第24話 鳥になって

(鳥になって)


「じゃあ、さっきも言ったけど、この木で練習だー、ツリークライミングっていうんだ。きっと上からの眺めは最高だよー!」


 私たちは庭から花壇を越えて、白樺やこぶし、唐松の林の中に入った。

 お兄さんは、少し奥に入ったところの一番太くて、高いしなの木に決めたようだ。

それから、分銅の付いた細いロープを思いっきり振り回して投げた。

細いロープは、高い所の太い枝に掛かり落ちてきた。それから細いロープを道糸にして太いロープに変えた。


「この木に登るの?」


「そう、このロープと道具を使って、ハーネスで体を支えながら、足をこのあぶみに通して蹴飛ばして、その勢いで登るんだよ」


 木に登るといっても、じかに木にしがみついて登るのではなく、高い所の枝にロープを渡して、そのロープを昇降機とストッパーを使って、垂直に登っていくのだ。


一時間ぐらい、彼について練習した。

思ったより簡単だった。

 私も、彼のようにすいすいとは行かなかったが、でも手と足を使ってロープを垂直に登れた。


 登るというよりも、ロープに繋がっているあぶみのような輪っかに足を入れて、それを蹴飛ばすと、その弾みで体が持ち上がり、一度持ち上がると、ハーネスにつながっているストッパーが引っかかり、持ち上がった場所で止まる。それを繰り返すと、尺取虫が木に登るようにあがっていく。


「凄い凄い、なんて綺麗な眺め……」


 木の上から見るペンションと、それを彩る周りの花々が箱庭のように美しい!

 下とはまた違った冷たい風が心地よい。


私は、しばし悠然と空の上から下界を眺めた。

 こんな世界もあるのねー、ちょっと鳥になった気分だった。


「大丈夫かい……?」

 お兄さんが下から心配そうに叫ぶ。


「いい眺めよー!」


「それはいいけど、今度は下で教えたように下降器に切り替えて、ゆっくりブレーキをかけながら降りてくるんだー、慌てないように……」


 昇降機から、下降器に切り替えるときに一段がくっと落ちたが、ハーネスは私を確り受け止めてくれた。

 要領さえ分かれば、フィールドアスレチック感覚で遊べそうだ。


「なかなか度胸あるねー、内の部の子たちでも、なかなか最初は上手くできないけど……」


「そうですか、命がけですからー、それに運動神経はいいんです。おてんば娘の母から生まれたので……」


「じゃあ、おてんば娘さん、もう一回ロープ結びからやってください!」


「私は、おてんばではないですよー、母と違って、上品なの……、さっきはお姫様って言ってくれたのに……」


「だって、お姫様は木に登らないでしょう!」


「あーあー、ひどい……」



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