25.藪から出てきた一握りの勇気。
で、だ。
要は我が幼馴染こと
が、一向に反応が無かったので、こうして、自室にいることが確認出来るタイミングを狙って、ゴムボールを窓に当てるという、トンデモ原始的な手段を用いた、というわけだ。それも全て、俺と連絡を取るために。
なんだよ、幼馴染。恋愛感情なんか微塵もないんじゃないのか?それとも、いざ、強力なライバルが立て続けに出現したもんだから焦ったか?ふふ、可愛いやつめ。そう考えると、友達以上家族未満の暴力女が途端に魅力的に見えてくるじゃないか。
しかも、ごらんよ、やつの恰好を。うっすいうっすいノースリーブですよ。下に何を履いているかは、残念ながら分からない。ベランダ越しという構造上の限界だ。しかしまあ、随分とラフというか、気軽なこと。ちょっと斜めからのぞき込めばブラのひとつやふたつくらい確認出来てしまいそうだ。あ、ふたつはないか。あるとしたらパッド。
と、まあ、俺との距離感の近さを感じるラフな格好をした幼馴染は、
「全く……女の子からの連絡を無視するとか、そんなんだとモテないぞ」
「モテるかどうかはともかく、自分を女の子にカテゴライズするとはなかなかいい度胸……あ、嘘嘘。嘘だから。女の子してるから。やめて、ガチの硬球を至近距離で全力投球する準備を始めないで。今時珍しい綺麗なワインドアップからの顔面ど真ん中を狙うピッチングしないで」
「全く……」
よかった。やめてくれた。危ない危ない。なんだったらホントにやりかねないからな……
「で?なんの用だ?」
「ん?」
「だから、用があったんだろ?」
「ん?うーん……」
微妙に煮え切らない明日香。なんだろう。こういう言い方はあれだが、明日香らしくない。どんなことだって即決するし、言っていいものか、言ったらいけないものかを悩むくらいなら言ってみて、傷つけたり、怒られたら、その時謝る。それが時雨明日香流のはず、なのだ。それが、口にするかどうかで悩んでいる。珍しいことだ。
仕方ない。
俺は、
「どうした?愛の告白か?いやぁ、それならば言いよどむのも分かる。だがな、明日香。そういうものは後回しにしたって何にもならないぞ。見ろ。世のラブコメを。告白する勇気が出せない奥手なヒロインがどういう末路を辿るのかをもう一度確認してみるといい。そうでなくとも、お前は幼馴染という、一見アドバンテージに見えるディスアドバンテージを抱えているのだ。その状況から挽回しようというのであれば、それ相応の決定打が必要になる。時間は待ってくれないぞ、明日香。告白一つためらうことで、他のヒロインたちはあの手この手を使って主人公を篭絡しようと考えてくる。立て!幼馴染!負けヒロイン確定という汚名をそそぐのだ!」
あえて、ふざける。
ありえない。
このタイミングで、一番なんのイベントも無かった幼馴染の明日香が告白をしてくる、なんてことがあるとは思い難い。思い難いが、これでいい。
きっと、彼女のしたい“話”というのはこれよりも些末なことのはずだ。
こうやって無駄に期待のハードルを上げ、ふざけてやることで、踏ん切りをつけやすくなるはずだ。そんなことあるわけないでしょ。そうじゃなくてってね。きっと、漫画を貸してくれだとか、宿題を見せろだとか、そんな些細な話のはずだ。
「あはは、相変わらずだね、
「そうだ。俺は俺だ。そこが変わることは無いぞ。そんなことよりも、そんな「幼馴染との和やかな会話」に終始してていのか?今こそ立ち上がれ若人よ!
それを聞いた明日香はからりと笑って、
「また仰々しい……ん、でも、もったいぶってても仕方ないね。えっと、明日の放課後なんだけど……」
今考えてみても思う。
うかつだった。
考えてもみろ。このセカイでの幼馴染だぞ。主人公・
が、それはあくまで俺の見立て。
視点を変えれば、景色も変わる。
明日香がどう考えているかなど、そのクオリアなど、俺からは決して覗き見ることなど出来ない。
これが、ゼロ地点より前だったら。
俺が毎朝のようにこまちに起こされて登校し、文芸部で、けして恋愛になど発展しえない男女の時間を過ごしているだけの、決して平凡ではない恵まれた環境で、代り映えのしない毎日を過ごしているのであればきっと、ここから先はありえなかっただろう。
改めて思う。
うかつだった。
今、現在、俺を取り巻く環境は大きく変わっている。
居候の自称トゥルーエンドヒロイン・
転校生の美少女・
対抗馬という触媒を得た幼馴染・時雨明日香が取る行動は、
「私と、付き合ってください……なんちゃって」
ちょっとばかし、アグレッシブになっていたのだった。
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