第2話 逆行凡人VS天才勇者


 『神代ナギ』は最強の人間だ。



 圧倒的な才能で戦闘訓練は常に一位。

 頭脳明晰で座学は上位をキープ。

 人柄も良く誰とでも分け隔てなく接することができ友人も非常に多い。

 迷宮での探索活動にも積極的で、クエストをマメにこなして大金持ち。

 伝説の聖剣を担う選ばれし存在。

 実家も名のある名家らしく、権力まで備えているという、ちょっと何言っているのかわからないレベルの存在だ。


 オマケに奴はビームまで出せる。


 ハイスペック過ぎんだろ。


 逆に何なら持ってないんだよ、お前は。


 ______とまあ、文句をいわざるをえない人間が神代ナギという存在だ。


 そして10年前に、入学直後に、そんなバケモノと対戦したのがこの俺だ。

 

 酷い戦いだった。


 例えるなら、ゲーム開始のレベル1でいきなりラスボスが攻めてくるとか、あるいはラノベ主人公を引き立てるやられ役視点を見せられてるような内容だった。


 いわゆる秒殺。


 中古の愛剣を真っ二つに折られ、金のない俺は泣きながら半分になった剣でダンジョンに潜ったのは苦い思い出だ。


 まあ神代ナギが詫びで代わりの剣を買い直してくれたんだけどさ。


「あれ受け取らなかったのは、無駄なプライドだったよなぁ」

「え? 何の話?」

「いや別に、こっちの話」


 きょとんと小首を傾げる神代ナギを観察する。


 綺麗にセットされた白髪と、空を切り取ったような蒼い瞳。

 身体つきは少し華奢だが、俺より高い身長から察するに170はあるだろう。


 自慢の聖剣は腰の鞘に収まったままだが、まったく隙が見当たらない。


 保有魔力もバッチリ整っている。


 相変わらず完璧なやつである。


 

 めんどくせぇなぁ、戦いたくねぇなぁ、とか考えていると、歓声の中からボソボソと小さい声が聞こえてしまった。


【ねぇねぇ、どっちが勝つと思う?】

【ナギ様に決まってるじゃん! てか相手誰?】

【弱そう】

【勝てるわけないでしょ】

【うわ、装備ボロボロじゃん。ナギ様見習って見た目に気を遣えばいいのに】

【そんな余裕ないとかいうんでしょ? ほんとダサいよね】

【戦う前から勝負ありだなw】


 声の大本は神代ナギのファンだろう。

 まあアイツらからすれば重要なのは神代ナギだけだろうし、対戦相手なんて毛ほども興味ないに決まっている。

 言葉を纏めればどうせ勝てないんだから、さっさと負けろといったところだろうか。

 

 まあ「神代ナギと対戦して勝つ」ということの難しさは俺も理解してる。装備がボロいのもその通りだ。


 でもさ。


 10年前の俺は、少なくとも勝とうとしてこの戦場コロシアムに上がってたんだぜ。

 

「.........ごめん。後で彼らには、僕から注意しておく」


 申し訳なさそうに謝る神代ナギを見て、そういえばコイツはそういう奴だったと思い出す。


「別に気にしてねーよ」

「そ、そう?」

「弱い奴を叩きたがるのは人間の本能だからな、むしろその素直さは同じ人間サルとして誇らしいよ」

「滅茶苦茶怒ってない!?」

「どうかな。まあ、お陰でやることは決まったよ」


 コロシアムの中央に立って向かい合う。


『それでは両者剣を!』


 互いに剣を剣を構える。

 神代ナギは正面へ向き合うように、俺は剣を地面に垂らすように。

 あとは開始の合図を待つだけだ。


対戦開始Battle・Engage!!』

 

 瞬間、俺は神代ナギの視界から掻き消えた。


 いや、正確に言うなら消えたような速度で神代ナギに接近した。


 気付いた神代ナギが目を見開くが、もう遅い。


「先手必勝ォ!」


 構わず思い切り剣を振り下ろす。


 神代ナギは天才だ。


 やがて世界を救うほどの逸材だ。 



 だが、『人類最強』と呼ばれるようになるのは、もう少し未来の話だ。


 


 

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