第19話 そのメイド 『遭遇』
自分で言うのもなんだが、僕は魔界きっての最弱悪魔だ。魔界にいた頃なんて下級悪魔に勝てず、いじめられる始末だ。こんなに弱い僕が、最強の剣士相手に勝てるわけがない。
気分が悪くなり、青白い顔をして、僕はいつものように心の中で弱音を吐く。
いや、ダメだろセシル!
そうやってまた弱音を吐いて、自ら自信を落とすようなことをするんじゃない!
そうだ! いくら弱くったって、僕は尊敬するロビン様に仕える魔人なんだ!
だから目覚めろ、僕の体の奥底に眠る強い魔力!
そんでその強い魔力であいつらにガツンと……
青い十字架のクリスタルをあしらった、黄金の剣を右手に携え、敵の群れと対峙をしていた金髪の剣士が地を蹴り、飛び上がると両手で剣の柄を握り、敵を一刀両断。
次から次へと襲って来る敵を剣で以て、片っ端から斬り捨てて行く。
まるで、はっきりと敵の動きを
耳に掛かるくらいの黄土色の髪の青年も敵の群れに突入し、武器となる銀色の剣を駆使して、目にも留まらぬ速さで
二人の青年の強さに圧倒され、血の気が引いた僕は危うく腰を抜かしそうになった。
無理っ!!
心の底から絶叫した内なる僕が今、全力で逃げろと危険信号を発している。
今、目の前で
すっかり戦意喪失した僕は、
無理無理無理無理無理ぃぃぃ!!
パニクりながらも身の危険を感じ、恐怖に
なんて強さだ! あんなの、僕なんかが到底、太刀打ち出来る相手じゃない!!
街の中心部から東に逸れた場所にある、全体的に落ち着きのある色合いのアンティークな骨董店の前を、とある一行が通り過ぎる。
「夕飯の買い出しに行くとは言ったが……なんで、おまえさん達までついて来るんだよ」
「いいじゃない。私達だって、貴族の青年のこと、気になっているんだから」
市場で購入した新鮮な野菜や果物を納めた紙袋を両手に抱えながらも、面倒臭そうな雰囲気を漂わせて歩くルシウスのぼやきに、男装するミカコと並んで歩くエマがなだめすかすようにそう返事をした。いつものメイド服ではなく、桜色のワンピースにボレロを着用した私服姿で。
「今日の仕事はもう終わったし、ロザンナさんがいるから、お嬢様のことは気にしなくていいしね」
そう、のんびりとした口調でルシウスに告げたのは、上下ミントグリーンのジャケットにパンツと言った私服姿のラグだ。
市場で購入した、新鮮な肉や魚などの食材を納めた紙袋を、大事そうに両手で抱えて、先を行くルシウスよりもやや遅れて歩いている。
使用人用の部屋にて、ミカコ、エマ、ラグの三人は、いつもの無愛想な表情をするルシウスが、夕飯の買い出しに行くと知った時からついて行く気満々でいたのだ。
「だからと言って、ビンセント家に仕える使用人が三人も屋敷から抜けるのは……」
「心配ないわ。屋敷を出る前に、ちゃんとミセス・ワトソンから許可を得ているから」
「用意周到だな……」
得意げに返事をしたエマに驚きの視線を向けたルシウスは、
しかし……よく、許可を出したな。ロザンナ……
内心、そうぼやいた。と、その時。
「……っ!」
前方からやって来た何かが、ルシウス、ラグ、エマ、ミカコのすぐ脇を、光の速さで駆け抜けた。
「なにっ……?! いまの……」と、驚きの声を上げるエマ。
「なにか、人影のように見えたけど……?」と、動揺するラグ。
「黒髪に、黒のロングコートを着た少年だ! 後を追いかけるぞ!」
「今の一瞬で、そこまでつぶさに特徴を捉えたおまえさんはスゲーなっ……!」
光の速さで駆け抜けた相手の特徴をつぶさに把握したミカコのかけ声に反応を示したルシウスがそう、驚きとも感心とも取れるツッコミを入れる。
そうして、険しい表情をして駆け出したミカコを先頭に、エマ、ラグ、ルシウスの四人は少年の後を追いかけたのだった。
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