第172話
修一郎は言う。
コアは成長する存在であり、それを成すことができるのが勇者なのだと。
確かに勇者はダンジョン主を討伐することで、コアを掌握するか破壊するか選ぶことが可能だ。
破壊すればコアは消滅し、二度とダンジョンを生むことはない。しかし掌握することで、ダンジョンへ自在に出入りすることができるのである。
故に国々の意向としては、勇者に対し破壊よりも掌握を優先させているという話だ。
何せお偉方は、ダンジョンの素材が欲しい。掌握することで、妖魔を退け安全に素材が手に入るのならば言うことはないからである。
ダンジョンは言うなれば一つの世界といえるだろう。つまり勇者は世界を手にすることができる存在だということ。同時に勇者を抱える者もまた同様の恩恵を受ける。
そんな莫大な富をもたらす可能性のあるコアだが、掌握されることで徐々に成長することが判明しているようだ。
「勇者だけが持つブレイヴオーラ。それがコアに何らかの影響を与え成長させていると考えられているんだよ」
修一郎の説明に沖長は相槌を打ちながら聞いている。
「そもそもオーラ自体、活性化という側面を持つ。俺たち勇者でない者にもコモンオーラを扱うことができるし、それを駆使すれば肉体的あるいは精神的に強化することが可能。それは沖長くんも理解してるよね?」
「はい。まだ自分のオーラを上手く扱えませんが、オーラが自身を活性化できることは分かっています」
「うん。だがブレイヴオーラの特徴は自身の強化だけでなく、どうやら自分以外にも活性の影響を与えるようなんだよ」
「実際、俺らも勇者にオーラを分け与えられて随分助かったこともあったしなぁ」
オーラは生命力そのものと認識されているが、正確にいえば肉体と精神によるエネルギーなのだと羽竹からは聞いている。
――〝
原作が進むにつれてその言葉がいずれ表出されるようで、つまりは魂――精神と、魄――肉体の力がオーラだという。
そしてオーラの中で特別とも言われるブレイヴオーラとは、そこにさらにあるものが上乗せされる。
それが――。
「ブレイヴオーラとは、自然のエネルギーを取り込むことで生成することができるんだ」
そう。これがコモンオーラとの違い。
肉体と精神、そして自然の力を融合させて生み出したものがブレイヴオーラなのだ。
自然は世界中に存在し、あらゆるものが所持しているもの。そのエネルギーを自身に撮り込むのは一般的には不可能とされてきた。
しかし勇者という存在だけは、自然と一体化することが可能であり、また強大な自然の力を駆使できるからこそ勇者の強さは規格を外れている。
「他に分け与えられるという特徴を持っているのも、恐らくはこの自然のエネルギーによる効果だと考えられてるんだよ」
それは羽竹も言っていた。ここまで修一郎たちの説明に齟齬はない。ただあくまでも羽竹は確信しているが、修一郎たちは推察の域であることもまた事実だ。
「自然の力を取り込めるなんて……そりゃ強いわけですね」
「だろうなぁ。中には勇者の力を得たくて自然のエネルギーを取り込もうとした輩もいたが、結果はおそまつなもんだったしよぉ」
資質が無いものがそんなことをすれば自然のエネルギーの圧力に器が破壊されてしまうのだ。そして肉体が激しい損傷を負ったり、精神が崩壊したりと取り返しのつかない事態を招いてしまう。
「じゃあコアが強化……というか成長するのはその自然の力によるものと考えていいんですか?」
沖長の問いに修一郎が「だろうね」と頷きを見せた。
「……でも成長と言ってもどんなふうに成長するんですか?」
「ダンジョンにはレベルがあることは知っているね?」
「はい。ノーマルやハード、それにデビルってのがあると聞いてます。もしかしてノーマルを掌握し成長させるとハードやデビルに上がっていくとか?」
それが一番分かりやすく、誰もが辿り着く答えだろう。だが事実は異なる。
「いいや、レベル自体が上がるわけじゃない。そうだね……成長とはいったが、特にダンジョンそのものが変化するわけじゃないんだよ。何て言ったらいいのか、ノーマルはノーマルのまま質が上がるという感じかな」
質もレベルも同じだと思うのだが……。
少し分かりにくい説明だったので、反射的に小首を傾げてしまった。すると見かねた大悟が修一郎の言葉を引き継ぐ。
「言ってみりゃ、あれだ。ゲームとかであんだろ、武器の強化とかよぉ」
「あ、はい」
「あれと同じで、成長ってのは武器を鍛えてその質を向上させること。んで、修一郎が言ったレベルを上げるっつうのは、武器そのものを強いものに持ち替えるってこったな」
なるほど。これはゲームをやった者にとっては非常に理解しやすい例えだ。
ゲームなどでプライヤーが強くなるための最も簡単な方法は武器を変えること。自身のレベルが低くても、強い武器を手にすれば困難な敵も倒すことができるようになる。
そしてこの武器だが、単純に新しい街やダンジョンなどで手に入れた現在装備中の武器よりも強いものを手にするのが一般的だろうが、装備中の武器そのものを素材などを組み合わせて強化するといった手法もあるのだ。
どちらも強くなるという意味では同じだが、手法がまったく異なる上、制限やリスク、あるいは手間などは後者の方が圧倒的に持ち合わせているだろう。
「まあでもたとえ最初はノーマルコアを掌握していても、次にハードコアを掌握すれば簡単に成長させることもできるんだけどね」
これも武器を変えるのと同じなのか、より質の高いハードコアを掌握することで、所持していたコアのレベルが一気に上がるとのこと。
「それができるのは勇者だけ……だから妖魔人は勇者を利用しようとしてる?」
「お、気づいてたか。沖長の言う通り、奴らは勇者にコアのレベルを上げさせ、そのあとに回収する腹積もりなんだよ。ったく、クソめんどくせえ野郎どもだぜ」
原作で、水月がまんまとユンダに利用されたようにである。
「じゃあ極端な話、誰もダンジョンを攻略しても掌握しなければ魔王は復活できないってことですよね?」
「……確かにそうなんだけど、ね」
沖長の言葉に正当性があると認めながらも、修一郎や大悟は複雑そうな表情を見せている。
「フン、国のお偉いさんたちが、せっかくの金のなる木を手放すわけねえだろうがよぉ」
つまりリスクはあれど、やはりダンジョンで手に入る素材が魅力的過ぎるというわけだろう。故に魔王復活の危険はあっても、自国のために、あるいは自身の欲のために一方的にコアを破壊するという方法を取りたくないのだ。
(なるほどね。だから国民に黙っての事業ってわけだな)
魔王に地球が滅ぼされかねないと知れば、当然ながら反発する者は出てくる。国と民との間で亀裂が走り、下手をすれば内戦が勃発。だからこそ国は秘密裏に事を運ぶしかない。
沖長に言わせれば、国家のためという免罪符を使い、民の命を天秤にかけている所業は愚かな行為でしかないと思う。
「ま、そういう諸々の事情があるってことで、その対応策として俺がコイツに呼ばれたってわけだ」
大悟が修一郎をめんどくさそうに指を差しながら言った。
「でも大悟さんもダンジョンに入れないんですよね?」
彼がダンジョンを攻略できるならこれほど頼もしい力はないが、残念ながら候補生でもない彼には無理な話なのだ。
「まあな。だからよぉ、今後何が起こってもいいように、お前らを……いや、沖長。特にお前を鍛えに来たんだよ、俺はな」
「………………はい?」
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