第27話 歪んだ教義と聖女の信義④~先遣隊遭遇戦・瞬殺~


「子供達は建物の中へ、衛兵は守りを固めてください。敵軍へは私が行きます」


大人たちの慌てた雰囲気にイレーヌがてきぱきと指示を出していく。そしてそんなバタバタした動きにセツちゃんが目を開ける。


「わるいやつらがきた私のでばんのきがする」


「出番じゃないのでゆっくり寝ていていいですからねトントン」


 流れるような動きでセツちゃんを再び寝かしつけているイレーヌ。……しかしイレーヌには城の中にいてもらった方が俺達も楽なんだよな。


「教会の連中には聞きたいたい事もあるし俺達が出る。イレーヌは中で子供達を落ち着かせていてくれ」


「安心しなさい、きっちり全滅させてきてやるわ」


 俺とファルティは武器を手に取り外に駆け出し、街の中を走り抜ける。城門が開くのを待たず城壁を飛び越えて表に出ると彼方にみえる土埃から軍が迫ってきているのが見えた。その集団は法服を来た僧兵の他に、上半身裸のならず者まがいや傭兵崩れもいる。比較的軽装な者が多く攻城兵器なども見受けられないので迫ってきているのは偵察を兼ねた先遣隊だろうか?それでも数百人規模はいるので相当な規模だ。


「街の近くで戦って巻き添えが出るのも嫌だから突っ込みましょう」


「その意見に賛成だな」


 ファルティの言葉にそのまま駆け出していく。


「数は多いですがあの程度じゃいないも同然ですね。どう瞬殺するんですか?」


 さも当然のように並走してくる魔神については無視し、城からかなり離れた地点で丁度教会の軍と対峙した。


「止まれ!何しにここにきた?貴様たちの指揮官は誰だ?!」


 大音声で叫ぶと、剣を抜き盾を構えた俺と射撃の姿勢を取ったファルティに敵の先方も気づいたようで、動きを止める。

 馬に跨り兵卒とは違う上等な鎧を着た騎兵が俺達の言葉に反応してきた。


「私だ。……まさかお前は天騎士、生きていたのか?それにその小汚い長耳は神弓か」


 おーおー好き勝手言ってくれるな、ファルティはエルフの国の王女だぞ。


「生憎と生き汚くてな。それよりここはイレーヌの統治する地の筈だ、軍を率いてくるとは穏やかじゃないな?」


「フン、あの下賤な売女は最早聖女にあらず、教会に仇名す反逆者よ。処刑命令は出ている!あの女に与するのなら貴様たちも同罪とみなすぞ」


「同罪も何もイレーヌは何も悪い事してないでしょ。勝手なこと言ってるのはあなたたちじゃない」


「喋るな雌餓鬼!!!!!!貴様ら薄汚い劣等蛮族が我ら人間に意見しようなどと無礼極まりない!!万死に値する!!!」


 そういってファルティを指さしながら怒鳴り散らす騎士。篤信派の差別意識については聞いていたけれども聞きしに勝る酷さ、というかファルティとお前じゃ相手にもならんだろうに何だその自信は。


「随分な物言いだが、勇者の仲間3人を相手にしてお前ら本気で勝てると思ってるのか?」


 もちろん逃がすつもりはないし、後顧の憂いを断つためにここで全滅はしてもらうが……可能な限り情報は引き出しておきたいので会話を続ける。ファルティも頭に青筋浮かべてはいるが耐えてくれているしな……旅の時は挑発されたらホイホイキレたりミミックにかじられたりそそっかしかったけど随分成長したんだなと少し感動する。


「フハハハハハ!そうか。貴様らは知らなかったのだな。最早女神などという存在は不要なのだ。カビの生えた神ごときに縋る時代は終わったのよ。

 お前たちは女神に与えられた借り物の力を自慢にするだけの愚物、それは自分自身の力ではない!!

 だが帝国はロジェ殿の協力と長年の研究でついに女神の力の一端の解析に成功し、その力を“魔科学”で人工的に再現する事に成功したのだッ!!

