第29話 準決勝第一試合

 ティナたちが控え室で待機していると、先ほど試合を終えたマリアがずかずかと歩いて怒りを露わにしながら戻ってきた。


「全くもう、あの無様な負け方ではヒラリー家の面目丸潰れですわ!」

「残念だったね~イインチョー」


 ぷんすこと鼻を鳴らすマリアにアイラがその肩に腕を回して労いの言葉をかけるも、その手はすぐに払いのけられてしまう。


「憐れみはいりませんわ。当たった相手が悪かったと思うことにいたしましょう。それよりもっ」


 それからマリアに目を向けられて、ティナは目を丸くした。


「へっ、わたし?」

「そうですわよララミリアさん。あなたにはわたくしの分まで勝ってもらわなければ困りますの。負けは許しませんわよ!」

「う、うん……」

「それでは失礼いたしましたわ。おーっほっほっほ!」


 そう言い残して優雅に控え室を出ていくマリアに、アイラは肩をすくめる。


「言うだけ言って出てっちゃったかー」

「ねー」

「でもさティナ、イインチョーの気持ちも分かるかも。だってアタシも負けちゃってるし」

「アイラちゃん……」

「だからさ、絶対負けないでよ。アタシ、ティナとゴウレックスなら優勝できるって信じてるし!」

「そんな! わたしなんて……」


 否定しかけてティナはアイラの真剣な眼差しに気付き、迷いを胸に押し止めて前を向いた。


「うん、わたし負けないよ。アイラちゃんとイインチョーの分まで絶対勝ってみせる!」

「その意気だよティナ!」


 アイラに腕を肩に添えられて、ティナも士気を高める。


(そうだ、わたしはもう独りなんかじゃない!)


 意気込んでいるうち、前項にアナウンスが流された。


『これより機獣バトルトーナメント準決勝を開始します。出場選手は準備をしてください』


「それじゃあ行ってくるね、アイラちゃん!」

「うん! 待ってるよティナ!」


 大きく手を振るアイラに手を振り返し、ティナは赤コーナーの入り口へ駆け出す。


 そして機獣の待機スペースにやってきたティナは、鎮座するゴウレックスに声をかけた。


「お待たせゴウレックス。また一緒に勝とうね!」

「ドゥルルル」


 ティナが突き出した拳に、ゴウレックスがおもむろに巨大な顔を近づけ鼻を添える。


「うん、今のわたしたち通じあえてる。これなら大丈夫!」


 ティナが自己暗示をかけると同時にゴウレックスの頭にあるコックピットが開き、彼女は颯爽とそこへ乗り込んだ。


「ああんっっ」


 シートに座るなり背後から伸びるケーブルが首筋に接続され、快楽と僅かな痛みに嬌声をあげたティナが身体をのけぞらせる。


 そして紺色にくすんでいた耐Gウェアが朱色に変化してマインドリンクが施された。


「よーっし、行くよゴウレックス!」

「グルルルルオオオオオン!!」


 ティナの号令と共に立ち上がったゴウレックスが、高らかに雄叫びをあげる。


 それから重厚な足音を響かせて歩いていくと、だだっ広いスタジアム会場が見えてきた。


「やって参りました準決勝第一試合! 赤コーナー、狂乱の暴君機獣ゴウレックス&小さき新星ティナ・ララミリア選手!」


 入場するなりアナウンスコールされて、ティナとゴウレックスに溢れんばかりの歓声が浴びせられる。


「グルルルルオオオオオン!!」


 それに呼応してゴウレックスが吠えると、対面の青コーナーから同じく巨体を誇る対戦相手が入場してきた。


『対するは青コーナー、巨大なる重装機獣エレファイター&叡智なる生徒会長、エリア・タスカー選手!』

「パオオオオオオオオ!!」


 同じように歓声を浴びたエレファイターのマックスが、長い鼻を高々とあげて雄叫びをあげる。


「今度はあなたが相手ですね、ティナさん」

「エリアちゃん、わたしも負けないよ!」

「望むところです!」


『レディーファイト!』


 体格も互角な両者が対面したところで、試合開始のゴングが打ち鳴らされた。


「行くよゴウレックス!」

「グルルウウウン!!」


「こちらも突撃です、マックス!」

「パオオオオ!」


 ゴウレックスとマックスが共に走りだし、お互いの頭がぶつかり合う。


 その瞬間スタジアムに飛ぶ、重厚な衝撃。


『おおっとぉ、両者いきなりぶつかり合ったぁ!!』

『お互い20メートルを超える大型機獣ですからね、互いのパワーが真っ向からぶつかればこうもなりますよ』


 沸き立つ実況をよそに、ティナはコックピット内で衝撃に目を固く閉じていた。


「ううっ! ……耐Gウェアがなかったら危ないところだよ~! でもっ、わたしだって負けないもん!!」

「グルルウウウン!!」


「最初から力比べですか、いいでしょう! マックス!」

「プオオオン!」


 ぶつかり合った巨体同士が、今度は力の限り押し相撲を繰り広げる。


「さすがエリアちゃんの機獣、すごいパワーだよ……! でも負けないっ、ゴウレックス!」

「グルルウウウン!!」


 ティナの張り上げた声に応えるように、ゴウレックスがマックスの顔面に再び頭を打ち付けた。


「さすがは暴君機獣というだけはありますね、パワーでこのマックスにひけをとらないなんて。ですがっ!」

「パオオオオオオオオ!!」


 すると今度はマックスが長い鼻でゴウレックスの足を払う。


「わあっ!?」

「グルルオオオ!?」


 二本しかない足を払われて、ゴウレックスは巨体を地面に強く打ち付けてしまった。


「覚悟!」

「プオオオン!!」


 そんなゴウレックスの顔面に、丸太のように太いマックスの足が迫る!

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