第4話
色々気になることがある。
まずそれぞれの名称の前についている〝F〟というのは何なのか。
するとそれはすぐに解明することができた。先ほど確認した〝新着〟などの枠の延長線上に〝ランク別〟というのがあったのだ。
そこに指で振ると、画面が切り替わり今度は〝A〟やら〝D〟などのアルファベットが刻まれている。
また〝F〟もあったので押してみると、白紙だった画面にまたさっきと同じペットボトルたちが浮かび上がる。
どうやら〝回収〟したものそれぞれにランクが自動でつけられるらしい。こういう場合、〝S〟が一番高いことが多いが、その上に〝SS〟と〝SSS〟があった。
そして〝F〟が最後ということは、まず間違いなく最低ランクなのだろう。まあゴミクズだから当然と言えば当然だろうが。
(誰がランク付けしてんだろ? 神か? ……まあいいや、貴重さがハッキリしてて分かりやすいし)
こんな便利機能は望んでいない。そもそも検索システムもだ。
沖長が望んだのは――。
【便利で使い勝手の良いアイテムボックス】
これをどう解釈してくれたのか、問い質す時間もなかったため分からないが、今のところ不満はないので問題ない。
(次は……このマークだよな)
名称の最後についている〝∞〟のマーク。普通だったら何個所持しているかを表す数字だと思う。
(……! いや待てよ、数字……じゃなくてこれ無限を示す記号か?)
そう思いついてすぐに考えを捨て去る。何故なら〝回収〟したのは個数にすると全部で六つだ。ペットボトルが二個でウキも二個。だったら〝2〟と書かれるのが普通だ。
ならこのマークは一体どういう意味なのか……。
(そうか、取り出してみれば分かるよな)
ペットボトルの文字に触れると、また別画面でペットボトルの説明欄が出現し、さらにそこには困惑する文字が存在した。
〝使用〟〝消去〟〝再生〟
まず〝使用〟は分かる。これは取り出して使うことを示しているはず。だが残り二つが困惑の原因だ。
確認してみると、どうやらこの〝消去〟は文字通りリストからの消去。外に捨てるのではなく、存在そのものを抹消するらしい。消えたものがどこに行くのかは分からないが、考えようによってはとてもエコな便利機能だった。
そして残った〝再生〟とは、想像以上にとんでもない機能を備えていた。
何故ならこの機能――破損したり中古だったものを再生し戻すことができるからだ。
つまりグシャグシャだった使用済みのペットボトルを、綺麗な新品にすることが可能なのである。
(な、何そのチート……?)
思わず顔が引き攣ってしまった。
だってそうだろう。この機能さえあれば、たとえ修理不可能だと烙印を押されたものでも新品で戻ってくるのだ。これは便利とかそういう言葉では表現できないほどの力である。
ただし中身までは再生することができない。元々ペットボトルに何かが入っていたとしても、その中身の液体などは再生することは不可能らしい。そしてそれは駄菓子の袋にも言えることであり、できることは見栄えを整えることだけのようだ。
(それでも壊れたものが治るんなら十分過ぎるけどな)
当然こんなチートを要求したつもりはない。沖長としては、自在に物を収納して取り出せるだけのものをイメージしていたから。
「……と、待てよ。じゃあこの記号……マジで無限ってことなんじゃ……」
そしてとりあえず〝使用〟を押して目立たないウキを取り出してみることにした。すると【×1】と表示が現れ。その上下には矢印があった。
恐る恐る上部の矢印を押すと、【×2】となり、通常ならここでストップするはずだが……押し続けていると、どんどん数字が上がっていく。
「………………」
そうして【×2340】になったところで、沖長はフッと静かに笑みを浮かべると、一旦リスト自体を閉じた。そして力強く立つと深く息を吸って……。
「どんだけだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
全身を震わせながら、天に向かってツッコミを入れたのであった。
「ちょ、ちょっとどうしたの沖ちゃん!?」
マズイ。後ろに葵がいることをすっかり忘れてしまっていた。ただそれほどまでにショックだったということだけは分かってもらいたい。
「い、いや、その……ほらっ、ゴミがこんなにあるからダメだろーって思って!」
咄嗟にしては上手い言い訳ではなかろうか。その証拠に、まだ〝回収〟していないゴミがあるので、そちらに意識を向けさせた。
「まあ、本当ねぇ。海はみんなのものなのにいけないわぁ」
そう言うと、葵は所持していたバッグからエチケット袋を取り出すと、そこにゴミを拾って入れ始めた。
こういうことが自然とできるなんて、本当に我が母ながらできた人格者である。
沖長も、言葉にした手前、ゴミ拾いを手伝うことになった。〝回収〟すればすぐに終わるが、さすがに今は葵が近過ぎてバレかねないのでできない。
そうして十分ほどゴミ拾いをしていると、さすがに水と風の冷たさで手がかじかんできた。それなりに綺麗にもなったところで切り上げて、悠二のところへ戻った。
ちなみにゴミは砂浜に設置されているゴミ置き場にちゃんと分別して置いてきた。
悠二の傍に置かれたバケツを見てみると、そこには数匹の魚がいるので、どうやら坊主ではなかったようだ。
「へぇ、ゴミ拾いしてたのか、偉いじゃないか、沖長」
「へへへ、でも手が氷みたいになっちゃったよ。ね、お母さん?」
「そうそう。だからあったかぁいものでも食べたいなぁ」
暗に早く終わらせて食事行こうと言っているのだろう。どちらかというと沖長も賛成派である。
悠二はそこそこ釣果があったことで満足していたのか、二人の気持ちを察して片づけを始めた。
釣った魚を調理してもらえる店が近場にあるようなので、三人でそちらに足を伸ばす。
昼時ということもあって、店内は九割ほどの客で埋まっていて、ギリギリ並ばなくてもテーブルに着くことができた。
注文してしばらく待っていると、美味しそうな海鮮料理が出てきて、思わずよだれが溢れてくる。刺身や焼き魚など、悠二が釣った魚が極上の料理となって帰ってきた。
特に湯気が立ち昇るあら汁が、とても魅力的に見える。さっそく沖長と葵はあら汁から頂くことに。
「「んぅ…………はふぅぅぅ~」」
親子らしく、リアクションが一緒だった。
この熱いくらいのだし汁が冷え切った身体を温めてくれる。魚の旨みがたっぷりと出ていて、それでいてあっさり系だから物凄く飲みやすい。
次いで刺身も口にするが、ついさっきまで生きていたからか身がプリプリとしていて美味しい。それにこのなめろうも最高だ。つい子供だということを忘れてビールが飲みたくなるが、ここは大人になるまでグッと我慢だ。
「沖ちゃんってば、そんなに刺身好きだったっけ? なめろうも食べちゃって」
「え? あ、うん! だって美味しいし!」
確かに子供が好むようなものではなかったかもしれない。特になめろうは。
「ん~そっかぁ。じゃあ今度から魚料理もい~っぱい作ったげるからねぇ~」
良かった。大して不思議がられずに済んだ。
そうして転生してから初めての外食は有意義なものであった。
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