。

「少年、私が従えている使用人の中で、きみと話がしたいと申し出た者がいる。とても重要な話らしい……是非とも、その者の話を聞いてやって欲しい」

 凜然たる態度のヴィアトリカお嬢様に促され、あっけらかんとした僕は返事をした。

「いいですよ」と。

「ありがとう」

 静かに礼を述べたヴィアトリカお嬢様、徐に背を向けると、四人の使用人のうちの一人と向かい合う。

「いいそうだ。後は、きみに任せるぞ」

「はい。後はこの私に、お任せください」

 ヴィアトリカお嬢様と向かい合い、後のことを任された使用人のうちの一人がきびきびと返事をしたのち、恭しく頭を下げた。

 僕は、その使用人のことを知っている。この世界で初めて知り合ったその人といくつか共通点があって、一緒にいて安心する、とっても素敵でいい人だ。だけど……この時の彼女は、いつもと雰囲気が違っていた。

「こうして、私ときみが対面するのは、今日が初めてだ」

 ヴィアトリカお嬢様の脇を通り過ぎ、凜然たる雰囲気を漂わせて闊歩かっぽする使用人が僕に語り掛ける。

「だが、私はきみを知っている。この世界で初めて知り合った、とても気が合う使用人仲間として……」

 冷静沈着に佇む僕の目と鼻の先で立ち止まり、向かい合った使用人が最後にこう告げて言葉を締め括った。

「きみが悪魔であることは、とうに気付いていた。封じることは出来ないが、瞬時にその気配を感じ取ることは出来るからな。

 故に、姿は違っていても、私には分かる。少年……きみは、アロイス・アルフォード様に仕える、執事のツバサだな」と。

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