21.今日も人はワンクールヒロインを追い求める。
三人分の感嘆句。ただしそれぞれが持っている意味は大分違う。俺の場合は「このアマなんてことを口走りやがるんだ」で、他二人は「え、今なんて言った?同棲?」という意味だ。
いや、違うな。千代の方は多分そこまで思考が行っていない。あまりの衝撃に脳がキャパオーバーを起こしている。脳内コンピューターが永遠の読み込みタイムに突入中だ。
従って、取り合えず放っておいていい。いま問題なのは、場を引っ掻き回すことしかしないメインヒロイン(笑)様と、それに恐らくは興味津々で食いつくであろう、
この場合どっちから行くべきか。
まず
おいこら同じ屋根の下とはどういうことだ。そんな誤解を招くような表現をするな。単純に同じ家に、いや、だから、ただ同じ家に住んでいるってだけで、同棲ちゃうわ。そんなことしてない。おいこらお前。その誤解しか招かないような表現を辞めなさい。あ、いや、違うんだよ
うん。
駄目だこれ。
天野が復活するまでに事態に収拾がつくビジョンが微塵も見えてこないぞ。
え、ええい。それならもう片方だ。
こちらもまた、口から先に生まれたような相手だが、場をかき回す気がない分まだましだろう。
「小峯。お前が今何を想像しているのかは分からないが、単純に」
と、語りだすと、小峯が手で制して、
「分かってます。みなまで言わなくても大丈夫です」
「ほんとかぁ?じゃあ、お前のその分かってる内容について言ってみろ?ん?」
「…………ぽ」
「はい間違い」
「ま、間違いってなんですか。私、まだ一言も」
「そんな頬を赤らめている時点で間違いだ。後、口で「ぽ」なんて言うなわざとらしい」
「えー可愛くないですか?」
「可愛くない。第一、可愛いっていうのはそういう作為的なワードで作られるもんじゃないんだよ、ラブコメ舐めんな」
「や、舐めてないですけど……」
「いいか?印象に残るヒロインってのはな。どこかで聞いたようなフレーズは言わないんだよ。お前、今どき、ツンデレヒロインが「べ、別にアンタのことなんか好きじゃないんだからね!」なんてフレーズを吐くと思うか?」
「や、それはまあ、ちょっとテンプレだなぁって思いますけど……」
「だろう?そうじゃないんだよ。ツンデレだって、感情を表に出せないヒロインだって、それらは全て進化し、アレンジメントをくわえられ、日々、皆のワンクールヒロインを乗り越えていくんだよ。それがなんだ。口で「ぽ」で可愛いですか?だと?お前、ラブコメを舐めているのか?」
「いや、だから舐めてませんってば」
「なら、金輪際、そんな安っぽい、どこの馬の骨とも知れないような、たまたま人気ジャンルを題材にして書いたから作家になれただけの雑魚が作ったキャラクターがいかにもいいそうな三文台詞は言わないと誓えるな?」
「はい。誓います。神に誓ってもう言いません」
「いや、神なんてものに誓わなくていい。俺に誓ってくれればな」
「はい。分かりました」
「よろしい」
ふう……これでいい。これで安易なキャラクターによって紡がれる、どこかで見たような、お遊戯会もびっくりのテンプレラブコメになることは避けられた。よかったよかった。
さて。
「で、だ。小峯」
「は、はい。なんでしょうか!」
小峯が背筋をピンとさせ、敬礼する。別にそこまでしなくてもいいんだけどな。まあいい。
「このア……高島は」
「今このアマって言おうとしただろう」
うるさい黙りなさいよこの問題児。システム上だかセカイの理だかなんだか知らんけど、攻略対象にならないからって好き放題しおって。今に見てろ。そのうち貴様の番だ。楽しみだなぁ。こういうタイプの面倒な女はきっとさぞかしギャップが凄いんだ。さぞかしいい声で啼いてくれるんだろうなぁ。くくく。
とと、そんな話をしたいんじゃない。
軌道修正。
「……高島の両親はな。俺の両親と知り合いなんだ」
「はー」
「ある日。高島の両親が仕事の都合で海外に移住をすることになった。しかし、高島は既に絶賛高校生活を満喫中だ。困った高島家は、我らが立花家に頼み込んできた。その結果、俺や妹のこまちがいる家に、一人、家族が増えるような形になった、というわけだ」
「へー」
「ま、早い話が居候だ。家族ぐるみの付き合いだから、助け合う。袖振り合うも他生の縁。渡る世間に鬼はない。そんな感じ。分かったか?」
「は。はい!分かりました」
再びの敬礼。だから、そんなに……まあいいや。扱いづらいよりゃよっぽどいい。
そこでようやく、
「え、えっと……あの、
千代が会話に復帰した。
いや、今の今までフリーズしてたのかよ。
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