第2話 出現
ガチャガチャと稼働音を立てて走るアクセルラプターのキー坊に気づいたのか、蜘蛛パラドクスが背中を機銃の形に変形させた。
「はわわ、パラドクスが変形したよ!?」
「学校で習ったっしょ、パラドクスは身体の一部を武器に変えることができるって!」
人ならざる存在が人工の銃火器に酷似した武装を顕現する、これこそ奴らが
ズダダダダ!とパラドクスが機銃を乱射するのを、キー坊は走りながらひょいひょいとかわしていく。
小型機とはいえ全長10メートルを超える巨大な体躯からは考えられない身軽さである。
「うわああああ!!」
キー坊が激しく動くものだから、マインドリンクを繋いでいないティナは襲い来る重圧に顔を歪めていた。
「行っくよー! 食らえ、ストライクシックルクロー!!」
「グーギュルルル!!」
そう叫んだアイラの操縦でキー坊がジャンプして、急降下ざまに蜘蛛パラドクスの一体を踏みつける。
「キギイィ!?」
耳をつんざく金切り声をあげる蜘蛛パラドクスの顔面に、キー坊がラプトル特有の鋭い鉤爪を突き立てた。
「キギイィ……!」
顔面を貫かれて弱った一体は、細かな粒子に弾けて消滅する。
仲間の一体を倒されて逆上したのか、残りの蜘蛛パラドクスが脚を剣のように変形させて次々と飛びかかってきた。
「キギイィ!!」
「アイラちゃ~~ん!!」
「心配ご無用だよティナ! 今度はカウンターショーテルだよキー坊!!」
「グーギュルルル!!」
飛びかかってきた蜘蛛パラドクスをかわし際に、キー坊が背中の刃を振りかぶり、数体まとめて切り裂く。
それからもキー坊は蜘蛛パラドクスを爪と背中の刃で切り裂いていった。
「どんなもんだいっ!!」
「アイラちゃん、危ない!!」
「へっ? ……うわああああ!!」
キー坊の快進撃でアイラが得意気になったのもつかの間、蜘蛛パラドクスの機銃掃射をキー坊が浴びてしまう。
その瞬間コックピットに伝わる衝撃!
「でもアタシのキー坊はこれくらいじゃへこたれないっつーの! ……あれ?」
アイラが操縦桿を握るも、キー坊の動きが目に見えて悪化。
「見てアイラちゃん、キー坊ちゃんの脚が!」
ティナの指摘でキー坊の足首から火花が散ってショートを起こしてるのに、アイラは気づいて自分の頭を叩く。
「あちゃー! ごめんキー坊!」
「どうするのアイラちゃん……?」
「パラドクスの数も増えてきたし、ここは退散的な!? キー坊、足が痛いと思うけどもうちょっとだけ頑張って!!」
「グギュルルル……!」
アイラのお願いで奮起したのか、キー坊が脚を引きずりながらも退却しようとする。
だけど蜘蛛パラドクスはそれを許さず、なおも一斉に機銃掃射を続けた。
「ううううっ!!」
「きゃあああああ!!」
浴びせ続けられる銃弾の嵐に苛まれるキー坊、その次の瞬間には足元が崩れて落下。
「うわああああ!!」
「きゃあああああ!!」
どのくらい落下しただろうか、とてつもない衝撃と共に目の前のモニターが砂嵐を起こして見えなくなる。
「痛っつー……」
開け放たれたコックピットハッチから這い出るアイラとティナ。
「ごめんねキー坊、アタシが無理させちゃったばっかりに……」
「アイラちゃん……」
システムフリーズを起こし眼光の消えたキー坊に謝るアイラを、ティナはただ見ていることしかできない。
「しっかしここどこだろね……真っ暗ってわけでもなさそうだけど」
アイラの言うとおり、地下空間でありながらもぼんやりと光があるため最低限の視界は保たれている。
その時だった、ティナの緑色の瞳がふっ……とオレンジ色に変わった。
「――呼んでる」
「どしたのティナ? ……ティナ!?」
ふらふらと歩き出すティナの手をアイラが繋ぎ止めようとするが、意固地な力で逆にズルズルと引きずられてしまう。
「へっ!? ティナってば強……!」
「――行かなくちゃ」
「ちょっと! しっかりしてよティナ~!」
アイラの呼び掛けにも応じることなく、ティナはズンズンと地下空間の奥へ奥へと進んでいく。
「ティナ! ティナってばぁ!!」
「――はっ! わたし一体……?」
ティナが我に返った頃には、二人は周囲を見たことのない壁画に囲まれた不思議な空間に出てきてしまっていた。
「んも~、やっと気がついた! ティナってば操られてたみたいな~!?」
「あれ、そうだったの!? ごめんね」
「それにしてもここって……?」
天井まで10メートルは軽くあろうという広い空間、その中央には何か巨大な岩のようなものが鎮座している。
「これって……」
ティナが巨大な岩のようなものにふらふらと歩み寄ろうとした次の瞬間、二人の来た方向から先程の蜘蛛パラドクスがゾロゾロと押し寄せてきたのだ。
「ふえええ!?」
「何、またこいつらなの~!? しつこすぎるっしょ!!」
「キギイイイイイ!!」
金切り声をあげて二人に近寄ろうとする、蜘蛛パラドクスの群れ。
ジリジリと後ずさりをした拍子に、ティナの手が巨大な岩に触れた。
「――ん?」
その時ティナは頭に膨大な情報が一気に流れてくるのを感じる。
そのほとんどが砂嵐で荒れた光景で判別もままならないイメージばかりだったが、ティナは直感的に後ろを振り向いた。
すると巨大な岩だと思っていたものがオレンジ色に光り出し、岩の殻を破って荒々しい恐竜を思わせる巨大な機獣が顕現したのである。
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