第45話 大惨事

「う、ううう……!」


 空間の狭間に飛び込んだゴウレックスとティナだが、目の前が嵐のように荒れていて視界が利かない。


「ゴウレックス、みんなの行き先は分かる?」

「ドゥルル……」


 ティナの問いにゴウレックスが頭を上げるなり、ある一方向に歩み始める。


「そっちにみんながいるんだね。待っててみんな、わたしたちが助けるから……!」


 決意を胸にティナがゴウレックスを進ませようとした、その時。


「キリャーーーーッ!!」

「キシイイイイイッ!!」


 目の前に無数のクワガタパラドクスと蜘蛛パラドクスが沸いて出てきたのだ。


「ふえっ、こんな時にぃ!?」


「キリャーーーーッ!!」

「キシイイイイイッ!!」


 怯むティナとゴウレックスに、クワガタパラドクスと蜘蛛パラドクスたちが一斉射撃を開始する。


「うううっ!!」


 コックピット越しに伝わる断続的な衝撃に、ティナは怯んでしまう。


 しかしゴウレックスは違った、ティナの操縦に頼らずとも立ちはだかるパラドクスたちを踏み潰しながら進み出したのだ。


「ゴウレックス! ……そうだよね、こんなところでびびってちゃダメだよね!」


 それから頬を強く叩いて気合いをいれたティナは、改めて操縦桿を強く握る。


「一気に行くよ、ゴウレックス!」

「グルルルオオオオン!!」


 無数のパラドクスをものともせずに進むゴウレックス、果たして洗脳された皆のもとへたどり着けるのだろうか……?



 一方パラドクススパイナーと洗脳されたアクセルラプターたちは、空間の狭間を伝ってオータムヤードシティーのど真ん中に来ていた。


「マズハココカラ血祭リニアゲテクレヨウジャナイカ。スパイナー!」

「グオオオイエエエン!!」


 パラドクススパイナーが雄叫びをあげるや否や空のあちこちに亀裂が走り、そこから無数のパラドクスが街中になだれ込む。


 これにはオータムヤードシティーの群衆もパニックに陥って逃げ惑う他ない。


「アハハハハハ! コレハ愉快ダ! ……ダケドコレダケジャツマラナイネ。ヤッチャエ、スパイナー」

「グオオオイエエエン!」


 高笑いするシルフパラドクスは、続いてパラドクススパイナーに火炎放射を命じた。


 その瞬間スパイナーの口からマグマを超える温度の火炎が吹き放たれ、オータムヤードシティー中が一瞬で火の海に包まれた。


「アハハハハハ、コレハ壮大ナキャンプファイヤーダネ!!」

「グオオオイエエエン!!」


 シルフィットパラドクスが愉快に浸っていると、どこからか飛んできた砲弾がパラドクススパイナーを掠める。


「何ダイ、今楽シイトコロダッタノニ」


 顔をしかめたシルフィットパラドクスがモニターを見てみると、街の自警団であるウルフソルジャーとキャノントータスの軍勢が攻め込むところであった。


「警告する! 直ちに進軍を止め……うわああああぁ!!」


 警告をしたキャノントータスの一機が、パラドクススパイナーのロングレンジキャノンの砲撃で消し飛ばされる。


「邪魔ダヨ君タチ。ヤレ、スパイナー」

「グオオオイエエエン!!」


 鬱陶しそうなシルフパラドクスの命令で、パラドクススパイナーが背びれから強力な電磁波を放った。


「うああああああああ!!」


「な、何だこれはああああああ!?」


 これには自警団たちもなす術なくスパイナーの支配下に置かれてしまう。


「チョット癪デハアルケド、仲間ガ増エルッテイイヨネ。ヨーシ、ミンナデ進軍ダ!!」


 そしてシルフパラドクスの命令で、支配下に置いた機獣たちが次なる場所へと進軍していったのだ。



「――謎のパラドクスがオータムヤードシティーに出現、……自警団と連絡が繋がりません!」


 ここは国の防衛基地の指令部で、今現在の非常事態に慌てふためいている。


「落ち着け皆のもの! ……あのパラドクスは何だ……? 見たところ機獣のようにも見えるが、あの機種は見たことがない」

「司令官、画面を拡大します」


 隊員が画面を拡大すると、パラドクススパイナーの装甲に描かれていた社号が映し出された。


「あれは……リッターコーポレーション、だと? 新型の機獣を開発していると情報にあったが、まさかあれがパラドクスと化して暴走しているというのか……?」

「いかがいたしましょう司令官?」

「決まっている、オータムヤードシティーに討伐隊を向かわせるのだ!」

「はっ!」


 司令官の命令で防衛軍直属の機獣部隊を格納した白いホエールジャンボが現場へ急行することになったのである。



 そうとも知らず現場ではなおもパラドクススパイナーが、火に包まれたオータムヤードシティーを後にして次なる場所へと移動して暴れていた。


「アハハハハハ! 人ガゴミノヨウダ!!」


 もはやシルフとしての人格も危うくなってきたパラドクスは、高笑いしながらパラドクススパイナーを操縦し、手中に収めた機獣たちを意のままに操る。


「――待ちなさい!!」


 するとそこへ待ったをかけたのは。


「何ダ貴様ハ」


 空間の狭間を追ってきたゴウレックスとティナだった。

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