第41話
「じゃあ互いに敵対しないってことでいいんだな?」
これは最も優先順位が高い確かめるべきこと。
「まあ君が僕の邪魔をしなければ、という条件がつくけどね」
「……それだ」
「ん? それ?」
「そう。その邪魔って言葉。正直こっちはできるだけ平和に暮らしていきたいって思ってるんだよ」
「…………」
「ナクルとも今のところ距離を取ろうとは思わない」
「……それで?」
「その過程で、こちらにそういう意識はなくても羽竹にとって邪魔になるような行為をすることだって考えられるだろう」
「……まあ、ね」
「だから教えて欲しいんだよ。羽竹にとって邪魔になる行為とは何か。それさえ知っておけば、下手に藪を突くこともないし、どうしても突かないといけない場面でも羽竹に一報を入れることだってできて対処しやすい」
「なるほど。つまりは情報交換がしたいと、そういうことかな?」
やはり同じ転生者でも銀河とは違って察しが良いようで助かる。
「そう。それに金剛寺や羽竹は、この世界について詳しいんだろ?」
「……? その言い方だと、君はもしかして……知らないのか、この世界のことを?」
「これまでの話の流れから、ナクルが主人公の物語だってことは理解してるつもりだぞ」
「っ……これは驚いたな。まさか何も知らない奴が、この世界に転生してるなんて」
そんなにおかしなことなのだろうか。確かに銀河にしろ赤髪にしろ、そして羽竹もまた熟知しているようだが、本当の意味で沖長はイレギュラーなのかもしれないが。
「嘘を吐いている……というわけでもなさそうだね。しかし……はぁ。なるほどね。君を監察していて何となく違和感を覚えてたたけど、まさかそういうことだったとは」
「違和感?」
「ナクルの物語を知ってて、彼女に近づく転生者がいることはおかしくはない。あの銀髪たちのように、ナクルたち美少女キャラクターを自分のものにしたいって思うのは有り得る。まあ決まってそういう奴らは踏み台扱いされるけど。そういう二次小説も多いしね」
あまり二次小説を読んだことがないので分からないが、銀河たちみたいな面倒なキャラが多いとは、原作キャラたちにとっては迷惑でしかないだろう。
「けれど君は、どうにも立ち位置が分からなかった」
「立ち位置?」
「君、ナクルの道場に通ってるでしょ?」
そこまで知っているとは、本当にこちらを監視していたようだ。
沖長は「ああ」と端的に答えると、そのまま長門が続ける。
「最初は当然、君のこともナクルを手に入れたいと近づく踏み台かって思ったんだけど、どうも必要以上にナクルに接したりしないし、逆にナクルが君のことを慕い始めていた」
「まあナクルが主人公だって知らないし、一応こっちは精神的に大人だぞ。ナクルみたいな子供を手に入れたいなんて欲求はない。ロリコン、ダメ、ゼッタイ」
「……別に今は僕たちも子供なんだから世間的には問題ないと思うけどね。まあ、それは良いとして。原作キャラがイレギュラーに懐く。そういう二次小説もあるんだけど、それが強制的か、あるいは自然の流れなのか、一応確かめておきたくて昨日は接触を図ったんだよね」
「強制的?」
「まあ、いわゆる洗脳とか魅了の力で無理矢理なんて、クズ転生者にはありふれた設定なんだよ」
そんな嫌な設定があるのかと呆れてしまう。
(ん? そういや金剛寺の周りに女子が多いのってもしかして……)
初対面の女子でも、ほぼ金剛寺を見てその容姿に見惚れる。今ではクラスのほとんどの女子が金剛寺に惚れている様子だ。
それを長門に伝えると、彼は不愉快そうに眉をひそめる。
「やっぱり何かしらの魅了属性持ちだったようだね。学校でも小学一年生なのにもかかわわらず、多くの女子生徒を侍らせているって噂が広がってるし」
そんな噂があったのか。いや、あれだけ毎日女子に囲まれている男子がいれば噂にもなるか。
「けれど、君はそういう力を持っていない。ナクルも洗脳されている様子はなかった。だから君は、クズ転生者タイプの人間ではないって判断したんだ。だからこうして話そうと思ったんだけどね」
どうやら昨日の件で、沖長が少なくとも銀河のような質の悪い性格と能力の持ち主ではないことを悟ったようだ。
「でも何も知らずに主人公であるナクルと出会い、そのまま付き合いが始まるなんて……君はいわゆるオリ主ってヤツなのかな」
「おりしゅ? 何だそれ?」
「二次小説におけるオリジナル主人公。まあ作者の欲望を体現したような存在だね。考えたことはないかい? この物語の中に自分がいればとか、もっと能力の強いキャラがそこにいればとか、さ」
「まあ……ないことはないな。冒険の世界に憧れたことはあるし」
とはいうものの、それが特別なことではなく、アニメやゲームなど触れたことのある者なら多少なりとも考えることだとは思うが。
「まあ一種のパラレルワールドだね。中には原作には関わらず自由に生きようとするオリ主もいるけど」
「……それって物語として成り立つのか?」
関わらないなら、わざわざ原作がある物語に転生しなくてもいいと思うが。
「そこはまあ……やっぱり関わらざるを得ない事件に巻き込まれたりして、結果的に関わる話がほとんどだけどね」
「なるほど。なかなかハチャメチャだな二次小説……」
ちょっとだけ興味が湧いてきたので、今度読んでみようと思う。この世界にあるのかは不明だけど。
「とりあえず君は比較的まともな思考をしていると判断した」
「それはありがたいな。じゃあそんな何も知らないまともな思考を持つ俺に、是非ともいろいろご教授してもらいたいんだけど」
「そうだね……正直僕にとってはメリットはあまりなさそうだけど、ある条件を飲んでくれるなら情報を提供してもいいよ」
どうやらここが分岐点らしい。答えを謝ったら、下手をすればこれで長門との繋がりを失うかもしれない。だから慎重にならないと、と改めて身を引き締めた。
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