第46話 皇帝はかく語りき・幕間
旅だったセツが居なくなったことを除けばそれ以外は今までと変わらない毎日は続き、子供たちをお姉さん役としてまとめていたセツが抜けた事で私が子供達に呼ばれることも増えて賑やかな毎日は今までよりもほんの少しだけ慌ただしかった。
日常生活に支障がない程度に動けるようにはなったが、それでも奥の手を使った反動も完全に抜けきっておらず、関節が痛み身体中の筋肉が凝っているのもあって毎日が終わるとへとへとになって泥のように眠る、そんな生活に忙殺されていた。
―――そしてそれは、ラウル達が旅立って暫くした後のある夜の事だった。
「聖女様、天に虹が!」
駆け込んだ修道女の子の言葉に、なんだか不思議な胸騒ぎを覚えて教会の外に出ると天にどこまでも続くような極光が描かれていた。成程、天に虹。いい得て妙だが上手に表現をするなと感心してしまった。だがそれよりも、その極光をみて感じることがあった。
「……セツ」
明確な理由があったわけではないけれど、その極光を見て―――セツが逝ってしまったのだと直感で理解した……してしまった。旅先で、何かがあったのだ。
……おそらくそれはどうしようもない事で、ラウルやファルティが一緒にいてもどうにもならなかった、そういう運命。
だからラウルやファルティやあの災厄を責めるつもりはないが、それでも哀しい気持ちに押しつぶされそうになる。
そんな中でしんしんと、しんしんと季節外れの雪が降りはじめた。
まだ起きていた子供たちは窓の外に雪が降り始めた事に喜びの声を上げているのが聞こえる中、降り注ぐ雪の中でひときわ大きな氷の結晶がゆっくり、私の元に降ってくるのが見えた。
地面に落ちてしまわないように両の掌でそっと受け止めると、その結晶は掌の上で小さく一度弾んだ後、砕けるようにして消えてしまった。
「……約束通り、還ってきてくれたのね」
セツが最後の力を振り絞って此処に還ってきてくれた事に泣けばよいのか労えばよいのかわからなかったけれども、そこでもしもセツがみているのならと精一杯微笑んで見せる。
「貴女はとても優しい子。私の自慢の娘よ」
消えてしまった結晶を名残惜しむように優しく告げる。そんな私の様子に周囲にいた他の修道女の娘達が何が起きているかを理解して、哀しみ、震えている。
……きっと、あの子は私たちを救ってくれたのだと思う。いつも口数が少なかったり、たどたどしい言葉だったけれど他の子たちにも優しい子だったから。だから最後は涙ではなく笑顔で見送ってあげたいと、そう思ったから。
雪が降り積もってくる中、私は空の極光が消えるまで空を見上げ続けるのだった。
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四章・了
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