第37話 五人での夏
目をギラギラ光らせた顔を寄せるシルフに、ティナは戸惑うばかり。
そんな彼女たちの元へやってきたのは、格納庫の管理者にして機獣研究も務めるアルバス先生だった。
「やあ、どうかしましたか?」
「あんたは誰だい?」
「これはこれはお初にお目にかかりますな、リッターさん。ボクはエディソン・アルバス、
「そ、そうだけど。……へー、これゴウレックスっていうんだ」
名前を知って感心するシルフに、アルバス先生は瓶底のように分厚い眼鏡を上げ下げしてこんなことを。
「それではボクがララミリアさんに代わってゴウレックスのことをお教えしましょう」
「それは楽しみだね」
それからアルバス先生はシルフに、これまでで分かっているゴウレックスのことについて話し出した。
「――というわけなのです。どうです、興味深いでしょう?」
「感謝するよアルバス先生。ボク、なおのことゴウレックスに興味が湧いてきたよ」
「それではゴウレックスと模擬戦をしてみます? 戦ってみればきっとその強さが分かるかと。……ララミリアさんはよろしいですかね?」
「え、わたし? ……うーん、わたしはいいけど……」
突然の提案に迷うティナだが、隣で聞いてたシルフの答えは意外なものだった。
「今回は遠慮しておくよ。今のボクにはあいにくゴウレックスと渡り合う専用機がないからね」
「あれ、あのストームジェッターは?」
「ああ、あれかいティナ。あれは単なる移動用の機獣さ」
「そうなんだ」
「――そういうことなら無理強いはしませんよ。でも気が変わったらいつでも言ってくださいね、それじゃあ」
そう言い残して奥へ引っ込んでいくアルバス先生に、アイラが口を尖らせる。
「一番ゴウレックスを戦わせたいのって、結局アルバス先生じゃん」
「まあまあアイラちゃん。ゴウレックスだって戦うのは嫌いじゃなさそうだし」
「そうなるとますますボクのロードスパイナーの完成が楽しみだよ。それじゃあ今日はありがとう、二人とも」
シルフも去ると、この場にはティナとアイラそれからゴウレックスだけが残された。
「フィッちゃんも行っちゃった」
「ロード……スパイナー?」
「アイラちゃん?」
「ううん、なんでもないっ」
あっけらかんとアイラが言ったのと同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「あ、ヤバい! 早く行こっ、ティナ!」
「う、うん!」
アイラに急かされてティナも教室へと急いで戻るのであった。
それからさらに一ヶ月が過ぎた頃、学園は夏を向かえていた。
「ふーっ、一学期最後の授業終わりー!」
「明日から夏休みだね。アイラちゃんはどこか行く用事ある?」
「んーと、やっぱ海は外せないっしょ。夏祭りに遊園地、あ~もう夏は楽しみがいっぱい過ぎてヤバーい!!」
夏の予定にアイラが頭を抱えていると、すっかりクラスにも馴染んだシルフがひょっこりと顔を出す。
「それじゃあボクのプライベートビーチはどうだい? 自慢じゃないけど結構いい別荘持ってるんだよね、うちの会社」
「え、いいの!?」
「ああ、ボクたち友達だろっ」
「うひょ~っ!! 恩に着るよシルフ~! それじゃあリコリーとルールーにも伝えてくるね!」
「あ、ちょっと待った……行っちゃったよ」
シルフの制止も聞かずに、アイラは彼女のギャル友達へ話しに行ってしまった。
「ったく、ボクは君たちだけを紹介するつもりだったのに……」
「あはは、アイラちゃんはいつもあーだから……。ねえシルフちゃん、わたしもお友達呼んでもいい?」
「別にいいよ。こうなるともう一人や二人増えても変わんないからね……」
やれやれといわんばかりに肩をすくめるシルフに、ティナは乾いた笑みを浮かべる。
「なんかごめんね、シルフちゃん」
「君も呼びたい友達がいるんだろ? じゃあいってきなよ」
半ば投げやりなシルフに送り出されて、ティナが向かったのは三年生の教室だ。
「確かエリアちゃんってこの教室だったよね……?」
教室の扉を叩こうとするティナだが、直前で緊張して手を引っ込めてしまう。
「そういえば三年生の教室は初めてだったっけ……」
ティナが躊躇っていると、教室の扉を開けたのはエリアだった。
「あらティナさん。どうかいたしましたか?」
「あ、エリアちゃん! あのね、かくかくしかじか……」
ティナが説明をすると、エリアは困った顔をしてしまう。
「ごめんなさい、三年生で進路のこともあるから旅行へは行けそうにないのです……」
「あ、そうか! ごめんねエリアちゃん、そっちの事情も考えないで……」
「いえ、いいんですよ。こうしてあなたが誘ってくださっただけでも私は嬉しいので」
にこにこしながらそう取り繕うエリアの返事に、ティナは肩を落として三年生の教室を去るのであった。
ティナが教室に戻ると、アイラのギャル友達であるリコリスとルーテシアの二人がシルフを囲っている。
「ふーん、結構可愛いじゃない」
「ちょっと磨けば見違える、さすが大企業のご令嬢」
「君たち近いんだけど」
距離感の近いリコリスとルーテシアにシルフィットが困惑を露わにしているそばで、アイラがティナに気づいて手を振った。
「あ、ティナ! どこ行ってたのさー!?」
「アイラちゃん。わたしもエリアちゃんを誘おうとしたんだけど、断られちゃった」
「まー三年生は忙しいっしょ」
「そうだよね、そのくらいちょっと考えれば分かるよね……わたしって本当バカ」
「はわわ、そんな落ち込むことないってティナ~!」
ネガティブ思考に陥って膝を抱えるティナを、アイラが懸命に励ます。
「――ということはまあ、この四人を招待すればいいってことだね。ボクもこれからパパに相談してみるよ」
「よろしくねー!」
こうしてティナたちの夏休みの予定が少し決まったのであった。
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