転校生来る
第34話 空からの訪問者
*
ここはリッターコーポレーションの研究ブースで、一ヶ月に渡るパラドクスコアの解析の末に新たな機獣の開発にかかっていた。
「機獣の開発は順調か?」
「はい、社長。こちら新たな機獣はあと一ヶ月もあれば完成することでしょう」
「それは楽しみだ」
研究員の言葉にほくそ笑むアルファス社長へ、やってきた一人娘のシルフが声をかける。
「へー、これがボクの新しい機獣か~。パパ、これ何て機獣なんだい?」
「聞いて驚け我が娘よ。これはロードスパイナー、かつてないスピノサウルス型の大型機獣になる予定だ」
「スピノサウルスって、あの背びれがある恐竜の?」
「そうだ。その背びれがパラドクス根絶の鍵を握るといってもいい。ロードスパイナーに君が乗る日は決して遠くないはずだ。そうなれぱシルフ、君は世界の救世主になる」
「それは楽しみだな~。君もそう思うよね、スパイナー」
シルフがブースから身を乗り出して声をかけた先で、開発中の素体の目が一瞬点滅した。
そんな彼女にアルファス社長は咳払いをし、こんなことを切り出す。
「そこでだ、君にはこれから国立エバー高等学園に編入してもらう」
「エバー学園って、ウォーリアー育成で有名なあそこかい?」
「そうだ。シルフにはそこでウォーリアーとしての技術を磨いてもらおうと思う」
「今の学校でも十分だと思うんだけどなー」
やや不満げに口を尖らせるシルフに、アルファス社長はこう続けた。
「それだけではない、かの学園には今興味深い機獣がいるのだ」
そう言ってモニターに映し出したのは、巨大なティラノサウルス型の機獣である。
「パパ、これは?」
「今エバー学園の管轄になっているという、ティラノサウルス型の大型機獣だ。先月起きたシティーアイランドでの出来事は知っているだろう?」
「あそこでパラドクスコアを回収したんだっけ」
「そう。そしてそのパラドクスたちを制圧したのが、他でもないこの機獣なのだよ」
「ふーん、強いんだ~。――パパ、ボクもエバー学園に編入するよ。そのティラノサウルス型の機獣に興味が出てきた」
「いい子だシルフ。手続きはすぐに済ませるから、君も準備をするといい」
「はーい」
この出来事がティナとゴウレックスに何をもたらすのか、それはまだ誰の知るよしもない……。
*
機獣バトルトーナメントから早一ヶ月、ティナは中間テストをやっとの思いで終えていた。
「あ~、やっと終わったよ……」
教室の机に突っ伏すティナにアイラがいつものように声をかける。
「やっほーティナ。テスト終わったねー」
「ホントだよ……。あ~、今からテストの点数が怖いよ……。 アイラちゃんはどうだった?」
「アタシ? アタシはこれまで通りだったかなー。高等部だからちょっと難しいところもあったけどさ」
「アイラちゃんは勉強できるもんね。うらやましいよー」
そう漏らしながら机の上でため息をつくティナに、アイラは愛想笑いをした。
テスト期間ということで午前中のうちに放課となったティナは、アイラと一緒に女子寮へ歩いている。
「テストが終わったんだし、これからパーっとやっちゃおうよ!」
「いいねそれ。どこ行く?」
「そうだなー、オータムヤードシティーもいいけど……」
アイラがそう言いかけた時だった、遥か遠くから何かがこちらに向かって高速で飛んでくるのが見えた。
「アイラちゃん、あれって……!」
ティナがそう言うまでもなく、飛んできたそれは目の前で着陸態勢に入ろうとする。
「きゃあああああっ!」
「うわあああああああ!?」
突風を巻き起こしてティナたちの目の前を通りすぎるように滑走して着陸したのは、銀色をしたプテラノドン型の航空機獣ストームジェッターだった。
地に足つけたストームジェッターが銀色の翼を地面に下ろすと、頭のコックピットから一人の若いウォーリアーが降りてくる。
「へー、ここがエバー学園か~」
ティナたちの目の前で好奇心のままにキョロキョロとする、見たこともない紫色の耐Gウェアを身にまとった少女。
片目が隠れる緑色のショートカットに、血のような深紅の瞳。
上下セパレートのピッチリとした耐Gウェアに包まれた身体は華奢でいて胸の膨らみがほんのりと確認できることから、その人物が女であることがうかがえる。
(わたしと同じくらいの背丈なのに、わたしより
嫉妬混じりの考察をするティナに気づいたのか、謎の少女は気さくに声をかけてきた。
「やあ、君たちがこの学園の生徒かい?」
「そ、そうだけど……あなたは?」
「ああ、自己紹介が遅れたね。ボクの名前はシルフ・リッターさ」
「は、はあ」
流暢な自己紹介にポカーンとするティナとアイラ。
「この学園に編入することになったから手続きをしに来たんだけど、どこに行けばいいのかな?」
「それならあっちの女子寮へ行くといいよ。案内しよっか」
「助かるよ」
「あ、アタシはアイラ。こっちはティナだよ」
「ふーん、アイラにティナか。ボクからもよろしく頼むよ」
シルフと握手を結んだところで、ティナたちは女子寮の管理人のところへ向かったのである。
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