第46話 マインドリンクの力

「ドゥルルル……!」


 パラドクスと化したスパイナーをにらみつけるゴウレックス。


 その眼差しはまるで諦めとも憤りとも取れるようであった。


「みんな、今助けるよ!」

「クハハハハ、何ヲ言ウカト思エバ戯レ言ヲ」

「その声はシルフちゃん!?」

「ソイツハモウ存在シナイ。在ルノハ我トイウ人格ダケダ」

「そんな……!」


 パラドクスの非情な言葉に、ティナは唖然としてしまう。


「ねえアイラちゃん、リコちゃん、ルーちゃん!」

「「「…………」」」

「そんな、返事してよみんなぁ!!」

「無駄ダ、ソヤツラハ既ニ我ガ手ノ中ダ」


 ケラケラと笑うパラドクスとスパイナーに、ゴウレックスが突撃した。


「グルウウウン!!」


 ゴウレックスの巨体とスパイナーが衝突し、辺りにその余波が吹き荒れる。


「ホウ、ナカナカノパワーダ」

「誰だか分かんないけど、みんなを返してもらう!!」

「グルルルオオオオン!!」


 ティナの激情に応えるよう、ゴウレックスが巨大な顎門あぎとを開けてスパイナーに食らいつこうとした。


「馬鹿ナコトヲッ」


 しかしスパイナーのバルカン砲で返り討ちにされてしまう。


「グルウウウン!?」

「うううっ!」


 バルカン砲の牽制に怯むゴウレックス。


「タダ我ガ手ヲ下スノモツマラン。……イイコトヲ思イツイタ」


 パラドクスが指をパチンと鳴らすと、支配下に置いた三機のアクセルラプターがゴウレックスの前に立ちはだかった。


「そんな……!」

「…………」


 黙したままジリジリと接近する、オレンジ色のアクセルラプター。


 アイラがキー坊と名付けていた機体である。


「ねえアイラちゃん! わたしだよ、ティナだよぉ!」

「…………」


 ティナの悲痛な訴えも、アイラとキー坊には届かない。


「ヤレ」

「グーギュルルル!!」


 パラドクスの命令で、キー坊がゴウレックスに飛びかかる。


「きゃあああっ!」


 ゴウレックスの首筋に飛びかかられた衝撃に顔を歪めるティナ。


「グルウウウン!」


 ゴウレックスが振り落とそうとするも、キー坊は足の爪を食い込ませて離れない。


「グルルルオオオオン!!」

「やめて、ゴウレックス!!」


 ゴウレックスがキー坊を建物に力一杯打ち付けようとするのを、ティナが阻止する。


「ドゥルルル……グルウウ!」


 そうこうしてるうちにキー坊が背中の刃カウンターショーテルで、ゴウレックスの顔面を滅多斬りにした。


「ハハハハ、貴様程ノパワーガアレバソヤツヲ潰スノモ容易イダロウニ」

「だって……だって、アイラちゃんは親友だもん!!」


 ティナの魂の叫びを、パラドクスは鼻で笑う。


「下ラン。情ニ絆サレテミスミス身ヲ滅ボストハナ」

「――にするな」

「ン?」

「ティナを……バカにすんなあああああ!!」


 その時だった、通信越しにアイラの声が届いたのは。


「アイラちゃん! 大丈夫なの!?」

「えへへっ、アタシがこれくらいでどうにかなるわけ……ううっ!」


 正気を取り戻しかけたアイラだが、スパイナーの電磁波で再び洗脳されようとしてしまう。


「アイラちゃん!?」

「うううっ! こんな洗脳に負けちゃ、負けちゃあああああああああ!!」


 洗脳を受けながらも苦し紛れに放ったキー坊のビーム射撃が、スパイナーの背びれの一枚に命中した。


「何ッ?」

「はあ、はあ……頭痛かった~!」

「アイラちゃん! 元に戻ったんだね、よかった~!!」


 ゴウレックスから離れて隣に並び立ったキー坊を前に、パラドクスはうろたえ始める。


「馬鹿ナ、我ガスパイナーノ洗脳ハ完璧ダッタハズ……!」


 そのそばでショートを起こして火花を散らす、スパイナーの背びれ。


「そっか! あの背びれを壊せばいいんだね!! 行くよゴウレックス!!」

「グルルルオオオオン!!」


 ゴウレックスが雄叫びをあげるや否や、マインドリンクが極まったティナの目がオレンジ色に染まる。


「うおおおおおおおおおおお!!」

「グルルルオオオオン!!」

「ナラバ貴様モ支配シテヤル! スパイナー、最大出力だ!!」

「グオオオイエエエン!!」


 スパイナーが背びれをくねらせて、最大出力の電磁波を放った。


「ううっ、ああああああ!!」

「ティナぁ!!」

「……でもこれなら平気だよ。わたしたちにこれは効かない!!」


 なんと、ティナとゴウレックスはマインドリンクの力業でスパイナーの洗脳を打ち破ったのである。


「馬鹿、ナ……!」


「うおおおおおおおおおおお!!」

「グルルルオオオオン!!」


 パラドクスがたじろいだのと同時に、ゴウレックスがスパイナーの背びれに食らいつき。


「いっけええええええええ!!」


「うおおおおおおおおおおお!!」

「グルウウウン!!」


 それからゴウレックスがスパイナーの背びれを根本から引きちぎったのだ。


「グオオオイエエエアアアア!!」


 その途端、支配下にあった機獣たちが解放される。


「あれ、私たちは一体……?」

「た、助かった……」


「リコリー、ルールー!」


 正気を取り戻したリコリスとルーテシアの元に、アイラがキー坊を向かわせた。


「よかったー、二人とも無事で!」

「あら、アイラも助かってたのね」

「へへーん、アタシは自力で復活したもんねー」

「自慢か」


 和気あいあいとするギャル三人をよそに、シルフに取りついていたパラドクスがうめき始める。


「ソンナ、我ガコンナトコロデ……コイツダケハ放シテナルモノカ……!」

「グオオオイエエエン!!」


 背びれを失ったスパイナーだが、なおも猛り続けていた。


 しかしそれもゴウレックスの一噛みでねじ伏せられてしまう。


「グルルルオオオオン!!」


 そしてゴウレックスは真っ先にスパイナーのコアをくわえ上げて、それを一思いに噛み砕いた。


「ウアアアアアアアオノレエエエエエエエエ!!」


 その断末魔と共に、スパイナーの身体が元の色に戻っていく。


「う、ううう……。あれ、ここは……?」


「シルフちゃん!」


 スパイナーのコックピットから這い出てきた正気のシルフに、ティナもコックピットを降りて飛び付いた。


「わわっ! 急に抱きつかないでおくれよ、恥ずかしいじゃないか!」

「よかった、本当によかったよ~~!」


「――どうやら我々の出る幕もなかったようだな」


 その傍らではロードスパイナーの制圧に向かっていたはずの部隊が、黙して状況の鎮静を受け入れる。


 こうしてスパイナーの暴走は一件落着となったのであった。

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