リボンの少女に暴君機獣はかしずく

月光壁虎

目覚めし暴君機獣

第1話 出会い

 紺色のパイロットスーツを着た小柄な少女ティナは今、遺跡の最深部でティラノサウルスのような姿の巨大な機獣と対峙していた。


あなた・・・は……?」


 機械仕掛けのティラノサウルスをあなたと呼ぶティナ。


 そんな彼女に、機械ティラノサウルスは顔をおもむろに近づけた。


 これが少女と一頭の巨大な暴君機獣の運命的な出逢いである……。



 新世紀125年の五月頃、青い学生服を着た少女は学校の教室の片隅でふてくされていた。


「はぁ……、こんなんじゃわたし……」


 辛気臭い様子である小柄な彼女の名前はティナ・ララミリア、この春に国立エバー高等学園に入学した一年生である。


 短めに切り揃えた茶髪を結ぶ赤いリボンを揺らして、ティナは未発育な胸の前でぎゅっと拳を握りしめた。


「お父さん、わたし相棒の機獣と出会えるのかな……?」


 ボソリと呟いてため息を漏らすティナ。


 機獣、それはあらゆる動物の姿を象った大型操縦兵器である。


 現状ティナは学園が用意したどの機獣にも適合せず、実技の授業も受けることができずにいた。


 そんな彼女に声をかける一人の少女。


「やっほー! キミ、ティナっていうんだっけ?」

「あなたは、ウタハさん!?」


 目を丸くするティナに話しかけた快活な少女、名前はアイラ・ウタハという。

 ポニーテールに結んだ金髪にスラッとスタイル抜群な肢体といった美貌に加え、成績優秀で誰とも分け隔てなく接する人のよさから男女問わずクラス内で人気が高いのだ。


「どうしてウタハさんがわたしに……!?」

「アイラ、でいいよ! アタシもティナって呼ぶから、いいっしょ?」

「う、うん……。ていうか質問に答えてないよね?」


 ハキハキとしてテンションの高いアイラに、ティナは若干ついていけずにいる様子。


「あ、ごめんごめーん。なんていうかその~、すみっこで寂しそーにしてたから放っとけなくてさ!」

「そうなんだ、わたしそういう風に見えてたんだね……。気を遣わせちゃってごめん」

「気にしない気にしない! アタシが勝手にやってることなんだからさ! ――そうだ! 明日の課外実習、アタシとペア組まない?」

「え、でもアイラちゃんはわたしなんかじゃなくて他に組む子がいるんじゃ……ぎゅむっ!?」


 ネガティブに曇らせたティナの顔を、アイラがムニムニといじくった。


「ほーら、また暗い顔してるー! スマイルスマイルだよ!」

「でも……むぐぅ」

「アタシがそうしたいんだから何の問題もないっしょ! それとも、アタシと一緒じゃイヤ?」

「ううん! そんなことないよアイラちゃん!?」

「それなら良かったよ! それじゃあ今度の課外実習よろしくね~!」


 そう言い残したアイラは、快活に自分の席へ戻っていく。


「わたしなんかがアイラちゃんと……? 大丈夫かなあ……」


 うじうじと悩んでいるうち、クラスは次の授業の時間に入っていた。


「今日の授業はウォーリアーの歴史よ」


 教卓でビシッと背筋を伸ばす女教師のスザンヌの講義を、生徒たちは誰もが食い入るように受ける。


「まずウォーリアーは何と戦うための職業か。分かる人は挙手」

「はいっ。パラドクスと戦うためです」


 挙手して答えを述べた男子生徒を、スザンヌ先生は肯定した。


「そうね。ウォーリアーは人類の敵パラドクスと戦う戦士よ。次にウォーリアーの相棒であり武器は何かしら? はい、そこの君」

「はいっ! 機獣です!」

「その通り。機獣は大昔に作られた獣型兵器を元に量産された、対パラドクス戦闘兵器よ。……正直まだ若い君たちを戦地に送り出すのは私としては心が痛むけれど、機獣は現状君たちの世代にしか扱えないの。それは何故だか分かるかしら、ウタハさん?」

「はい! 機獣は心で動かすものだからです!」


 アイラの発言に、スザンヌ先生はあごをなでて感心する。


「なるほど、それも言い得て妙ね。実際は機獣を動かすにはマインドリンクを繋ぐ必要があるの、だけどそれが何故か君たちの世代しか受け付けないの」


 そんな情熱的な講義を受けつつも、ティナは明日の実習のことで頭がいっぱいだった。


(わたしなんかが本当にアイラちゃんと組んでいいのかな……?)


