第41話 海遊び、それから新型機獣
「日焼け止めも塗ったことだし、いよいよ海へ行っくぞ~!」
「「おー!」」
「待ってよみんな~!」
我先に海へと駆けていくアイラたちを、ティナも慌てて追いかける。
そして足が波打ち際の海水に触れるなり、ティナはきゅっと縮こまった。
「冷たいっ。これが海なんだ~!」
「ティナ~! 早く早くー!!」
そんなティナを誘うように、アイラが手を振る。
「はーい!」
波に揉まれながらアイラのもとに駆けつけようとしたティナは、次の瞬間海水をかけられた。
「ひゃっ!?」
「へへっ。どう、ビックリした?」
「も~アイラちゃんってばぁ! それぇ!」
ニシシと歯を見せて笑うアイラに、ティナはお返しとばかりに海水をかけ返す。
「うひゃあ! やっぱ冷たい、ヤバーっ!」
「あははっ。――きゃあっ!」
ティナが笑ったのもつかの間、今度はルーテシアに水鉄砲で海水をかけられた。
「これで狙い撃ち」
「私たちも本気よ~」
「ヤッバ~、ルールーたちガチじゃん!」
「わたしたちも負けてられないね、アイラちゃん!」
そうしてキャッキャウフフとばかりに水遊びをするティナたち四人を、シルフィットは砂浜で眺めている。
「いや~、あの四人元気だなー。まるで子供みたいだよ」
シルフが苦笑していると、しばらくして彼女のスマートフォンが鳴った。
「はいもしもーし。――あ、パパ? ――うんうん、りょうかーい」
軽く電話を受けたところで、シルフィットは海で遊ぶ皆を呼ぶ。
「みんなー! パパが君たちも呼んでるよー」
「シルフのパパさんって、あのリッターコーポレーションの代表?」
「そうさリコリス! 見せたいものがあるんだってさ! そうそう、みんな耐Gウェアに着替えてくるようにって言ってたよ」
そう告げたシルフは先んじて丘の上の別荘に駆け戻り、ティナたちもそれに続いた。
シャワーで身体の塩気を落とした後別荘で水着から耐Gウェアに着替えたティナたちは、シルフの案内で森の中にあった研究所へ向かうことに。
「ここってさっきの研究所、だよね?」
「そうさティナ」
「もしかしてパパさんが見せたいってのは機獣に関することかしら?」
「リコリスご名答。実はうちでは画期的な新型の機獣を開発しているのさ!」
「「「「新型の機獣~?」」」」
ティナたちが四人揃って首をかしげたところで、研究所から整った身なりをした長身の男が出てきた。
「パパ!」
「待ってたよみんな。私がリッターコーポレーションの代表、アルファス・リッターだ。よろしく」
恭しく名刺を差し出すアルファスは、早速こんなことを切り出す。
「それじゃあ早速、君たちに見てもらいたいものがあるんだ。ついてきたまえ」
アルファスに連れられて研究所に入るティナたち。
中は銀色の廊下がどこまでも続いており、道沿いにいくつもの専門的な部屋が連なっている。
「これが大企業の研究所……!」
「ティナくんだったっけ、君のことは娘からよく聞いてるよ。君の機獣も勝手ながら見せてもらった、いい機獣だと思う」
「そ、そんな~! 照れますよ~!」
アルファスにゴウレックスを評価されて、ティナは自分のことのようにはにかんだ。
そしてアルファスに連れてこられたのは、鉄格子に囲まれた格納庫である。
「こ、これが新型の機獣……!」
格納庫でティナたちを待っていたのは、藤色の装甲をまとったスピノサウルスのような姿の巨大な機獣だ。
「――あれ、この感覚どこかで……?」
ティナが不思議な既視感を覚えていると、アルファスが新型機獣の前で説明を始める。
「ロードスパイナー、これこそがパラドクス根絶の切り札となる新型機獣だ」
「「「「パラドクス根絶の切り札……?」」」」
「そうだ。このロードスパイナー、純粋な戦闘能力もさることながら、この背びれに秘密が隠されているのだ。それは……」
「――背びれから放たれる強力な電磁波で、パラドクスを支配下に置くことが可能なのさ!」
「こらシルフ、パパの台詞を奪うものじゃありませんっ」
「えへへ、ごめんごめん。つい先走っちゃったよ」
それからアルファスの口から語られたロードスパイナーの秘密は以下の通り。
・大型肉食恐竜ベースの高い格闘能力と充実した火器。
・背びれから発生する強力な電磁波は、パラドクスの脳内に直接作用してその自由を奪うことができる。
「――これを応用することで、理論上はパラドクスを同士討ちにさせることさえできてしまうのだ!」
「はいはーい、しつもーん!」
「はいそこ、アイラくん」
「高い戦闘能力とパラドクスを同士討ちにさせるほどの電磁波発生の両立はどうやっているんですか?」
手を上げながらのアイラの質問に、アルファスは嬉々として答えた。
「いい質問だ。実はこのロードスパイナーのコアには大型パラドクスのコアが使われているのだ!」
「え、パラドクスのコアなんて使って大丈夫なんですか!?」
「心配することはない、一般的な機獣のコアにもパラドクスのコアが使用されていることは学校で習わなかったかな?」
「そういえばそうだった」
アルファスにたしなめられて、アイラは舌をペロッと出す。
「もっとも、一般的にコアとして使われるのは安全性の問題から小型から中型のものであることがほとんどだ。この大型コアを安全な出力にまで制御するにも骨が折れたよ」
「その結果完成したのが、このロードスパイナーさ! ねえパパ、ボク乗ってみていいよね!?」
「ああもちろんだとも。ちょうどテストとしてシルフにこれから乗ってもらうところだったんだ」
そうしてシルフが足場を伝ってロードスパイナーの頭に歩み寄ると、コックピットがひとりでに開いた。
「よし、いい子だスパイナー。――ロードスパイナー、発進!」
「グオオオイエエエエン!!」
コックピットに乗り込んだシルフが起動させるや否や、赤く目を光らせて咆哮をあげるロードスパイナー。
その時だった、研究所全体がグラグラと揺れ始めたのである。
「おや、何事だ?」
『――報告します、ティラノサウルス型の機獣が逸走しました!』
「なんだって!?」
アルファスが驚愕したのもつかの間、地響きをたててやってきたのは。
「グルルオオオオオン!!」
「ふえっ、ゴウレックス~!?」
他でもないゴウレックスであった。
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