第11話 聖女の魔力
次の日、ソフィアはノアが起きてくる前に屋敷を出た。
国立病院に着くと昨日と同じように負傷者の治療を始めたソフィアだったが、ふと気付くと何故か自分の前に騎士たちの行列が出来ていることに気が付く。
何事かと隣で変わらず治療をしているマリアに声をかける。
「あのマリアさん、皆さんすごく並んでいるのですが……」
昨日ソフィアが治療した者はほとんどソフィアの前に並んでいた。
「ソフィアさんの魔力と相性が良かったんではありませんか?」
「相性?」
「怪我の治療は急激な傷口の修復で多少の苦痛は伴うものです。ですが、魔力の相性が良ければその苦痛も最小限で済むのですよ」
「そう、ですか……それにしても多いような」
「ソフィアさんの魔力は怪我の治療に向いているのかもしれませんね。まぁ重症の人は居ないようですし、待てる患者ばかりだからそのままお願いします」
「わかりました……」
怪我の治療に向いていると言われたソフィアはノアの事が頭をよぎった。
ノアとの治療の相性はどうなのだろうかと。
「あの……」
手が止まってしまい並んでいる騎士に声をかけられた。
「すみませんっ。あなたは、昨日の肩の」
「はい。気を付けてと言われたのにまたやってしまいました」
「いえ、軽い怪我のようで良かったです」
「それにしても新しい聖女様の評判はとても良いですよ。僕だけでなく、他の皆もあなたの魔力は心地が良いと言っていました。治療の際の苦痛もないし怪我が治るだけでなく、体も軽くなるんですよ」
「そうなのですね。皆さんのお役に立てているようで良かったです」
ソフィアは昨日一日で少し慣れてきたのと軽症の患者ということもあり、会話をしなからでも治療ができるまでになっていた。
「あの、終わったら次お願いします」
「あ、すみません」
「聖女様、ありがとうございました」
怪我が治った騎士はまた現場へ行くと言って戻っていった。
その後もソフィアは休む暇もなく治療を続けた。
「ソフィアさん、大丈夫ですか?」
マリアに声を掛けられたが、ソフィアの顔色は悪く、魔力を込める手は少し震えている。
「はい、なんとか。この方で最後ですので」
ソフィアは最後に並んでいた騎士の治療をした。
だが、相性が悪かったのか、疲れていて魔力が不安定だったからなのか
「新しい聖女様は評判が良かったからここまで待ったのに期待外れだったな」
そんな事を呟きながら騎士は戻っていく。
「すみません……」
ソフィアは戻っていった騎士の背に謝罪した。
「ソフィアさん、気にしないで下さいね。たまにああいう人も居るんです。怪我が治っただけでもありがたいと思って欲しいですよね」
マリアは呆れたように騎士を見送った。
「いえ、私の力不足だと思います」
ソフィアは感じたことのない疲労感と先ほどの騎士の言葉に落ち込んでいた。
「二人ともお疲れ様」
ルイスが魔術師団の仕事を終えて戻ってきた。
「ルイス様、お疲れ様です」
「ソフィア君、ちょっと魔力の消費が多いようだね。もう帰って休もう。マリア君、後の事お願いしてもいいかな?」
「はい、ルイス様。ソフィアさんゆっくり休んで下さいね」
「マリアさん、ありがとうございます」
ソフィアはルイスに送ってもらい、屋敷に帰った。
その日もカイルに出迎えられたが、ノアはもう寝ているようだった。
二日間ノア癒しの治療ができていないことを心配しながらノアの部屋の前を通り過ぎようとした時、なにやら苦しげな声が聞こえくる。
「ノア様……?」
部屋のドアを少し開け、ベッドのある方を覗いてみると、ノアは大量の汗をかき、息は荒くうなされているようだった。
「うっ……はぁはぁ、」
ソフィアは急いで部屋へ入りノアの側へ寄った。
「ノア様、大丈夫ですか?」
声を掛けてみたが起きる様子はない。
ソフィアはノアの額にそっと手を当てた。
「すごい熱だわ」
胸元を少し開けてアザを見ると二日前はかなり薄くなっていた箇所も濃く戻っている。
「あまり魔力は残っていないかもしれないけど」
ソフィアはノアのアザに手を当て瘴気を払うと、次に額から熱を放出するイメージで魔力を込めた。
しばらくするとノアの呼吸は落ち着き、穏やかな寝息をたて始めた。
「良かった……」
ソフィアは寝たままのノアをそっと抱きしめると起こさないように静かに部屋を後にした。
「今日は本当に疲れた……」
自室に戻ると倒れ込むようにベッドに横になる。
「終わりの方の患者さん何人かは治療中少し苦しそうだった……」
ソフィアは自分の疲れと比例して治療に影響がでていることを薄々感じていた。
だが、怪我が治り感謝してくれる騎士がほとんどだったため無理に治療を続けていたのだ。
「最後の患者さんはマリアさんにお願いすれば良かったのに、私のせいで苦しい思いをさせてしまった。ノア様の治療だってちゃんと出来ていないのに……」
ソフィアは自分の不甲斐なさを感じながら落ちるように眠りについた。
次の日の朝、まだ疲れは取れておらず、魔力もあまり回復してないと感じていたが、なんとか体を起こし準備をした。
その日迎えに来た馬車には何故かルイスは乗っていなかったため、ソフィアは一人で国立病院へ行き、治療室へ向かう。
「おはようございます」
部屋へ入るとすでに大勢の負傷した騎士たちが待っていた。
「ソフィア君、おはよう。迎えに行けなくてごめんね。討伐は今朝終わって負傷者を全員ここに送ってたんだ。ここにいる人たちで終わりだからよろしくね」
「討伐は終わったのですね、良かったです」
ソフィアはすでに治療を始めているマリアの所へ行く。
「マリアさん、遅くなりました」
「ソフィアさんおはよう……」
「あなたがソフィアさん?」
「あっ、はい」
声を掛けてきた秀麗な女性は一目見ただけで自分とは生きて来た世界が違う人だと感じた。
「フローラ・ディアスよ」
(この方がフローラ様……)
ソフィアは緊張しながら頭を下げ挨拶をした。
「ソフィア・ハワードです」
「ええ、知っているわ。現場でもあなたの事は噂になっていたの」
「そう、ですか……」
良い噂なのか悪い噂なのかソフィアは不安になる。
「それしてもソフィアさん、そんな魔力の状態で今日の治療大丈夫?」
「っはい、大丈夫です」
本当はすこし辛かったが、今日で最後だということと迷惑をかけるわけにはいかないと平気なふりをした。
「そう……それじゃあなたを待っていた騎士たちがいるから彼らをお願い」
フローラが指す方には二日間ソフィアが治療した者たちが集まっていた。
「わかりました」
「ソフィアさん、無理はしないで下さいね。何かあったら声かけて下さい」
マリアに心配されつつもソフィアは治療を始めた。
だが、治療を始めてしばらくするとソフィアはだんだんと意識が遠のいていき体に力が入らなくなるのを感じる。
(あ、まずいかも……)
そう思った時にはもう目の前が真っ暗になりその場に倒れ込んだ。
「ソフィアさんっ!」
「ソフィア君!」
「聖女様!」
たくさんの人の声が聞こえたがソフィアはそのまま意識を失った。
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