 そして翌日、ティナのクラスは課外実習と称して学園近辺の野山に来ていた。


 生徒たちはみな自分の機獣に乗っており、ティナだけがアイラの機獣のコックピットに相乗りする形になっている。


「本当にごめんね、アイラちゃん。わたしが機獣に乗れないばっかりに……」

「いいっていいって! そんなこと気にすることじゃないじゃん! それに、アタシのキー坊もキミのこと嫌いじゃないみたいだよ? ね、キー坊」

「グーギュルルル!」


 コックピットでのアイラの呼びかけに、キー坊と呼ばれたラプトル恐竜のような機獣は嬉しそうに鳴いて答えた。


 アイラが乗る機獣はデイノニクス型の小型機獣【アクセルラプター】で、本来は赤の装甲を彼女はオレンジ色に塗装している。


 これが彼女なりの愛なのだろう。


「それにしてもこの耐Gウェア、なんかピッチリしてて落ち着かないよ……」


 ピッチリとした耐Gウェアに戸惑うティナ。


 耐Gウェア、今ティナとアイラが着ているパイロットスーツのことだ。


 機獣のコックピットが頭部にあることがほとんどな以上、このスーツを着ていないと操縦している時の重力に耐えられないのである。


「アイラちゃんはいいよね、幼児体型のわたしなんかと違ってスタイル抜群だもん」


 学校指定の藍色を基調とした旧式耐Gウェアを着ているティナとは違い、オレンジ色の最新式を着ているアイラは出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるナイスバディーがとてもよく映えるのだ。


「えー、ティナのも可愛いと思うんだけどなー」

「そんなことないよ~! わたしなんか胸もないし背も小さいし……ぐみゅっ」

「ほーら、また辛気臭い顔になってるよ! スマイルスマイル!」


 またもティナの顔をムニムニして、アイラは励ます。


「それじゃあ行っくよ~! キー坊!」

「グーギュルルル!」

「ふえっ、ちょっと待って……きゃああああ!?」


 アイラの号令でアクセルラプターのキー坊が駆け出し、ティナは悲鳴を上げた。


 森を駆けるキー坊を操縦するアイラは、どんどん山の奥へ進んでいく。


「この野山の詮索だっけ? 今回の課外実習って」

「そうそう! といっても何も変わったところはないと思うけどな~」


 そう言いながら巧みに機獣を操縦するアイラ。


「やっぱりアイラちゃんはすごいよ、だって機獣を乗りこなしてるんだもん」

「ふふーん、アタシたちベストパートナーだから!」


 操縦しながら豊満な胸を張って誇らしげなアイラに、ティナは羨望の目を向ける。


(わたしも相棒の機獣ができたら、こんな感じにできるのかな……?)


 またしてもネガティブな思考に陥るティナの顔を、アイラがまたムニムニといじくった。


「――ぎゅむっ!?」

「ほーら、また辛気臭い顔してるよー! スマイルスマイルっ」

「う、うん」


 そんなことを話していると、キー坊のレーダーシステムが何かの反応を捉える。


「これって……!」

「行ってみよ! キー坊!」

「グーギュルルル!」


 アイラがキー坊を走らせた先にあったのは、何もない虚空に生じる大きな亀裂からゾロゾロと出てくる蜘蛛のような生命体だった。


「あれってもしかして……!」

「もしかしなくてもパラドクスっしょ! アタシ実物見るの初めてだよ~!」

「なんで嬉しそうにしてるの……!?」


 パラドクスと二人が呼んだ蜘蛛には、マゼンタ色の鉱物質な全身に黒いハニカム模様が刻まれ、頭頂部に赤い光の点が一つある。


「どうしよう、これって報告しなきゃだよね……? って、アイラちゃん!?」


 ティナの判断とは逆に、アイラはズンズンとキー坊を前進させた。


「何するつもりなの!?」

「このくらいアタシとキー坊にかかればラクショーだって!」

「ダメだよアイラちゃん! 独りでパラドクスと戦ったら先生に怒られちゃうよ! それにキー坊ちゃんだって火器を積んでないんだよ!?」


 ティナの言うとおり、この時キー坊は戦闘を想定してなかったために火器を装備していない。


「ヘーキヘーキ! 火器なんかなくったってキー坊には鋭い爪があるんだから!」

「グーギュルルル!!」


 ヤル気満々なアイラに呼応するように、キー坊は二本の脚でパラドクスに向かって突進した。

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