 そして今の我ら篤信派は帝国より聖女討伐のために武器供与を受けた上で舞い戻ったのだ!!先のような敗走などありえぬ!我らの勝利は約束されている―――もはや貴様らが絶対の存在である時代は終わったと知れッ!!」


 成程それは興味深い話だ。帝国が災厄を自分たちで倒したというのもあながち嘘じゃない気がするな、段々と話が繋がってきたぞ。

 帝国が本当に自分たちで災厄を討伐できるようになったのなら用済みの勇者パーティを始末するという事にも納得がいく。

 ……しかし教会の篤信派が俺達の力を女神の力の借り物というのなら、その自慢の武器とやらも帝国の借り物なのでは……?まぁ、勝ち誇ってベラベラと喋ってくれたのはありがたいし聞きたかった情報が色々と聞けたな。この指揮官は捕らえて情報を吐かせ(ごうもんす)るか。


「さぁ、話は終わりだ。……ここまで喋っていたのは兵士の準備の時間を稼ぐため。すでに射撃のための魔力装填は完了している!天騎士も神弓も、聖女諸共に葬り去ってくれるわ。さぁ、魔導砲兵、射てえー!!!」


 騎士の言葉に兵士たちが長細いつつのようなモノ―――前世の知識がある俺からするとマスケット銃というのがしっくりくるそれを構えて射撃する姿勢をとる。


「ファルティ、魔神、後ろに下がってろ―――天剣、魔剣!」


 数十の兵士の銃口がこちらを向いているが、瞬時に障壁を発動する。

 射撃の威力がどれほどのものかわからなかったので、天剣に加えて魔剣を同時に発動し黒い瘴気で強化した障壁を展開。―――それと同時に大小の破裂音が響き魔力の弾が発射されて続けざまに障壁に命中し、ひび割れが走った。魔剣の瘴気がそのヒビを漆喰のように補って全ての射撃を防ぎ切ったが……危なかったな、天剣だけだったら本当に貫通されていたかもしれない。自信満々に言うだけの事はあるようだ。


「ファーッハッハッハ!!勇者の一行も我らの敵でわなかったな!!これが文明の力だぁ!!思い知ったか虫ケラどもめが。さぁ、奴らの首級を……あぇ??」


 土埃が治まり俺達が健在なのをみて騎士が間の抜けた声で驚いている。


「成程、いや勉強になったよ。大した力だ、本当にすごい。……だが無意味だったな」


「な、なななななななぜ無傷?!確かに天騎士の障壁を破るだけの火力は在る筈!?ま、まさか帝国のカスどもが我らを謀ったのかぁー!!!!?」


 いや、謀ってないと思う。天剣しかなければ普通にやられてた可能性が高いから、お前たちは帝国に感謝していいレベルだと思うぞ。


「は、早く弾を込めろ、次弾装填を急げぇーッ!!」


「――――そんな事させるわけないでしょ!!」


 ファルティが言葉と共に月皇弓を引き絞り矢をまき散らすと、兵士たちの頭が、身体が射貫かれ千切れはじけ飛ぶ。連中の銃は威力はあるが連射ができるわけじゃないんだな。


「ふぁ、ふぁああああ!?ふぁあああ!?嘘だ、嘘だこんな事があるはずが?!帝国めぇーッ?!くそっ、誰でもいいはやくあいつらを撃てぇーっ!!」


 逆上し帝国への怒りを叫びながら指揮をする騎士だが、帝国は約定通りに過剰な戦力を供与してくれていたと思うのでそこに逆切れするのは筋違いだと思うけど、あえて言うまい。


「ラウル、このまま障壁の安全地帯から連射撃ちで全滅させるけど障壁は大丈夫?」


「余裕」


「当然です、その魔剣はこの私の作り出した傑作っ!ですからね」


 ファルティの言葉に俺と魔神の返事が続く。


「う、うぉっ?!くっそぉぉぉぉ退却だ!俺は逃げるぞっ!こいつらの存在を本隊に報せねば―――」


「――――残念、逃がすかよ」


 騎士までの道を塞ぐ兵士を斬って棄てて文字通りに道を斬り拓いて駆け寄り、馬上に跳びかかって騎士を引きずり落とす。


「ヒィィッィィィ?!」


「戦場では不測の事態はつきものだ。お前が戦場慣れしてなかったのが運のツキだったな」


 そう言いながら武器を抜かせぬままに両腕を切り落とし、ついで両足をへし折る。


「アンギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」


 騎士は汚い絶叫と共に気を失い、兵士たちはあっという間に総崩れになる。


「鳥撃ちよりも簡単ね……物騒な長筒持ちは全員射殺したから後は普通の兵士だけよ!」


 そんなファルティの言葉と共に、降り注ぐ魔力の矢が軍勢に降り注ぎ入念に根絶やしにしていく。

 ……こいつらが戦い慣れしてないので油断と慢心であっさりと返り討ちにできたが、帝国から供与された武器そのものは侮れない。折角だし回収してイレーヌの街の防衛に使うとして……本番は騎士の言っていた本隊だな。

 剣や槍を手に迫ってくる傭兵崩れやならず者を返り討ちに斬り捨てながら、俺は本隊にどう対応するかと思案を巡らせるのだった。

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