第42話 崩れ落ちた巨体

「ゴウレックスがどーしてこんなところに!? って、ティナ!?」


 目を見開くアイラをよそに、ティナがゴウレックスの前に出た。


「やめて、ゴウレックス!」


「ティナ、危ないって!!」


 アイラの制止も聞かずに、ティナは正面からゴウレックスに歩み寄る。


「落ち着いてゴウレックス、ね?」

「ドゥルルル……グルルオオオオオン!!」

「きゃあっ!?」


 しかしゴウレックスは大口を開けて吠えかかり、ティナは尻餅をついてしまった。


「ティナ、少し下がっててよ」


 そこへ割って入るように、シルフの操縦するロードスパイナーが歩いてくる。


「この機獣はボクが止める! いくよ、スパイナー!」

「グオオオオイエエエエエン!!」


 シルフの号令に呼応して咆哮をあげるロードスパイナーに、ゴウレックスが突撃してきた。


「グルルウウウン!!」


 ゴウレックスとロードスパイナーの巨体がぶつかり合い、格納庫内にとてつもない衝撃が迸る。


「うううっ!!」

「何なのあれ……!」

「どっちも規格外すぎる……」


 その衝撃に唖然とするアイラたち、それとは対照的にアルファスは興奮を隠せなかった。


「素晴らしい! 期せずして最強の機獣同士がぶつかり合う様をお目にかかれるなんて!」

「そんなこと言ってる場合かい、パパ!?」


 そんな父親に苦言を呈するシルフだが、肉弾戦ではゴウレックスに部があるのかやや押され気味になっている。


「さすがのパワーだね、肉弾戦では部が悪すぎる! ……なら!」

「グオオオオイエエエエエン!!」


 機転を利かせたシルフが、ロードスパイナーの頭部にあるバルカン砲で格納庫に穴を空けた。


「着いてきたまえ、ゴウレックス!」


 ゴウレックスを誘導するように、シルフの操縦するロードスパイナーが大穴から屋外に出る。


「グルルルオオオオン!!」


 ゴウレックスが屋外に出たところで、ロードスパイナーが再び向き直った。


「これで思う存分やれるね。君の力を見せておくれよ、スパイナー!」

「グオオオオイエエエエエン!!」


 雄叫びをあげるなりロードスパイナーの口から放たれた強烈な火炎放射が、ゴウレックスに浴びせられた。


「グルルウウウン!?」

「1500℃の火炎放射も耐えるか、それなら!」


 続いてシルフがレバーを握ると、ロードスパイナーの両脚に装着したロングレンジキャノンが火を吹く。


「グルウウアアア!! ……っ」


 この一撃をもろに受けたゴウレックスの巨体が、おもむろに崩れ落ち、森の中に重い衝撃を伝わらせた。


「す、すごーい……」

「あのゴウレックスを倒すなんて」

「化け物なのかしら、あの機獣は」


 アイラたちが口々に感想を述べるそばで、慌ててゴウレックスに駆け寄ったのはやはりティナである。


「ゴウレックス! しっかりして、ゴウレックス~!」


 動かないゴウレックスにすがって泣きつくティナに、ロードスパイナーに乗ったシルフが声をかけた。


「安心したまえティナ。急所は外したから、しばらくすればまた立ち上がるさ」

「シルフちゃん……ゴウレックスを止めてくれてありがとう」


 涙を拳で拭ったティナに、シルフは得意気にこう言う。


「礼には及ばないさ。これでスパイナーの強さも証明できたしね」

「グオオオオイエエエエエン!」


 勝ち誇るように雄叫びをあげるロードスパイナーのそばで、ティナはやりきれなくうなだれていた。


 翌朝、耐Gウェアを着たティナは島の格納庫で整備中のゴウレックスの元へ向かった。


「ゴウレックス……」


 何事もなかったかのように鎮座して整備を受けるゴウレックスを、ティナは立ち尽くすように見守る。


「ティ~ナっ」


 そこへ背後から抱きついてきたのは、この日も海へ遊びに行ってたはずの水着姿なアイラだ。


「はわっ!? アイラちゃん、どうしてここに!?」

「いや~、親友がいない海なんて楽しくなくってね」


 いたずらに笑うアイラに、ティナは頬を染めながら苦笑する。


「もう、アイラちゃんってばそういうところだよ~!」

「てへっ。……ゴウレックスが心配なんだよね?」


 舌をペロリと出した後に顔を真剣なものにしたアイラに、ティナは黙してうなづいた。


「自分の機獣がフリーズするのは心配だよね。アタシも無茶してキー坊を何度もフリーズさせたことあるけど、その度にまた目覚めてくれるか不安だったなー」

「アイラちゃんも?」

「そだよ。何度経験しても慣れないもんだよねー」


 神妙な横顔のアイラを見つめて、ティナは平らな胸の前でぎゅっと拳を握る。


(アイラちゃんだって同じことを何度も経験してるんだ、わたしばかり落ち込んでられないよね)


「ありがとう、アイラちゃん。おかげで気が楽になったかも」

「え、アタシなんもしてないよ? ――まあティナが元気を取り戻してくれたならいいんだけどさっ」


 頭の後ろで腕を組んだアイラは、続いてこんなことを。


「そうだ! また一緒にキー坊に乗ろうよ! アタシも耐久Gウェアに着替えてくっから!」

「ちょっと、アイラちゃん!? ……行っちゃった」


 言うだけ言って更衣室に行ったアイラがしばらくして耐Gウェアに着替えてくると、同じく格納庫にいるキー坊の元へティナを連れていく。


「キー坊、やっほー!」


 手を大きく振りながらのアイラの挨拶に、アクセルラプターのキー坊が喉を鳴らしながら顔を寄せてきた。


「グギュルル」

「あははっ、くすぐったいよキー坊~。それじゃあティナも一緒に乗せてくれるかな?」

「グギュッ」


 キー坊が頭のコックピットハッチを開けると、アイラはティナの手を引いてそこに乗り込む。


「それじゃあ出発進行ー!」

「グーギュルルル!」


 アイラの操縦でキー坊が、格納庫を出て島の森を歩き始めた。


「そういえばゴウレックスと出会った時もこんな感じだったよね」

「うん、そうだね……」

「はわわっ、ごめんティナ! うっかり地雷踏んじゃった~!」


 自分の失言で落ち込むティナに、慌てて詫びたアイラが強引に方向転換する。


「それじゃあ思いきり行っちゃおー!」

「グーギュルルル!」


 アイラの声かけに呼応して、キー坊が森を走り出した。


「あわわっ! アイラちゃーん!?」

「こーゆーときは思いっきり走るに限るっしょ!」


 自分の背中にしがみつくティナを尻目に、アイラはキー坊を操縦してフルスピード間近まで飛ばす。


「行っけぇー!」

「グーギュルルル~!」


 そしてその勢いのままキー坊が崖から一思いに飛び出した。


「ひいいいいいいいい~!?」


 刹那の間宙を舞うキー坊は、次の瞬間盛大に水しぶきをあげて海に着水。


「ちょっと、アイラ~!!」

「機獣に乗ってくるなんて聞いてないよ!」


 ちょうど水しぶきに巻き込まれて抗議するリコリスとシルフに、アイラははにかんで詫びた。


「あはは、ごめんごめーん!」


 アイラの笑い声がビーチに響いた時だった、突然島の研究センターから緊急警報が届いてきた。


『パラドクス反応感知! パラドクス反応感知! ウォーリアーは至急研究所に!』

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