第40話 水着マジック

 メイドのアンヌに部屋へ案内されるなり、ティナは白いベッドに倒れこむ。


「ふーっ。ふかふかで気持ちいい~」


 枕に顔を擦り付けてリラックスするティナ。


 ここまでの旅路で少なからず疲れたのだろう。


 そんな彼女は窓を開けた先の絶景に目を奪われた。


「うわあ~、きれーい!」


 丘の上から臨む絵に描いたような青い海と白い砂浜に、ティナは感嘆の声をあげる。


 そんな矢先、扉を勢いよく開けたのは水着に着替えたアイラだった。


「ティナー! せっかくだから今から海に行こ!」

「あ、アイラちゃん!?」


 水着姿で露わになったアイラの素肌を目の当たりにして、ティナは頬を染めてすっとんきょうな声をあげてしまう。


 目の覚めるようなオレンジ色のビキニが、彼女のスタイルの良さをこれでもかと目立たせているのだ。


「その格好どうしたの!?」

「え? 何って水着だよ。どう、似合うっしょ~」

「確かにすごく似合ってるけど~!」

「えへへ、ありがとっ。それじゃあティナも水着に着替えて、丘の下で集合だよ!」


 そう言ってアイラは快活にその場を後にし、部屋にはポカーンと口を開け放つティナだけが残される。


「……アイラちゃん、きれいだったな~。それに引き換え、わたしは……」


 憂鬱そうに言いながらティナは、自分の平らな胸元に手を添えてため息をついた。


「わたしだけ幼児体型、嫌になっちゃうよ……」


 いつものネガティブ思考に陥るティナだったが、すぐに頬を叩いて自分を奮い立たせる。


「いけないっ、こんなことでアイラちゃんたちを待たせちゃダメだよね!」


 意を決したティナはキャリーバッグから真新しい水着を取り出し、一思いに着替えた。


 白地に可愛いピンクのチェック模様が描かれた、可愛らしいフリルセパレート水着。


「お腹が開いててちょっと恥ずかしいけど……アイラちゃんが選んでくれた水着だもんね」


 そしてティナは皆の待つ丘の下へと歩き出した。


「みんなー、お待たせ~!」

「あーっ、ティナ!」


 手を振りながら駆けつけたティナを、アイラたちが歓迎する。


「やっぱ似合ってんじゃ~ん!」

「えへへ、そうかなあ?」


「やっぱり私たちの美的センスに間違いはなかったわね」


 そう言うリコリスはお腹だけ楕円に露出した競泳型の水着を着ていて、アイラにひけを取らないスタイルの良さを強調している。


「リコちゃんもすごく似合ってるよ」

「あら、当然じゃない。でもありがとね、ティナちゃん」


「うちはどう~?」


 ルーテシアの水着はピンク色のワンピースタイプで、やはりティナにはない胸の膨らみがほのかに見えた。


「うん、ルーちゃんも可愛いよ」

「ふふん。……あれ、ティナっち顔色悪い」

「へっ!? ううん、なんでもないよ!」


 そう言うティナだが、やはり皆のスタイルの良さに自分だけ劣等感を抱いている。


 そんな彼女に助け船を出したのは、傾斜のついたベンチで横になるシルフだった。


「まあまあ、気にすることはないさティナ。水着は泳ぐためのものだからね」

「そ、そうだね。あはは」


 ちなみにシルフは黒い水着の上から薄手の白いパーカーを羽織っている。


「それじゃあ早速海へ!」

「ちょっと待った、海で遊ぶなら日焼け止めは欠かせないだろ」


 海へ先走ろうとしたアイラを止めたシルフが取り出したのは、日焼け止めの瓶。


「これを塗るといい」

「へ~、気が利くじゃん。ありがと、シルフ」

「ふんっ、このくらいなんてことはないさ」


 つっけんどんなシルフから日焼け止めを受け取ったアイラは、早速ティナを呼ぶ。


「ティナ~、アタシが日焼け止め塗ってあげよっか~!」

「あ、うん。お願いっ」


 ティナが背中を差し出すと、アイラは瓶から日焼け止めを手に出した。


「それじゃっ、塗~り塗り~!」

「ひゃんっ!」


 日焼け止めを塗るアイラの手が背中に触れるなり、ティナが嬌声をあげる。


「ティナ?」

「あ、ううん。なんでもないよ」

(アイラちゃんの前でなんて声出してるのわたし~!)


 羞恥をこらえてティナは背中を塗ってもらい、終わる頃にはすっかり顔真っ赤で息絶え絶えになっていた。


「はあ、はあ……」

「ホントに大丈夫~?」

「う、うん……」

「それじゃあアタシも背中、ティナに塗ってもらおっかな!」


 そう言ってアイラが差し出した背中に、ティナは目が釘付けになる。


「き、きれいな背中……!」

「ん、なんか言った?」

「ううんっ、なんでもない」


 染み一つないきれいなアイラの背中に、ティナは日焼け止めを塗った。


(アイラちゃんの背中すべすべ……)

「うぇへ、うひひ……」


「……ティナ?」


「――はっ!? ごめん、そんなんじゃないの~!!」


 うっかり自分の世界に入り込んでいたティナは、誤魔化すように日焼け止めを塗りたくる。


「全く、あの娘は日焼け止め一つで何を大騒ぎしてるのやら」


 それをシルフが呆れたように傍観しているのだった。

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