第39話 孤島の別荘
ヘリポートを降りてすぐ、一行はコンクリート製の大きな四角い建物の前にしていた。
「ここが別荘? 思ってたのとちょっと違うんだけど」
「なんか研究所って感じするよね……?」
きょとんと首をかしげるアイラとティナに、シルフは得意気に説明をする。
「ご名答、ここは島の研究所さ。リッターコーポレーションの所有だから、機獣研究設備も整えてるんだよ」
「ふーん、私たちが泊まれる場所もあるんでしょうね?」
「心配はいらないよリコリス、ちゃんと宿泊用の別荘もあるからさ。機獣たちはこの研究所に置いて、君たちはボクについてきてよ」
一緒に連れてきたゴウレックスをはじめとする機獣たちを研究所に置いたところで、ティナたちはシルフに着いて歩くことに。
「それにしても深い森だね~」
「なんか大自然って感じ!」
ティナとアイラの言う通り、一行が歩いているのは島全体を覆う鬱蒼とした森の中である。
「大自然、スピリチュアルなのもいたり……?」
「そんなわけないじゃないルーテシアっ。でもこれだけ深い森だと知らない生き物とかいてもおかしくないわね~」
「実際この島でいくつも新種の生き物が見つかったりしてるからね。ボクが見つけたのもあるのさ」
「あら、すごいじゃない!」
「ふふーん、まあねっ」
リコリスの称賛に鼻高々なシルフ。
一方ティナだけはでこぼことした森の地面に悪戦苦闘していた。
「うう~っ、なんか歩きづらいよ~」
そうしている間にティナは足元の根っこにつまずいてしまう。
「ひゃっ!?」
「ティナ!」
すかさずアイラが手を引いたことで、ティナは転ばずに済んだ。
「大丈夫、ティナ?」
「う、うん。わたしは大丈夫だよアイラちゃん」
(なんかアイラちゃんの顔、かっこよかったかも……?)
「よかった~!」
思わぬことにドキドキとしてしまうティナをよそに、アイラはほっと安堵の息をつく。
「それじゃあアタシと手を繋いで歩こっか」
「へっ? い、いいけど……」
「それじゃあ決まりっ」
「はわわわ、アイラちゃ~ん!」
意気揚々とアイラに手を引かれて、ティナはあたふたとついていくことに。
(アイラちゃんの手、わたしより大きいな~。指だって長くてきれいだし……)
「ん、どうしたのティナ? 顔赤いよ、暑い?」
「ううん! なんでもないよ!?」
(わたしってば何考えてるんだろう~!?)
アイラの助けで初々しい反応を示すティナに、リコリスとシルフはニヤニヤしながら会話していた。
「相変わらず仲がいいわね~あの二人っ」
「前からあんななのかい?」
「私が知る限りでは、ね」
「そうかい」
「あの二人、もう付き合っちゃえばいいのに」
「あはは、ご冗談を」
そんなこんなで歩き続けることしばらく、一行は海を臨む小高い丘の別荘にたどり着く。
「ここが別荘……!」
「こっちはザ・別荘って感じ!」
「それはどういう意味かな?」
テンションの高いアイラの言葉に、シルフは肩をすくめた。
別荘の建物は先ほど見た研究所よりもこじんまりとしていて、バカンスを過ごすのにちょうど良さそうである。
「それじゃあ入ってよ」
そんなことをいいながらシルフが促すのと同時に、別荘の扉からメイドと思しき若い女性が一人出てきた。
「お帰りなさいませお嬢様」
「やあ、待たせたねアンヌ」
気さくに挨拶するシルフとは対照的に、ティナはメイドを前に鼻息を荒くする。
「ほっ――」
「ほ?」
「本物のメイドさんだ~!!」
「は、はあ」
興奮が最高潮に達したティナに、メイドの女性は目を点にしてしまっていた。
「アンヌさんでしたよね! わたし、本物のメイドさんなんて初めてだよ~!! うわ~、メイド服もフリフリで可愛い~!!」
「ティナってあんな一面があったんだ……」
いつもからは考えられないハイテンションのティナにアイラが目を丸くする一方、シルフが落ち着いてティナを引き離す。
「こらティナ、うちのメイドが困ってるだろ」
「あ、すみません!! わたし、本物のメイドさんに憧れてて、つい……」
「――いえいえ、わたくしは気にしておりませんよ。シルフお嬢様のご友人でいらっしゃいますね、歓迎いたします」
そういいながらメイド服のスカートをつまんで上品に挨拶するアンヌに、ティナは口許を押さえて泣きそうであった。
「ホントの本当にメイドさん……!」
「確かにこれはメイド喫茶のエセメイドとは違う、本物のメイドさん」
「こら、それはメイド喫茶のメイドさんに失礼でしょっ」
「あたっ」
うっかり口を滑らせたルーテシアの頭に、リコリスがチョップをしてたしなめる。
「それじゃあ改めてあがっておくれよ。部屋は人数分あるからさ」
「「「「はーい」」」」
シルフとアンヌの案内で、ティナたちは別荘にあがっていった。
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