九十五話『謀を読み解く』
新門の外、遮るものの無い大海原に停泊する一隻の巨大船舶。貨物船に偽装したそれこそ、新門で暗躍するマフィアたちの前線基地である。本拠地から運んできた麻薬をこの船で更に小型の貨物船に乗せ換えて新門へと運び込むという訳だ。
「
重たい鉄の扉を開きながら、
それは
「卿の予想通りだ。烈火の如き怒り、随分と手ひどくやられたとも。なだめるまでに随分と掛かった」
「クソババアが」
「まったくな、ババアの相手も楽ではない」
「血、いるか?」
「いや、遠慮しておこう。これからのために卿は常に万全の状態にしておきたい」
アリス・ウォルコットを取り逃がしたことに加えて、予期せぬ異端審問官の介入。なんとか切り抜けたものの、気を抜けない状況だ。
「どうだ、
「お前も戦ったから分かるだろ。勝てたのは偶然……いや、初見殺しでようやくだ。次は分からない」
「ウォルコット・ファミリーの時のように戦力を集中させられるならいいが、
「だが、本当にあの異端審問官たちが
「そうでなければ今頃、異端審問所にやられて
たった一人の異端審問官のせいで
「厄介だな。もう一度、デカい抗争になる。魔導甲冑は戻ってきてるが……」
「しかし、それだけが厄介ごとではないぞ。今回の仕事、妙に物資が豊富だとは思わないか?」
「確かに弾は使い放題で魔導甲冑も手に入っているが。それだけ、あのババアが本腰を入れて次のボスを狙いに行くというだけでは?」
「なら良かったが。この仕事、どこかは知らないがパトロンには軍閥が付いているようだ」
前皇帝の死後、華炎では覇権を巡って群雄割拠の時代が続いている。軍閥と呼ばれる各勢力は、今日も相手を下すために新たな力を求め続けていた。その為には国外に勢力を伸ばす必要も出てくる。
「オレ達はしっぽ切りの簡単な尖兵ってことか」
「ああ。おそらくこれは華炎マフィアと
「異端審問所が引き気味な理由もこれか」
「もし
が、背後にある勢力同士の事情が分かったところで
「けど、やるしかない。オレ達が生きていく方法なんてこれしか知らないんだから」
「そうだな。もちろん
そう言って部屋の隅に立てかけられた黒いケースを指さす
「最近、マフィアと接触したある商人からようやく送られてきた代物だ。お値段たったの千元」
「千元……先生か。生きてたんだな、どこかで野垂れ死んでるかとも思ったが」
「あの人の死に様を想像できるか?」
「無理だな。頭吹き飛ばしても死なないんだぞ。どうやったら死ぬのかオレが教えてほしいくらいだ」
懐かしい存在の話を耳にして笑う二人。
『
「アンタたち、なーに笑ってんの?」
「——『
入ってきたのは、燃えるような紫のツインテールに暗い青の瞳が特徴的な女。体に張り付くような特殊部隊を思わせるスーツにマント代わりの寒冷地用のジャンパーを身に着けている。裏地に縫い付けられたポケットには無数の爆弾が詰まっている。
「相変わらずの面。
笑う
「
「あら? 仲間にこんなことをしちゃいけない、って学校で教わらなかったのかしら?」
「オレもお前も、学校なんぞ行ったことないだろう。鳥籠お嬢様?」
「今ここでブチ殺してやろうか!」
一触即発の空気にため息をつく
「やめろ二人とも。
「チッ、アンタに免じてコイツを殺すのは止めにしてあげる。で、本題なんだけど、『
「そちらは上手くいったか。これで少しは時間が稼げる。
「元気そうだったわよ。チンチンが消し飛ぶかと思ったぜ、なんて言ってたかしら? そのまま消し飛んでくれた方が良かったのだけどねぇ。そうすれば、女と見れば声を掛ける悪癖も治ったんじゃない?」
ずいぶん酷い評価の
「
「だーれの声が不愉快よ! アンタこそイラつくからさっさと消えてもらえる?」
「
「何? 逃げ出したガキを探せとか言わないわよね?」
「その通り。卿には逃亡したアリス・ウォルコットの捜索と確保の任を与える」
「うっげー! クソめんどくさいヤツじゃない! アンタね、私の得意分野分かってる? もっと爆弾使ってパーッと殺せるようなのにしなさいよ!」
「その代わり、アリス以外に被害を押さえる必要は無い。後で資金も多めに回してやる」
「それを早く言いなさいよ! 気前いいじゃない!
「……分かったら次の船で新門に戻れ」
じっとりとした目で
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