第26話 試合の合間

「いやー、負けちゃった~!」


 控え室に戻るなりティナにそう告げるアイラだが、その顔は清々しいもので。


「アイラちゃん、惜しかったね」

「やっぱ上には上がいるんだなーって、思い知らされちゃったよ」


 そう言ったアイラはティナの手をひしっと握る。


「だからさ、ティナは負けちゃダメだからね!」

「うん、もちろん!」


「――仲がよろしいのですね」


 そこへパチパチと手を叩きながら入ってきたのは、先ほどまでアイラと戦っていたエリアだった。


「会長!」

「やはり持つべきものは友人ですよね。私にもそのようなご友人が欲しかったです」

「会長はさー、友達いないのー?」

「ちょっと、アイラちゃん!?」


 無神経なアイラの問いかけでティナがギョッとするも、エリアはくすっと笑って答える。


「確かに生徒会の仲間たちも頼もしいものです。しかし生徒会長という身である以上、どこか距離があるように思えまして……」

「会長……」


 そう語るエリアは寂しそうな顔で、ティナはどこか共感じみたものを覚えた。


 するとここで手を上げて発言したのは、他でもないアイラである。


「それじゃあさあ! アタシたちと友達になろうよ!」

「ふえっ、会長とお友達!?」

「そんなに驚くことないっしょティナ、だって会長だって一人の女の子なんだからさっ」


 驚くティナの肩に肘を添えながら言うアイラに、エリアは柔和に微笑んだ。


「一人の女の子、ですか。そう言ってくださったのはあなたが初めてですよアイラ・・・さん」

「おおっ、会長がアタシのこと名前で呼んでくれた!!」


 下の名前で呼ばれて嬉しそうに食い入るアイラに、エリアはこう続ける。


「ティナさん、でしたね。あなたがよろしければ私も仲間に入れて欲しいのですが」

「わわわわっ、わたしがとやかく決めることじゃないですよ会長! ――アイラちゃんが言うんだからわたしも大歓迎ですっ」

「それは嬉しいですね」

「それじゃあよろしくね、エリア!」

「ええっ、いきなり呼び捨てなのアイラちゃん!?」

「いーじゃん! だってアタシたち友達なんだよ!?」


 戸惑うティナに腕を絡めるアイラ。


「それじゃあわたしだけ堅苦しいのも変ですよね。……エリアちゃん」

「はい、よろしくお願いしますティナさん」


 ティナと笑顔で握手をするエリア、その二人をまとめてアイラが抱きしめる。


「これでアタシたち友達だね!!」

「友達……いい響きですね」


 友達という単語を噛み締めて胸に手を添えるエリア。


 余談だがアイラを超えるエリアの巨乳に、ティナはまたも自分の未発育さを思い知らされたのはここだけの話。


「それじゃあ次の試合までちょっと時間があるし、何か軽く食べに行こうよ! この三人で!」

「いいですね。私もバトルの後でちょうど小腹が空いていたところなんです」

「さっきのバトルすごかったもんね~」

「ホントだよー、エリアが鬼のように強かったんだからさ~」


 そんなことを話しながらティナたち三人は、控え室を出て学園の食堂へ向かうことにした。


 スタジアムを出ると、その道沿いには生徒主催の屋台がいくつも並んでいる。


「バトルトーナメントって、こういうのも出てるんだね~」

「こういうの賑やかでいいよねー!」

「ティナさんにアイラさん、あなたたちは一年生だからこれが初めてでしたね。この学園ではイベントがある度にこうして生徒たちが屋台を開くのが恒例なんです」

「そうなんだ~! あ、あれ美味しそう!!」

「あ、待ってよアイラちゃ~ん!」


 美味しそうな匂いを嗅ぎ付けてダッシュするアイラを慌てて追いかけるティナ。


 そんな二人にエリアは微笑ましくなってくすりと笑う。


「やはり仲がよろしいですね」


「――ほらエリア~、早く来ないと置いてっちゃうぞー!」

「あ、待ってくださーい」


 アイラに呼ばれて駆け足で向かうエリア。


 屋台でホットドッグを買った三人は、野外のテラス席で食べることに。


「んーっ! このホットドッグ、マスタードが効いてて美味しー!」


 ホットドッグに舌鼓を打つアイラに、ティナはこう言う。


「こういう賑やかなのも楽しいよね」

「うんうん! 分かってるじゃんティナ!」

「こうして友人と囲む食事もまた、格別の味なんですね」

「エリアちゃん……」


 しんみりと語るエリアにティナは黙り込むも、アイラがこう切り出した。


「それじゃあこれからはいつでも格別の味ってやつだね!」

「アイラさん、……そうですね。私も嬉しいです」


 そんないい雰囲気をぶち壊すかのように、男子生徒の怒号がどこからか聞こえてくる。


「――やんのかオラァ!」


「ふえっ、なになに~!?」

「あそこっ」


 アイラが指差した方には、髪を逆立てた一人の男子生徒を囲む柄の悪い数人の男子生徒の姿が。


「なんだテメエ、俺らのことが見えねえのかあ?」


 柄の悪い男子生徒の筆頭がもう一人の男子生徒にメンチを切る様子を、他の生徒たちがザワザワとしながら遠巻きにみている。


「そこを退けと言っているんだ。この場はお前たちの溜まり場ではない」

「あんだとゴラァ!!」


 相手の男子生徒の言葉でいきり立った不良生徒が殴りかかるも、彼にいなされて地面に叩きつけられた。


「痛っつ~! 覚えてやがれ!!」

「あ、アニキ~!」


 捨て台詞を残して立ち去る不良生徒を見届けた男子生徒もまた、そのまま場を離れる。


「何だったんだろう……?」

「あの方は確か、ウルフ・ターバンですね」

「知ってるの、アイラ!?」

「はい。出席日数が足りないうえ素行も悪い二年生の男子生徒として、生徒会でも何度か話題に上っていたんです」

「ウルフ・ターバンって、確かこの後の試合の出場選手だよね?」


 ティナの問いかけにエリアは黙してうなづいた。


 ウルフ・ターバン、彼は一体何者なのか。

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