第33話 激戦の余韻

「わたし、勝った……の?」


 審判と共に観客生徒たちから溢れんばかりの歓声を浴びせられて、ティナはようやく状況を飲み込めた。


 そんな彼女とゴウレックスの元に、キラータイガーから降りたイザベラが歩み寄って称賛を贈る。


「負けてしまったな。でも素晴らしい戦いだった、感謝する」

「ティーガー先輩……はい、ありがとうございました!」


 ティナもゴウレックスから降りるなり、イザベラと固い握手を結んだ。


『これにて機獣バトルトーナメントは閉幕! 数々の激闘を繰り広げたウォーリアーと機獣たちに、改めて熱い拍手を!!』


 実況の言葉で生徒たち全員が改めて熱い拍手を皆に贈る。


 そんな彼らにティナはイザベラと共に手を大きく振り返したのだ。



 その足でティナがクラスに戻るなり、クラッカーが打ち鳴らされてクラスメート全員から祝福を受ける。


「ティナ・ララミリアさん、優勝おめでとー!!」

「ふえっ、みんなどーしたの!?」


 突然のことに目を白黒させるティナ、そんな彼女へ真っ先に飛びついたのはやはりアイラだった。


「ティナーっ!」

「あ、アイラちゃん!?」


 抱きつかれるなりアイラの豊満な胸を押し当てられて、ティナはどぎまぎしてしまう。


「アタシ信じてたよ、ティナなら絶対優勝できるって……!」

「アイラちゃん……うん、わたし優勝したよ」


 整った顔を嬉し涙でグショグショに乱すアイラを、ティナは優しく抱き返した。


「それじゃあ早速優勝の打ち上げやろーぜ!」

「おー!!」


 そしてクラスメートのみんなが用意してくれたささやかなご馳走を囲んで、ティナは勝利を噛み締めるのであった。



 時を同じくして、とある株式会社の研究ブースで怪しげな研究が行われていた。


「パラドクスコアの出力、ようやく安定」


 目の前の大きなガラス管の中でチューブに繋がれたマゼンタ色の丸い結晶を前に、白衣を着た研究者らしき人物たちがカタカタとコンピューターを操作している。


 パラドクスコア、先日シティーアイランドで発生した巨大なゴリラパラドクスのものを回収したのがここにあった。


 そこへやってきたのは、整った身なりをした長身の中年男性。


「研究は順調かね?」

「社長。はい、パラドクスコアも安定してようやく次の段階へ進むことができます」

「そうか」


 研究者の言葉に社長と呼ばれた男はおもむろにうなづく。


 アルファス・リッター、機獣産業ではかのヒラリー財閥と対を為す大企業【リッター・コーポレーション】の社長だ。


 そんな彼の元に続いてやってきたのは、少年とも少女ともつかない細身の若者。


 白銀の背広に合わせた黒いホットパンツから伸びる華奢な白い脚。


 短く整えられた黄緑色の髪は左目を隠しており、そのミステリアスさをさらに醸し出している。


「パパ、ボクの専用機おもちゃはできそう?」

「誰かと思えばシルフか。ああ、パラドクスコアの解析がうまくいけば最強の機獣が完成する。その暁にはシルフ、君がそのウォーリアーになるのだ」

「アハっ、それは楽しみだね」


 無邪気に笑う少女の名はシルフ・リッター、目の前にいるアルファスの一人娘だ。


「今に見てろよ、ヒラリー財閥にばかり大きな顔はさせんからな」


 不敵にほくそ笑むアルファス、彼の計画とは一体……?



 トーナメント戦が終わったその夜、青い学生服に身を包んだティナは校庭でゴウレックスと共に夜空を見上げていた。


「ねえゴウレックス、わたしたちが勝てたのってまぐれなんかじゃないよね……?」

「ドゥルルル……」


 座り込んで見上げるティナに、ゴウレックスは巨大な顔を擦り寄せる。


「あはは、くすぐったいよゴウレックス~」


 すっかり甘えん坊な態度のゴウレックスに、ティナはにっこりと微笑んだ。


「ゴウレックス、わたしたちもっともっと強くなろうよ」

「ドゥルル?」

「それこそ誰にも負けないくらい強く、ね」


 不思議そうな顔を向けるゴウレックスに、ティナはにっと笑顔を向け直す。


「ティナ~!」


「アイラちゃん!」


 そこへ駆けつけたのはアイラだった。


「探したよティナ! 寮を探してもどこにもいないんだもん!」

「あはは、ごめんねアイラちゃん」

「ところでさぁ、こんなところで何してんの?」

「うーんとね、ちょっとゴウレックスと一緒に夜空を見たかったんだぁ」

「ふーん、ティナらしいね」


 そんなことを言いながらアイラも隣に腰を下ろす。


「アイラちゃん、わたしとゴウレックスもっと強くなれるよね?」

「ん、急にどうしたのティナ? でもまあ、ティナならこれからももっともっと強くなれるっしょ」

「アイラちゃん……! うん、きっとそうだよね!」


 二人して喋り合うティナとアイラを見守るように、夜空を浮かぶ三つの月が優しく光を灯していた。

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