第24話 ダブルデート
ダブルデート当日、ソフィアは屋敷から持ってきたピンクのドレスを着て国立病院の前でメアリーと騎士たちを待っていた。
「ソフィア様、そのドレスとってもお似合いですね。それにとても高価な物のように見えます」
「ありがとうございます。ノア様から頂いていたもので、私もなかなか着るのがおこがましいような気がして袖を通すのは二回目なんです」
メアリーは驚いたように目をぱちくりとさせる。
「二回しか着ていないのですか? 勿体無いです。普段使いできるデザインですし、もっと着ても良いと思いますよ」
「そうですね。機会があればまた着ようと思います」
そうしているうちにお相手の騎士たちがやって来た。
「ディラン様」
「メアリーさん、お待たせしました」
「いえ……」
メアリーのお相手ディランは短髪で好青年という感じだ。
「聖女様も今日はありがとうございます。こちら、上司で第二騎士団のライアン団長です」
「「団長様?!」」
ベンソン以外なら誰でも良いと思っていたが騎士団の団長が来るとはソフィアもメアリーも思っていなかった。
「はじめまして。ライアンです。団員以外に団長と呼ばれるのは慣れないから二人はライアンと呼んでね」
「ではライアン様と呼ばせて頂きます。ね、ソフィア様?」
「はい。私の事も聖女様ではなく、ソフィアとお呼び下さい」
自己紹介を終えた四人は病院から歩いてすぐの街へ向かう。
「前回、レストランで食事をした時はメアリーさんあまり食べられていなかったので、甘い物の方がいいかなと思って美味しいパンケーキがあるお店にしてみました」
ディランに案内されやって来たのはおしゃれなカフェだった。
「ディランさん、メアリーさんの事よく考えていらっしゃるし、このお店も素敵ですね」
ソフィアがメアリーに囁くと顔を赤くして頷く。
「はい、本当に素敵なお方なんです」
カフェに入るとソフィアとメアリーはそれぞれパンケーキを注文し、ディランとライアンはワッフルプレートを注文した。
「皆さん甘い物がお好きなようで良かったです」
店を選んだディランは安心したように柔らかく笑う。
「ところでどうして団長様であるライアン様が来て下さったのですか?」
ソフィアは会った時から気になっていた事を尋ねる。
「それは、一緒に来てくれる人がいないって泣きつかれたんだよね」
ライアンはディランの方を向きにこりと微笑むと、ディランは気恥ずかしそうに肩をすくめる。
「仲の良い団員にはことごとく断られたんです。甘い物は食べないとか、婚約者がいるからとか。あと、後でベンソンさんにバレるとうるさいからって……」
ディランはベンソンよりも後輩のようだった。
「ソフィア君はベンソンの事嫌いなの?」
ライアンが突拍子もない事を聞いてきた。
「えっ……と。嫌い、という訳ではないですが……」
「そう。頑なに拒んでいるって聞いたから。変なこと聞いてごめんね」
「いえ……」
ソフィアもメアリーもびっくりしたが、運ばれてきたパンケーキがあまりにも美味しく、二人で顔を綻ばせながら夢中で食べた。
カフェを出た後四人は街を歩いて回る事にした。メアリーとディランは並んで歩き、その少し後ろをソフィアとライアンが歩く。メアリーは時折ちらちらと後ろを伺っていたが、なんとか会話は弾んでいるようだった。
「あの二人、きっと上手くいきますね」
「そうだね。では僕たちはここらで撤退しようか」
「え?」
ライアンは一瞬振り向いたディランに手を振るとソフィアの手を引き路地裏の方へ入っていく。抜けた先には広場があり、そこのベンチに腰掛けた。
「急にごめんね。実はディランから頼まれていたんだ。今日、告白したいから途中で分かれたいって」
「まぁ! そうだったのですね!」
ソフィアはメアリーが今から告白されるのだと思うとなんだか嬉しくなる。
「彼らはきっと上手くいくよ……」
けれど何故かライアンは物悲しそうだった。
「そういえば、ライアン様はまだご結婚されていないのですか?」
