第8話 ルイスの依頼
ある日、朝からルイスが二人を訪ねて来ていた。
書斎でノアとソフィアは隣合って座り、ルイスは向かいに座っている。
「ノア、呪いはだいぶ解けてきているんだね?」
「わかるのですか?」
「アザの瘴気のせいでほとんど見えていなかった魔力が今は良く見えるよ」
「そうですか。確かにアザは薄くなって、体調も以前よりかなり良いです」
ルイスはソフィアの方を向き爽やかに微笑む。
「さすがだね。魔女であり、聖女でもある君をノアの相手に選んで正解だったよ」
「いえ、実はまだこれが呪いを解く方法だ、とはっきりとしたものはわかっていないのです」
「そう、私には何となくわかってきたけれどね……」
ルイスは二人には聞こえないくらいの声で呟いた。
「それで、ソフィア君にお願いがあって来たんだけど」
「お願い……えっと、はい……何でしょう」
ルイスの隙のない笑みに嫌な予感がするソフィアは歯切れの悪い返事をする。
「三日間だけ、聖女として働いてくれないかな?」
「聖女として……」
「数日前から西の森に魔物の討伐隊が出動しているんだけど、けっこう被害が大きくて」
ルイスは困ったように息をつく。
「今いる聖女の三人のうち一人は討伐隊と西の森へ行っている。一人は国立病院の通常の診療、一人が現地から病院へ送られてきた患者の治療をしているんだけど、その送られてくる人数が多くて一人では診きれないんだよ。もう討伐の目処はたっているから三日間だけ手伝いに来て欲しいんだ」
「叔父上! ソフィアは怪我の治療はしたことがありません。傷を修復するとなると魔力の消費も大きいし、無理はさせたくありません」
ソフィアが返事をする前にノアが答えた。
「何事も経験しないと出来るようにはならないよ。それにノアに嫁いだ女性が聖女だって噂もどこからか広がっているんだよ。こんな一大事に見ぬふりをしていては彼女の今後に影響がでるかもしれないよ」
今後の影響とはソフィアが癒しの魔力を持ちながらそれを隠し、国民のために働かなかったという悪評が一生ついて回る可能性があるということだ。ノアは心配そうにソフィアの方を見る。
「お役に立てるかどうかはわかりませんが、私が出来る事があるならさせていただきたいと思います」
「ソフィア、無理しなくても良いんだよ」
「彼女の力を一人占めしているノアが言える事じゃないよ」
ノアはルイスの言葉に何も反論することが出来ない。
「私、ノア様の治療をしていて何となく、人に魔力を込める感覚も掴めてきました。それに、怪我の治療もこれから必要になることもあるかもしれません。やってみたいです」
ソフィアの返事にルイスは満足そうに頷く。
「ソフィア君ありがとう。助かるよ」
「絶対、無理はしないでね」
ノアは心配そうにソフィアの手を握った。
「私も転移魔法で患者を治療室に転移させるためにその場にいるから何かあれば私に言って」
ルイスは魔法の中でも特に高位な転移魔法を使う事ができる。
「ルイス様は転移魔法が使えるのですね、さすがです」
「ノアももう少し体が強ければ転移魔法も使えるよ」
「えっ! ノア様も転移魔法を?」
ノアがそんな魔法を使えると知らなかったソフィアは驚いてノアの方を見た。
「ノアは魔術書を読み漁る魔法オタクだからね」
「子どもの頃出来そうだと思ってやってみたら叔父上の部屋で倒れていたよ」
「私の部屋に転移してくるなんて本当賢いよね。けど、魔力はほとんど消費していなかったのにそのまま体調を崩して倒れるなんてちょっとは自分の体のことを把握して欲しいよ」
ルイスは呆れたように笑い、ノアはバツの悪そうな顔をしていた。
「魔法の原理を理解できても、使えなければ意味がないんだ。僕は頭でっかちなだけになってしまっているんだよ」
「いえ、それで魔術書の解読ができるのも素晴らしい事ですし、祖母が持っていた本に書いてあったのですが『魔力をもって魔術を扱う。それを人々は魔法と呼ぶ』いくら魔力があってもそれを使うための術がなければ意味がないのです。なので、ノア様は呪いが解けて体調が良くなればどんな魔法も使えるようになるかもしれませんよ」
「そうなるといいけどね。でも光属性の魔力は特別だからその魔力だけで人々を癒す。ソフィアの方が凄いよ」
「いえ、私はまだまだで……」
「褒め合うのはそこまででいいから」
ルイスは二人の話を遮ると立ち上がる。
「それじゃ、明日の朝迎えに来るから。転移魔法で移動できたらいいんだけどね。立場上高位魔法は仕事でしか使ってはいけない事になっているから馬車で来るよ」
ルイスはそう言いながらも
「今から討伐現場に行くんだ」
手を振りながら転移魔法を使い一瞬で消えて行った。
「私、転移魔法を初めて見ました」
「本当はあんなに簡単に使えるものではないんだ。僕は魔術書を読み込んで読み込んでやっと出来たけど、叔父上は魔術書なんて読まないからね。自身の感覚で魔法を使うんだ。天才なんだよ」
「ルイス様はそんなに凄いお方だったのですね」
ソフィアはルイスが消えた方を見ながら人見掛けによらないなとしみじみ感じた。
「まあそのおかげで叔父上の書類仕事が僕に回ってくるよ」
「人には得手不得手がありますから。ノア様も充分凄いと思います」
「ありがとう。それより明日からの仕事、絶対に無理しないでね。ソフィアはまだ自分の魔力量を正確に把握できてないと思うから」
「わかりました。気をつけておきます。ノア様もあまりお仕事無理しないようにしてくださいね」
「うん、僕の事は大丈夫。ソフィアは自分の事だけ考えて。きっと大変な仕事になると思うから」
ノアは心配そうにそっとソフィアの頭を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます