第21話 ティナの精神

 戦いが終わった後、ゴウレックスの頭上から何かがフワフワと降下してくるのをティナは見つけた。


「何だろう……?」


 足元にふわりと落ちてきたそれは、虹色の光沢を放つマゼンタ色の丸い結晶。


うまそう・・・・……」


 おぼろげに漏らしたティナと共にゴウレックスがその結晶を口にしようとした、その時だった。


 クワガタのような小型機獣が目の前で謎の結晶を掠め取っていったのである。


「待て! ――あっ」

「グルルウウ……」


 ティナの叫びと共に顔を上げたゴウレックスだが、突如目の光が消えて膝から崩れ落ちてしまった。


「ティナー!」


 キー坊から降りて駆け寄ったアイラの目の前で、ティナがコックピットを開けて這うように出てくる。


「あれ、わたし……?」

「ティナ、大丈夫!?」


 ティナの華奢な肩をがっしりと掴むアイラへ、後からやってきたリコリスがこんなことを告げた。


「どうやらエネルギー切れみたいね。ゴウレックスも、あなたも」

「えへへ、そうみたい……」

「なーんだ~。それなら良かったよー」


 安堵の息をつくアイラたちの元に、ビートボーグに乗ったクラフトが声をかける。


「そのデカい機獣、俺たちがホエールジャンボのところまで運んでやろうか?」

「ありがとう、助かるよクラフト君……」


 こうしてビートボーグ三体がかりでゴウレックスがマリアのホエールジャンボまで輸送されたのであった。



 その翌朝、ティナは全校生徒の前で学園から表彰されることに。


「ティナ・ララミリアさん」

「は、はいっ!」


 指名されたティナがキョドってから理事長の元へ歩く。


「先日シティーアイランドの防衛に多大なる貢献をしたことを表彰します」


 そう告げた理事長から渡された表彰状を、ティナはガクガクと震える手で受け取った。


 その瞬間、彼女に溢れんばかりの拍手が贈られる。


 これでティナの名が全校生徒に知れわたることとなったのだ。


 それからというもの、ティナは行く先々で羨望の目を向けられるように。


「うう~、なんか落ち着かないよ……!」

「まあまあ! 悪いことをしたわけじゃないんだし、むしろすごいことをやったんだから素直に胸を張るべきだよ!」

「アイラちゃんはすごいな……」


 堂々と隣を歩くアイラが、ティナには眩しく見えて。


 試しに胸を張ってみたものの、未発育で真っ平らな自分の胸では全然様にならず逆にうなだれてしまった。


「そういえばアルバス先生から話があったっしょ? それはどーすんの?」

「あ、忘れてたっ。……どうせなら話に乗ってみようと思う。わたしもゴウレックスと一緒にもっと強くなりたいし」

「ティナ、めっちゃポジティブになったじゃん!」

「えへへ、アイラちゃんってば~」


 肩を組んできたアイラの豊満な胸を押しつけられて、ティナも少し困り顔。


 そして迎えた放課後、ティナは部活の助っ人に行くアイラと別れて格納庫へ向かうことに。


 学生証でシャッターを開けると、そこで待っていたのはアルバス先生だった。


「やあ、待っていましたよララミリアさん」

「あのっ、アルバス先生! わたし、ゴウレックスともっと繋がりたいです! お願いします!」


 ティナが頭を下げると、アルバス先生は瓶底のように分厚い眼鏡を光らせる。


「どうやら前向きに考えてくれたみたいですね。それでは始めましょうか。こちらへどうぞ」


 アルバス先生の案内でティナが連れてこられたのは、格納庫に隣接する研究所だ。


「まずは君のマインドリンクのことを分析してみましょう」


 そう言ってアルバス先生が差し示したのは、卵形のカプセルみたいな装置。


「これは……?」

「ちょっとしたシミュレーション装置ですよ。あちらに更衣室があるので、耐Gウェアに着替えて装置に入ってみてください」

「分かりました」


 更衣室で耐Gウェアに着替えたティナは、卵形のシミュレーション装置に入る。


 蓋が閉じると、伸びてきたケーブルが首筋に接続された。


 その瞬間ゴウレックスとマインドリンクを施した時のように、耐Gウェアがくすんだ紺色から鮮やかな朱色に変化する。


「これでいいんですか?」

「はい、これで大丈夫です。どれどれ~?」


 アルバス先生がコンピューターをいじって分析をすると、彼はすぐにすっとんきょうな声をあげて驚いた。


「こ、これはぁ!」

「え、どうかしたんですか先生!?」

「すごいですよこれ! こんな高いマインド値は初めてです! いやー、すごいです!」


 分厚い眼鏡をくいっと上げ下げして興奮するアルバス先生に、ティナは戸惑いを隠せない。


「それってどういう……?」

「いいですかララミリアさん、君は常人の十倍を超えるマインド値を持っているみたいなんです。だからゴウレックスみたいにマインドリンクの負担が大きい機獣に乗っても平気なんですよ」

「そうなんですか? でもわたし、今まで他の機獣には乗れなかったんですけど……」

「無理もありません、これだけ高いマインド値では機獣の方から拒絶されてしまいますからね」


 アルバス先生の話によれば、人と機獣の間ではマインド値がちょうどよく合致しないとマインドリンクを正常に繋げないとのこと。


「だからなんですね……」

「逆に言えばそんな君だからこそゴウレックスと繋がれるわけですよ。だけどそれは危うい一面も併せ持ってるんです」

「それってもしかして暴走のことですか?」


 ティナの問いかけにアルバス先生は黙してうなづく。


「マインドリンクがこれだけ相性がいいと、どちらかの精神にもう片方が引っ張られてしまう恐れがあるんですよ」


 アルバス先生の持論にティナは覚えがあった。


 決闘の時も怒りに我を忘れた自分と猛るゴウレックスの気持ちがリンクして、結果的に暴走に繋がってしまったと。


「だからこそ機獣の精神に引っ張られないよう、ララミリアさんが強い精神を持たなければなんです」

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