ライアンはソフィアの顔を見ると首を横に振る。
「実はこの年で昔からの婚約者に婚約破棄されたんだ」
ライアンの返答にソフィアは聞いてはいけない事を聞いてしまったと後悔した。
「えっと……すみません」
「いいんだ。親が決めた婚約者だったし、この年まで仕事にかまけて結婚しなかった僕が悪いんだよ。相手は知り合ったばかりの男性とあっという間に結婚していったんだ」
それでもライアンの表情から相手の事をちゃんと思っていたんだろうなとソフィアは感じた。
「これからきっと、良い出会いがあると思います」
「いや、もう年だしこれからは仕事に精進するよ」
ライアンの諦めたような様子に出会った頃のノアと良く似ていると思った。
「まだ人生は長いですよ。ところで、ライアン様はおいくつなのですか?」
「ありがとう。年は二十七だよ」
「ノア様と同じ……」
ソフィアは無意識にノアの名前を出していた。
「ノア王子とは幼なじみだったよ。王城を出る前は専属護衛だった」
「え……?」
ライアンがノアの幼なじみで専属護衛だったことに驚いたソフィアは固まってしまう。
「僕の家は代々近衛騎士の家系で、同い年ということもあって、昔からノア王子の護衛をしていたんだよ。王子が自由に生きると言って王城を出てから僕も近衛騎士団から、ずっと行きたかった第二騎士団に異動したんだ」
「そう、だったのですね。どうして第二騎士団に行きたかったのですか?」
近衛騎士団は主に王族の護衛をしており、騎士団の中でも花形だ。一方、第二騎士団は魔物討伐や国境警備を主に担っている、一般的には地味で分の悪い士団だ。
「人の護衛をするより魔物を討伐する方が性に合ってるんだ。綺麗な制服を着て基本立っているだけなんてつまらないよね」
代々近衛騎士の家系だったため諦めていたが、ノアが王城を出る事をきっかけに異動が叶ったのだった。
「そういえば、前回の討伐の時病院にはいらっしゃっていませんよね?」
「ああ、防御魔法が得意で怪我はあまりしないんだ」
「それは凄いですね!」
「だけど、防御魔法を使いながらの攻撃魔法はどっちも力が半減するんだよ。もっと鍛練しないとね」
「団長にまでなってらっしゃるのにもっと上を目指すのですね。尊敬します。私も、もっと優秀な聖女になりたいと思っています」
「新しい聖女様は優秀だと皆言っているよ。魔力の質も良いって」
ライアンは優しく褒めてくれたがソフィアは真剣な表情だ。
「いえ、私はまだまだです。それに、ある方の隣に立っても恥ずかしくないような人間になりたいのです」
「それってノア王子の事でしょ?」
名前は言わなかったのにあっさりとばれてしまった。
「えっと……はい。わかりますか?」
「わかるよ。でもノア王子は妻を捨てたって噂になってるよ」
「捨てられてなんていません。お互い目的を果たすためにするべき事をする時なのです」
「そうだね。王子はそんな人ではないってわかってるよ」
「はい。ノア様はとても優しく聡明な方です」
ソフィアはノアの事を思い、穏やかに笑う。
「本当にノア王子の事が好きなんだね。きっと君たちも上手くいくよ」
「ありがとうございます」
「ノア王子の昔の事が聞きたかったら何でも聞いてね。何せ専属護衛だったから」
冗談めかして言うライアンにソフィアも自然と笑みが溢れた。
思いの外会話が弾んだソフィアは、ベンソンの事があり、騎士に対して苦手意識を持っていたが、ライアンのような人なら良い友人のようになれるかもしれないと少し心が軽くなった。
しばらく話をした後、ライアンに病院まで送ってもらった。
「わざわざ病院まで送って頂いてありがとうございました」
「女性を送り届けるのは当たり前だよ。じゃあ、またね」
「はい」
ライアンを見送り、病院の寮に戻ったソフィアはメアリーが帰ってくるのをそわそわしながら待った。
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