ロードスパイナー、暴走す
第43話 ジャミングフィン
一同全員が耐Gウェアに着替えて研究センターに駆けつけると、その前で待っていたのはリッターコーポレーション代表のアルファスだった。
「よくぞ来てくれた諸君。偶然にもパラドクスの集団がこの島の北側に出現した、そこでこれよりロードスパイナーの真なる初陣とする!」
「ボクの出番だね!」
父の論説に勢いよく顔を出したのは、娘のシルフである。
「その通りだ、これよりシルフとロードスパイナーの輝かしい快挙が幕を開けるのだ!」
オーバーな身振りで説くアルファスに質問したのは、キー坊に乗ったままのアイラだ。
「しつもーん。アタシたちはどうすればいい?」
「君たちはスパイナーの護衛を頼みたい。できるな?」
「そういうことなら一応やりまーす」
「ちょっとアイラちゃん、その態度はまずいんじゃ……」
いまいちやる気のないアイラの態度にオロオロとするティナだが、当のアルファスは気にしていない様子。
「それじゃあティナは降りてて。後はアタシたちに任せてよ!」
「うん、分かった」
ティナがアクセルラプターのキー坊から降りたのと入れ替わりに、それぞれの機獣に乗り込んだ一同はすぐに島の北側に出発することに。
「これがボクたちのステージだ、頼むよスパイナー!」
「グオオオイエエエン!!」
シルフの号令で、ロードスパイナーが咆哮をあげる。
「アタシたちもテキトーにやるよ~」
「ちょっとアイラ、それはやる気なさすぎじゃない?」
「だってさー、なんかアタシたちがお飾りみたいな扱いなんだもーん」
「気にしたら負け、アイラっち」
「はーい」
リコリスとルーテシアの言葉でアイラが納得したところで、アクセルラプター三機もスパイナーに続いて駆け出した。
「みんな……」
皆が出動する様子を独り見届けるティナは、胸の前でぎゅっと拳を握りながらその帰りを待つことに。
ロードスパイナーとアクセルラプター三機が森の中を走っているとき、ふとアイラがこんなことを言い出す。
「ねーみんな、ここはどっちが先に着くか競争しない?」
「いいわねー。負けないわよアイラ」
「うちも負けない」
「それじゃあヨーイドン!!」
「「「グーギュルルル!!」」」
アイラの合図でアクセルラプター三機がスピードを上げる様子に、ロードスパイナーを操縦するシルフは呆れたように肩をすくめた。
「やれやれ。あの三人は元気だねー」
そんな彼女にロードスパイナーは語りかけるように唸り声を上げる。
「グルグル」
「ん、ボク? ボクは平常運転さ、スパイナー」
主人の言葉でロードスパイナーは、再び正面に向き直った。
「そらそらぁ! 負けないよー!」
「こちらこそ!」
「待ってー」
前から順にキー坊、リコリス機、ルーテシア機が全速力で走っていると、切り立った崖の先にいくつかの亀裂が走る空が見えてくる。
「あれが……!」
「パラドクス出現の前兆……」
「リッターコーポレーション的にはオマケのアタシらだけど、精一杯はじけてこー!」
「弾けるって……。まあいいわ、全力で行こうじゃないっ」
「うちらも行こう、プリンセス」
「グギュルル!」
お互い顔を見合わせたところで、アクセルラプター三機が崖から一斉に飛び降りた。
ズシーン!と音を立てて着地するなり、出迎えたのは亀裂から降下してきたクワガタの小型パラドクスたちである。
「キリャーーーーッ!」
アクセルラプターたちを見るなり、クワガタパラドクスがカチカチと大あごを打ち鳴らす。
「へへっ、そっちもヤル気満々みたいだね。それじゃあ思いきりやっちゃうよ! キー坊!」
「グーギュルルル!」
アイラの呼び掛けでオレンジ色のアクセルラプターキー坊がビームガンを撃ちながら駆け出した。
「キリャリャ!?」
「キリーーーッ!?」
ビームガンの牽制射撃に怯むクワガタパラドクスたちに、キー坊が跳びかかって足の鋭い爪でその頭部を貫く。
「アイラたちもやるわね。私たちも負けてられないわ、アイビー!」
「グーギュルルル!」
リコリスにアイビーと呼ばれた青いアクセルラプターが、足の爪を地面に突き立ててから搭載した大型ガトリングをぶっぱなした。
「キリャリャ!?」
「キリーーッ!?」
浴びせられる弾丸の雨あられに、クワガタパラドクスはたまらず後退。
「逃がさない! プリンセス!」
「グーギュルルル!」
ルーテシアがプリンセスと呼んだマゼンタ色のアクセルラプターが、クワガタパラドクスたちの背後に回り込んで背中のパイルバンカーで一体ずつ貫いていく。
「キリャーーーーッ!」
この快進撃にはクワガタパラドクスたちもたまらず空を飛んで距離を取る。
「あ、こらー待てーー!!」
「ちょっとアイラ!?」
それを追うアイラとキー坊だが、その先でピラニアの小型パラドクスたちが一斉に襲いかかってきた。
「ガキガキ!」
寄ってたかって食いついてくるピラニアパラドクスたちに、アイラは思わずキー坊を止めてしまう。
「はわわっ!?」
「――ガキィ!?」
そこへガトリング砲を乱射しながらリコリスとアイビーも駆けつけてきた。
「んもう、一人で深追いだなんて無茶よ!」
少し遅れてルーテシアとプリンセスも追い付いてくる。
「ここはうちらも一緒」
「二人とも……!」
「だけどこれはどうしたものかしらね……」
リコリスがため息をつくのも無理はない、三人は周囲を無数のピラニアパラドクスとクワガタパラドクスにすっかり囲まれていたのだから。
「パラドクスなんてやっつけるだけだし、どーしたもこーしたもないっしょ!」
「それもそうね」
「やってやる」
三人の士気が高まったところで、一番遅れてやってきたのはシルフの操縦するロードスパイナーである。
「みんなお待たせ! 後はボクたちに任せてよ!」
「グオオオイエエエン!!」
「行くよスパイナー、ジャミングフィン展開!!」
シルフがレバーを押すと、ロードスパイナーの背びれがうねるように稼働し始めた。
「キギギ!?」
「キリャリャ!?」
それと共にパラドクスたちが何かに苦しむようにのたうち出す。
「これがロードスパイナーの力……!?」
そう、ロードスパイナーの背びれから放たれる強力な電磁波がパラドクスたちに浴びせられているのだ。
「抗ってられるのも今のうちさ、パラドクス共!」
「グオオオイエエエン!!」
雄叫びと共にロードスパイナーが背びれをうねらせるスピードを上げると、パラドクスたちは一転して沈黙する。
「あれ、パラドクスたちが……!?」
「一体何が起きたっていうの……!?」
思いもしない光景に、アイラたちは言葉を失うのであった。
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