第5話
夕食の買い出しをしてから自宅に戻ってきた沖長たち。
葵は掃除やら洗濯物などの家事に勤しみ、悠二はスイミングスクールの事務処理のために自室へと向かったので、沖長もまた自分の部屋で今日判明した自分の能力について考察していた。
神が気を利かせてくれてプラスアルファを能力に付与してくれたことは分かったが、それにしてもプラスの要素が強烈過ぎた。
正直いって予想外な機能ばかりで神に対してやり過ぎだと思っていた。
それでも冷静に考えてみれば、どれも非常に便利で使い勝手の良いものばかり。
「まあ……確かに使い勝手の良い《アイテムボックス》を願ったけどさ……」
不満は何一つない。それどころかこれだけのものをもらったことが何となく申し訳なささえ覚えるほどだ。
「けどもらった以上はありがたく使わせてもらいます。ありがとうございます、神様」
合掌しながら、神へと感謝を告げる。
そして改めてリストを開いて能力を確かめていく。
(整理してみよう。まず《アイテムボックス》に〝回収〟したものは、その瞬間に個数が無限化する)
試しに部屋にある絵本やティッシュ箱などを〝回収〟してみたが、先に〝回収〟したものと同じように個数が無限と化していた。
「マジで便利だな。これでもう一生ティッシュには困らないし、絵本を古本屋とかに売れば何割かの金銭も回収できる。まあでも……単純に金銭を増やすのは危険だよな」
当然一万円札などの金を〝回収〟すれば、それこそ無限の富を手にできるが、それは複製と同じであり要は偽札となってしまう。それを使うにはリスクがあり過ぎる。
悪党なら何も考えずに使用するだろうが、トラブルをできるだけ抱え込みたくない人生を送りたい自分としては避けたい行動だ。
「それにこれなら食べ物にも困らないだろうし、それだけでも十分過ぎる」
例えば一人暮らしをしたとして、やはり一番の支出は食費であろう。それがその気になれば皆無となるのだから驚嘆ものだ。それに日用品も、一度購入するだけで一生涯困らないのだから素晴らしい。
「〝消去〟の機能があればゴミ出しとかも必要なくなるしな」
一般家庭はゴミを分別し、住んでいる地域のゴミ置き場に持っていく必要がある。しかしこの能力があれば、わざわざ分別しなくても任意でこの世から消すことができる。
「あとは〝再生〟だけど、これがまた強力だよな」
試しに悪いと思いながらも、絵本の表紙を破ったあとに〝回収〟して〝再生〟してみた。そのあとに取り出して新品になっているのを見て嘆息する。
(もう何て言ったらいいか分かんないけど、欲しいものがあったら中古でもジャンク品でも問題ないってことだよな)
たとえ壊れて動かない電化製品などでも、新品にすることが可能。本当にデタラメな機能である。
ということで、とりあえず部屋のものを片っ端らから〝回収〟して、また取り出して設置しおいた。
すぐに必要になるようなものばかりではないが、それでも何かしらに役立てると思うから。まあエアコンのリモコンや今年のカレンダーが無限にあってもどうしようもないとは思うが、別にいつでも消せるし持っていても問題はない。
「う~ん、でもランクは〝F〟ばっかだなぁ」
この部屋にあるものだけでも、値段にしたらピンキリだ。ゴミ同然の価値のものから、そこそこ値の張るベッドやクローゼットなども同じランク。
「金銭的価値でランクが決まってわけじゃないのかな……?」
そう思い、自室を出て家事をしている葵にバレないように家の中の物を手あたり次第に〝回収〟していく。当然〝回収〟したあとは、すぐに一個だけ取り出して元に戻している。
しかしテレビを回収したのはいいが、取り出してアッとなった。何故ならコンセントやレコーダーなどに繋がっている配線などが外れていたからだ。
(ヤバッ!? このままじゃテレビが映らないじゃんか!?)
慌てて配線を繋いでいく。あまり音を出してしまうと葵に気づかれてしまうから、できるだけ隠密にかつ素早くこなしていった。
そうして〝回収〟したものの確認は後回しにし、とりあえず回収ミッションを終えると、また自室へと入ろうとすると、悠二が仕事部屋から出てきた。どうやらトイレに向かったようだ。
しめたと思い、素早く悠二の部屋へ侵入する。ここには高級そうなテーブルや椅子、トレーニング機器やパソコンなどがあるので、それも〝回収〟させてもらうつもりだった。
しかしここでパソコンが起動していることに気づく。
(パソコンは止めとくか。さすがに急に電源が切れてたらおかしいだろうし)
それに作業中みたいだし、データが飛んだりしたら申し訳ないので、残念ながらまた使っていない時にしようと思った。
そうやって〝回収〟しても支障がないものだけを素早く頂いていく。大き過ぎるものは、同じ場所に戻すことができないかもしれないので、棚そのものではなく、引き出しを開けて中身だけを〝回収〟した。
あまり長居すると悠二が帰ってきてしまうので、ここら辺で切り上げることにする。
そして急いで自室へと向かおうと悠二の仕事部屋から出たその時だ。
「あらぁ? 沖ちゃん?」
「え?」
そこには洗濯物を抱えた葵が立っていた。
(うわ、見つかってしまった……!)
潜入ミッションが失敗してしまったことに焦る。
「こーら、そこはパパのお部屋でしょぉ? もしかして悪戯でもしたのぉ?」
口を尖らせながら叱りつけてくる。
「ご、ごめんなさい……扉が開いてたから気になって」
「もうダメよ。ここはパパのお部屋なんだしねぇ」
どうやらあまり怒られはしないようだ。ホッと息を吐いていると、そこへ悠二がトイレから帰ってきた。
「どうしたんだ?」
そう問う悠二に葵が軽く説明した。
「なるほどな。まあ、危険なものは置いてないし……あ、パソコンは触ってないか?」
「う、うん、チョコがあったからもらっただけ!」
実際にテーブルの上に置かれた籠にはチョコや飴などの菓子が入っていた。
「ははは、ならいいんだよ」
そう言いながら頭を多少強引に撫でてきた。そしてそのまま笑いながら部屋へと戻っていく。
「もしかしてお腹が空いてたのぉ? あ、昨日買ったアイスでも食べる?」
「い、いいの?」
別に腹も減ってないし食べたいとは思わないが、そういうことにしておいた方が良さそうなので葵と一緒にリビングでアイスを食べることになった。
冷蔵庫も〝回収〟しておきたかったが、テレビの件があるので控えたのだ。冷蔵庫の裏の方にコンセントがあり、壁と食器棚に挟まれているから子供ではコンセントを指し直すにはなかなか困難なのだ。
とりあえず隙を見て、食べる前にカップアイスを〝回収〟し、すぐに一個だけ取り出して食べ始めた。
おやつタイムが終わったあと、ようやく落ち着いて自室で回収物を確認することができる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます