第32話 勝利は誰の手に

 にらみ合いながらジリジリと間合いを詰めていく、ゴウレックスとキラータイガーの両者。


『今まで開幕直後に突撃してたゴウレックスが、今回ばかりは慎重な様子。これはどういうことか……?』

『恐らく今までの相手とは訳が違うことを、ゴウレックスも本能的に悟っているのでしょうね。なにせ相手は学園で最強のウォーリアーと機獣ですから』


 アルバス先生の解説通り、ティナもゴウレックスのいつにない慎重さに若干の違和感を覚えつつもそれを尊重している。


「ゴウレックスも分かるんだね」

「ドゥルルル……」


 この緊迫を破って先に仕掛けてきたのはキラータイガーだった。


「それでは行くぞ、キラータイガー!」

「ガフウウウウ!!」


 イザベラの声掛けで吠えたキラータイガーが、ひとっ跳びでゴウレックスを跳び越えて瞬時に背後に回る。


「いけないっ!」

「グルルウウウン!」


 すかさずゴウレックスが強靭な尻尾を振るって応戦するも手応えがない。


 瞬時に身を伏せたキラータイガーによけられたのだ。


 攻撃をかわされてできたゴウレックスの隙を逃さず、キラータイガーがその背後にとびかかる。


「しまった!」


『おっと! 早速キラータイガーがゴウレックスの背中を取ったぁ!』


「まだ位置取りが甘いな、ティナ・ララミリア」


 そう忠告するイザベラと共に、キラータイガーがその長く鋭い牙をゴウレックスの腰に突き立てた。


「グルルルルオオオオオン!!」


「落ち着いて、ゴウレックス!」


 ティナが操縦桿を握って制御しようとするも、ゴウレックスはそれを無視して大雑把に体を揺するばかり。


「それなら!」


 ティナがゴウレックスを後ずさらせて腰をスタジアムの壁に強く打ち付ける。


 その瞬間巻き起こる土煙の幕、しかしキラータイガーは直前でゴウレックスから飛び降りていた。


 そればかりかキラータイガーはかわし際に背中のビーム砲での砲撃をお見舞いする。


「あああああっ!!」


 コックピットにまで伝わる砲撃の衝撃で、苦悶の絶叫をあげるティナ。


 そんな彼女にイザベラはこう言い放つ。


「確かにその機獣は強い。だがティナ・ララミリア、お前がまだそれに伴っていない!」


「そんなっ!」

「グルルルルオオオオオン!!」


 その言葉に激昂したゴウレックスが顎門あぎとを開け放って突進するも、キラータイガーのパンチで難なく迎撃されてしまった。


「ううっっ!」



「ティナ……!」


 控え室で独り見守るアイラは、ティナとゴウレックスの様子が気にかかるのか豊かな胸の前でぎゅっと拳を握りしめる。


 そのうちゴウレックスはキラータイガーに顔面を押さえ込まれてしまっていた。


『あっとぉ!? ゴウレックス、キラータイガーに顔面を取られたぁ! これはなす術なしか!?』


「終わりだ」

「ガフウウウウ!」


 キラータイガーがゴウレックスの脳天に牙を突き立てようとした、まさにその時。


 ティナの脳裏にゴウレックスの強い意志が流れ込んできた。


「――ゴウレックス、負けたくないんだね。じゃあわたしも本気であなたを勝利に導くから!!」


 刹那開かれたティナの双眸がオレンジ色に染まり、ゴウレックスの動力ラインも同じオレンジ色に輝き出す。


「グルルルルオオオオオン!!」


 魂の雄叫びを高々とあげたゴウレックスが、押さえ込んでいたキラータイガーを力一杯投げ飛ばしたのだ。


『ああっとぉ! いきなり光り出したゴウレックスがキラータイガーをぶん投げたぁ!!』


 空中で回転しつつも瞬時に体勢を立て直して着地するキラータイガーに、ゴウレックスが大口を開けて駆け込む。


「グルルルルオオオオオン!!」

「キラータイガー!」


 イザベラがキラータイガーにビーム砲撃をさせるも、ゴウレックスはビームに怯むことなく突っ込み、遂にキラータイガーに噛みついて捕えた。


「速いっ!?」


『おっとぉ!? ゴウレックスの動きが目に見えて速くなってるぞ!』


「やったー! ゴウレックス~! やっちゃえー!!」


 控え室で見守るアイラが、この反撃で興奮余って跳び跳ねている。


「くっ! キラータイガー、この窮地を脱するぞ!」

「ガフウウウウ!」


 キラータイガーが爪でゴウレックスの下あごを引っかくも、すぐさま投げ飛ばされてスタジアムの壁に叩きつけられた。


「がはっ!?」


 これにはキラータイガーとイザベラもすぐには体勢を立て直せず。


あれ・・いくよ、ゴウレックス!」

「グルルウウウン!」


 その間にゴウレックスが姿勢を変えて必殺技のスタンバイに入った。


 背中と尻尾の付け根の装甲を展開し、足元のアンカーを下ろして地面に固定。

 そして低く一直線になった体幹を通して大きく開け放たれた口の砲口にエネルギーが凝縮され始める。



「荷電粒子砲、発射あああああ!!」


 そしてティナが安全蓋を開けてスイッチを押した瞬間、ゴウレックスの口から荷電粒子の奔流が放たれた。


「これは……まさか!」


 荷電粒子の奔流がキラータイガーに命中した途端、周囲が黒い爆風に覆われて見えなくなる。


『これはなんということだ! ゴウレックスの必殺技で辺り一面が見えない!!』


 困惑を露わにする実況、少しして土煙が晴れるとそこには全身ショートを起こして動かなくなった紅の機体があった。


「…………つ、遂に決着ぅ!! この勝負を制したのは、ゴウレックス&ティナ・ララミリア選手だあああああああ!!」

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