第35話 アイラのおうち

 シルフを女子寮に送り届けたところで、ティナとアイラの二人は改めてテスト明けの打ち上げをしに出掛けることにした。


「ティナはどこ行きたい?」

「んーと、あんまり遠くないところがいいなぁ」

「それじゃあアタシんち来なよ! うちラーメン屋さんやってるんだ~!」

「それいい! アイラちゃんのおうち、か~」


 アイラの自宅と聞いただけで胸をときめかせるティナを連れて、アイラは最寄りの町へ行く。


「ここがアイラちゃんのおうち……?」


 連れてこられたティナが目をぱちくりさせるのは、パッと見アイラの快活なイメージとは違うものだったからだろうか。


 目の前にあるこぢんまりとした家屋は木造で、ここらではあまり見ない青い布を垂らしたような入り口なのである。


「お父ちゃーん、ただいまー」

「おうっ! お帰りアイラ」


 引戸を開けたアイラを待っていたのは、筋骨粒々な体つきで頭にバンダナを巻いた男だった。


「……そちらの娘さんはお友達か?」

「そうだよお父ちゃん! アタシの大親友ティナだよ!」

「ふえっ、大親友……? ……えへへ、なんか照れるよ~」


 大親友と称されてモジモジするティナに、アイラの父親がその華奢な背中をバシッ!と叩く。


「ひゃいっ!?」

「おうおう! お前さんがうちのアイラの大親友ちゃんかい!」

「ちょっとやめなよお父ちゃん、ティナがびっくりしてるっしょ?」

「おう、悪かったなティナちゃん。俺がアイラの父親だ、よろしくな」

「は、はい。よろしくお願いします……」


 ゴツゴツとした手を差し出すアイラの父親と、ティナは握手をした。


(アイラちゃんの親御さんとご挨拶しちゃったよ~!)


「そんじゃ遠慮なくあがってくれぃ!」

「それじゃあお父ちゃん特製のラーメン、よろしく!」

「おうよ! ちぃと待っててくれ」


 そう言うとアイラの父親は木製のカウンターの向こうで調理に取りかかる。


「それじゃあ行こっか、ティナ」

「う、うん」


 アイラに案内されてティナは鉄板の敷かれたテーブルと草で編んだような床の間へ。


「ここでは履き物を脱ぐんだよ」

「へー、そうなんだ~」


 アイラに言われて靴を脱いだティナが上がる。


「待ってる間何か見よっか」

「そうだねアイラちゃん」


 アイラがリモコンでテレビをつけると、ちょうどCMがやっているところだった。


「リッターコーポレーション、か~。――あれ、リッターってどこかで聞いたような……?」

「そういえばさっきのシルフだっけ? あの子もそんな名字だったよね」

「そうそう! あの子のおうちなのかな~? なんかいろいろ製品出してるみたいだけど……あ、あの子さっきあの耐Gウェア着てたよね!?」


 ティナが差し示したテレビ画面では、確かにシルフが着てたようなセパレート式の耐Gウェアが紹介されている。


「うひゃー、あれアタシのより何倍も高いや~!」

「高級商品なんだね~」


 テレビを囲ってそんな会話をしていたら、アイラの父親がどんぶりに盛り付けられたラーメンを提供した。


「お待ちどう、こいつがうちの特製ラーメンだ」

「お、美味しそう……!」


 特製ラーメン、それは魚介だしのスープと豚の背脂が香る、とても食欲のそそられる一品である。


「それじゃあおじさん、頂きます」


 ティナがフォークで極太の麺をすくって口に運ぶと、口一杯に魚介だしの香りが染み渡った。


「お、美味しい……! これ、すっごく美味しいよ!!」

「でしょでしょ~! うちのラーメンは世界一なんたからさ!」

「ハフハフ、これフォークが止まんないよ~!」


 香り高いスープがよく絡んだ極太麺に、ティナはすっかり病み付きになってしまう。


 そしてティナはあっという間にラーメンをスープまで平らげて、なんとおかわりまでしてしまっていた。


「うぷっ、ご馳走さま~」

「ほう、いい食いっぷりじゃねーか」

「アタシもティナがこんなに食べるなんて意外……」

「えへへ、こんな美味しい食事を教えてくれてありがとう。アイラちゃん」

「んむっ!?」


 ティナが見せた満面の笑みに、アイラは思わず胸ときめいてしまう。


(あれ、ティナってば可愛すぎない……!?)


 謎のときめきに胸を押さえて頬を染めるアイラ。


 お腹いっぱいになった後アイラの部屋に上がらせてもらい、テレビゲームで一緒に遊んだ二人はそれから学園の寮へ帰ることにした。


「もうお腹いっぱいだよ~」

「ティナってばお腹が妊婦さんみたいにパンパンだよ?」

「ふえっ、ウソ!?」


 アイラに茶化されてティナは顔を真っ赤にする。


 そして女子寮に着いたところで、二人はそれぞれの部屋へと戻った。


「ああ、アイラちゃんちのラーメン美味しかったな~。おじさんもいい人だったし……あれ? なんでだろう、急に恥ずかしくなってきちゃった~!」


 人生で初めて友達の家に上がったことで、ティナの幸福度は上限を突破してしまったのである。


 こうしてこの日も過ぎていくのであった……。

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