第44話 力の暴走


 一方留守番を任されたティナは、アルファスと共に戦況をモニターで見守っていた。


「一体何が起きたの……?」


 ティナが目の当たりにしているのは、ちょうどロードスパイナーの電磁波でパラドクスたちが沈黙した場面である。


「ジャミングフィンから発せられる電磁波でパラドクスたちの頭脳に直接干渉して、ロードスパイナーの支配下に置いたのだ。すごいとは思わないかね?」

「すごいです……」


 想像もしないハイテク技術による戦術に、ティナは言葉が出ない。


「さあ、続きを見たまえ」


 アルファスの言葉でティナは再びモニターを見つめるのであった。



 所変わって戦闘の現場では、動かなくなったパラドクスをロードスパイナーが一体ずつ叩き潰している。


「確かに代表はパラドクスを支配下に置くって言ってたけど、まさか本当に……!」

「これもうスパイナーだけでいいわよね?」

「リコっちに同感」


 唖然と立ち尽くすアクセルラプター三機をよそに、ロードスパイナーはなおも次々と出現するパラドクスの群れを電磁波で手中に収めていた。


「すごい、これがスパイナーの力……!」


 その想像を絶するロードスパイナーの力に、当のシルフ本人も気分の高揚を隠せない。


 しかし異変が生じたのは突然のことだった、支配下に置いたパラドクスが百体を超えたところでロードスパイナーが苦しげな呻き声をあげ始めたのである。


「グオオオ……!」

「あれ、どうしたのスパイナー?」


 疑問に思うシルフの元に、アルファスから通信が送られてきた。


『シルフ。スパイナーのコアに異変が生じている、今すぐ退却――』


 しかしそれを聞きおえる間もなく、シルフィットの身体に電流のような苦痛が走り出す。


「う、あああああああああ!!」


『シルフ、どうした!? 応答しろシルフ!!』


 父アルファスの通信も空しく、シルフはガクンとうなだれて気を失ってしまった。


「あれ、なんか様子が変だよ?」

「嫌な予感がするわ……!」

「最悪の事態、かも」


 アクセルラプター三機を操縦するアイラたちがそう感じたのもつかの間、ロードスパイナーの容態が急変する。


 薄紫色だった装甲がマゼンタ色に変色し、刻まれるはパラドクスと同じ黒いハニカム模様。

 そしてロードスパイナーの目が赤色に変色したとき、それはもはや機獣というよりパラドクスそのものに成り果てていた。



 予想もしなかった最悪の事態に、通信ブースの誰もが言葉を失う。


「ロードスパイナーが……完全にパラドクス化しました……!」

「な、なんだって……!?」


 モニターの向こうで変わり果てた姿に変貌したロードスパイナーを目の当たりにして、アルファスは愕然と膝から崩れ落ちた。


「何故だ、私の作戦は完璧だったはず……! そうだ、シルフと通信できるか!?」

「試していますが……駄目です、まるで繋がりません!」

「そんな!」


 通信員の宣告に、アルファスは絶望してしまう。


「シルフちゃん……!」


 その一方でティナは思い立ったように通信ブースを飛び出して、格納庫へまっしぐらに向かった。


「ゴウレックス!」


 駆けつけたティナを待っていたのは、なおも整備中のゴウレックスである。


「お願いゴウレックス、力を貸して!」

「待ちなよ嬢ちゃん! こいつの整備はまだ終わってな……うわあ!?」


 整備員が止めようとするも、ゴウレックスが動き出して彼らを追い払ってしまった。


「ドゥルル……」

「ゴウレックス……行くよ!」


 ティナの言葉にゴウレックスが頭のコックピットハッチを開ける。


 そこへ飛び乗った彼女は、操縦桿を握って叫んだ。


「わたしがシルフちゃんを助ける!!」

「グルルルオオオオン!!」


 次の瞬間、背後から伸びたケーブルが耐Gウェアの首筋に接続される。


「ああんっ!」


 その瞬間全身を迸る痛みと快楽に、ティナの身体が仰け反り、耐Gウェアも鮮やかな朱色に染まった。


「行くよ!」

「グルルルオオオオン!!」


 ティナの号令と共に、ゴウレックスは駆け出したのである。



 一方現場では、パラドクスと一緒になって暴れだすロードスパイナーにアクセルラプター三機が逃げ惑っていた。


「一体何が起きてるわけ!?」

「もしかして……スパイナーもパラドクスになった……?」

「何それ、最悪じゃない!!」

「とにかく、シルフを助けないと!!」


 少し距離を取って向き直ったアクセルラプター三機、すると程なくして三人の通信にシルフの声が届く。


「ヤア。ドウダイ、コノチカラハ?」

「え、聞こえるのシルフ!?」

「シルフ? ――アア、コノ拠リ所ノ名前カ」

「どういうこと……?」

「ボクハシルフデアリ、然レドシルフデハナイ。――パラドクスダ」


 その通信に三人は愕然としてしまった。


「そんな、シルフが乗っ取られたっていうの……!?」

「どうしようリコリー!」

「――案ズルコトハナイ、貴様タチモモウスグ同族トナル」


 シルフパラドクスは、ロードスパイナー改めパラドクススパイナーの背びれをうねらせて電磁波をアクセルラプター三機に浴びせる。


「うああああああああ!!」

「あ、頭があああああ!!」

「うううう!?」


 その瞬間アイラたち三人の脳内に激痛が迸り、程なくして彼女たちもスパイナーの支配下に置かれてしまった。


「行コウスパイナー、愚カナ虫ケラヲ駆逐シニ」

「グオオオイエエエン!」


 そしてパラドクススパイナーが空間に穴を空けると、アクセルラプター三機も連れてそこへ入っていく。


「――待ってよシルフちゃん!」


 その時だった、駆けつけてきたゴウレックスを操縦してティナが呼び止めた。


 しかしパラドクススパイナーはそれに応えることなく、空間の狭間に姿を消そうとする。


「わたしたちも行くよゴウレックス!!」

「グルルルオオオオン!!」


 それを追うようにゴウレックスも空間の狭間に飛び込んだ。

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